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個人事業主が福利厚生費を計上する方法と間違えやすいポイントを解説

2021/05/21更新

この記事の執筆者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)

「福利厚生」とは、従業員のために事業主が用意している制度です。給与以外の面で従業員の生活を支えます。

この福利厚生の制度、実は法人だけでなく個人事業主でも設けることが可能。また、福利厚生費は必要経費として計上できるので、その分納める所得税を少なくすることができます。

それでは、個人事業主が福利厚生の制度を利用することはできるのでしょうか?どの範囲まで福利厚生費として認められるのでしょうか。税理士の渋田先生に解説していただきます。

POINT

  • 福利厚生には、社会保険・雇用保険といった法定福利と、それ以外の法定外福利がある
  • 個人事業主の場合、福利厚生費が認められるのは事業主本人や家族以外の従業員がいる場合に限る
  • 個人事業主本人や事業専従者などその家族のための支出は基本的に福利厚生費として認められない

福利厚生費とは

そもそも「福利厚生」とは、従業員を雇用する上で、給与とは別に従業員やその家族のために用意するサービスのようなものです。福利厚生には、法律で定められたものと事業主が独自に用意するものの2種類があります。

法律で定められたものとしては、雇用保険労災保険健康保険厚生年金保険といったものがあります。これらの保険料は事業主と従業員がそれぞれ負担することと法律で定められています。このうち事業主負担の部分が、法律で定められた福利厚生となります。

法律で定められた福利厚生ということで、特にこの金額を「法定福利費」と呼びます。それ以外の事業主が独自に用意しているものを単に「福利厚生費」として区別しています。

一口に福利厚生費といっても、さまざまな種類があります。例えば、従業員が仕事中に飲食するために用意したドリンク・お菓子の購入費用や残業時の夜食、出張に行った際の出張日当といった日々発生するもの。それから、従業員が結婚したときなどの慶弔費や社員旅行費、従業員の歓送迎会、事業主が用意した保養所の利用といったスポットで発生するようなものまであります。

福利厚生を導入するメリット

福利厚生の制度を導入するメリットとして、従業員が「自分たちは大切にされている」と感じることで働く意欲が向上することが考えられます。従業員から事業主の顔が見えやすい個人事業主や小規模な企業において、このメリットは大きな効果があります。そのほか、採用活動をする際に福利厚生が充実しているということを打ち出せれば、プラスに働くでしょう。

また人事面のほかにも、福利厚生費として認められれば事業主にとっては必要経費として計上できるというメリットもあります。さらに、福利厚生の恩恵を受ける従業員にとっては、所得税が課税されないという点があります。例えば慶弔費として従業員がお金を受け取っても、そのお金には所得税が課税されないのです。

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事業主本人とその家族に福利厚生費は認められない

福利厚生費は、給与以外で従業員の生活の支えとして事業主が負担するものです。例えば、個人事業主が青色事業専従者などの家族従業員と旅行に行ったからといって、それは単なる家族旅行であって、経費にはなりません。福利厚生費は、家族以外の従業員のために支出する経費を計上するものであり、家族従業員への支出については認められません。

もちろん、個人事業主1人だけの場合も福利厚生費というものは成り立ちません。個人事業主がいずれ法人成りした場合であっても、社長一人の会社であれば福利厚生費を計上できません。(例外的に旅費日当については、社長一人の会社でも規定していれば、認められます。)

それでは、家族経営の個人事業主が法人成りした場合はどうでしょうか?この場合でも、個人事業主時代と同様に、基本的には福利厚生費は成り立たちません。「法人格は社長とは別の人格だから、法人から見れば家族もその他の従業員も同じ立場のはず」という理屈も考えられますが、実態は会社のお金を通して、家計のお金が移転しているだけです。

ただし、もし家族以外にも従業員(パート、アルバイト含む)がいて、その人と同じ福利厚生の制度を適用するというケースであれば、家族従業員への福利厚生にも適用の余地があります。

福利厚生費として認められる条件は?

福利厚生費を必要経費として計上するには以下2つの条件を満たしている必要があります。

  • 全従業員に平等に適応されること
  • 社会通念上妥当と思われる金額の範囲内であること

一つずつ解説します。

1.全従業員に平等に適用されること

「慶弔費は正社員にしか出さない」「社員旅行は特定の従業員のみ」といったようなケースは、福利厚生費と認められません。特定の従業員にのみ支給する場合は、福利厚生費ではなく給与として慶弔費や旅費などの費用を計上し、本人に所得税として課税する必要があります。

話は多少それますが、福利厚生費が必要経費として認められるかどうかという税務的な側面のほかに、同一労働同一賃金も考慮する必要があります。福利厚生制度も同一労働同一賃金の対象です。例えば、食事補助などを正規雇用の従業員のみに支給し、有期契約のアルバイトなどには支給しない場合、税務だけではなく同一労働同一賃金の法にも抵触する可能性があります。福利厚生制度の対象となる従業員、金額や算定方法について、しっかりと就業規則などで文書化しておきましょう。

全ての従業員に平等といっても、働き方や役割の違いなど合理的な理由があれば、金額に差を設けることについては問題ありません。例えば、慶弔費についてフルタイムは5万円、アルバイトは1万円といった決め方でも問題ないです。

