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労働保険とは?一人社長や非正規従業員のみでも加入すべき?

監修者 : 山口 剛広(法律監修者・特定社会保険労務士)

会社経営者にとって悩みの種の1つが労働保険への加入義務です。基本的に人を雇えば労働保険への加入は必須となります。

しかし、一人社長などの小規模事業者の場合にも労働保険に入る必要があるのか、あるいは非正規従業員しかいない会社では労働保険への加入義