2.社会通念上妥当と思われる金額の範囲内であること

福利厚生費としてあまりに高額すぎる金額は認められません。ただし、金額の上限が明示されているわけではないので、どのくらいの金額までであれば認められるのかということは、はっきりしません。とはいえ一つ目の要件である「全従業員に平等に適用されること」という条件も合わせて考えれば、そこまで過大な金額にはならないはずです。

設定する金額は、全従業員に適用するという条件のもとで事業主が支払える範囲内になります。その結果設定された金額であれば、それは「社会通念上妥当」と考えてよいでしょう。

福利厚生費と間違いやすいもの、見分けるポイントを具体例でチェック

上述のとおり、福利厚生費が必要経費として認められるためには条件があります。その条件を満たしていても、福利厚生費に該当するのか別の勘定科目を使用すべきなのか迷うこともあるでしょう。そこで、どのようなケースが福利厚生費に該当するのかについて、いくつか具体例で確認してみましょう。

福利厚生費と交際費や会議費の違い

よく処理に迷うポイントとして挙げられるのが、福利厚生費と交際費や会議費の違いです。福利厚生費とは従業員のための支出です。同じような支出をしたとしても、相手によって処理すべき勘定科目が変わります。

例えば、同じお店に行ったとしても、従業員の歓送迎会のために支出をしたのであれば福利厚生費になりますし、取引先との食事であれば会議費や交際費として処理することになります。同様に慶弔費も、取引先の結婚祝いや香典であれば交際費として処理します。

福利厚生費と通勤費

次に通勤費です。通勤費といえば定期代を支給するケースや1日ごとの往復交通費を支給するケースがあります。支給方法も、給与の一部(通勤手当)として支給する方法と、経費精算で支給する方法があります。

支給の方法にかかわらず、通勤費は「旅費交通費」として処理します。勤務するための支出なので、福利厚生費とは言えません。

健康診断費用

毎年発生するのが健康診断の費用です。事業主には、雇用している従業員に年1回健康診断を受診させる義務があります。その費用も、法律の定めで受けさせる以上は事業主が負担すべきです。

健康診断は法律で定められているものですが、経費で計上する勘定科目としては、法定福利費ではなく、福利厚生費として計上します。

また、健康診断で法定の診断メニューのほかに追加で健康診断を受けることができるといった福利厚生の制度を設けることも可能です。この場合も「全従業員に平等に適用されること」というルールのもと、どのような診断メニューまで事業主負担にするのかということをルール付けしておくことが必要です。

繰り返すようですが、この場合も個人事業主本人、家族従業員の健康診断費用は、福利厚生費にはできません。あくまで従業員の検診費用のみ、福利厚生費として計上できます。

なお、個人事業主本人の健康診断は、セルフメディケーション税制を適用する場合に必要な「疾病予防の取り組み」要件の一つです。取り組みを行ったことの証明になるので、健康診断を受けた記録はとっておき、節税の手段として検討してみてください。

スポーツクラブの利用料

スポーツクラブについては、従業員全員が利用できる契約形態であり、かつ事業主が契約主体となれば福利厚生の一環として認められるので、福利厚生費として計上します。従業員がそれぞれ契約して精算する形をとると、現物給与として従業員に対して所得税を課税する必要が出てきます。また、事業主や家族従業員の利用分については、従業員分と一緒に契約したとしても経費では計上できないことにも注意しておきましょう。

なお、スポーツクラブの利用を福利厚生の一環として計上する場合には、事前にスポーツクラブに契約形態を確認しておきましょう。

従業員の慰安旅行

従業員との慰安旅行が福利厚生費として認められるためには、しっかりとルールが定められています。具体的には以下の要件をすべて満たす場合であれば、福利厚生費として扱うことができます。

  • 旅行の期間が4泊5日(海外旅行の場合は、機内を除く海外での滞在日数が4泊5日)以内であること
  • 従業員全体の50%以上が参加すること
  • 従業員全員が参加できること

上記の要件を満たして福利厚生費として扱う場合でも、事業主やその家族の分の旅費は必要経費として認められません。

食事代

残業時間中にお弁当やデリバリーの食事を支給したり、外食費を負担したりする場合、その全額を福利厚生費として必要経費にすることができます。賄いとして食材を購入した場合は、その購入代金が福利厚生費となります。金額や人数に制限はありません。

なお、いずれの場合も事業主自身や家族の分は必要経費には入れることができません。

福利厚生制度は、事業主も従業員もメリットがあるので最大限に活用

福利厚生の制度は、うまく活用することで従業員の雇用維持につながるという人事的な面でのメリットがあります。それだけでなく、税金面でも事業主にとっても必要経費で計上でき、かつ従業員にとっても所得税が課税されず、両者にとってメリットの大きな制度です。

しかし、個人事業主1人だけの場合は福利厚生費というものは成り立ちません。個人事業主が法人成りした場合や家族経営の法人の場合も福利厚生費は計上できません。福利厚生費は、家族以外の従業員のために支出する経費を計上するものであり、家族従業員への支出については認められないと覚えておきましょう。

また、給与との線引きがルールによってしっかりと決められています。決められたルールをしっかりと守った上で、福利厚生の制度を最大限に活用しましょう。

photo:Getty Images

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この記事の執筆者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)

税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。
1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。
大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。
在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。
著書『はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 ’21~’22年版新規タブで開く

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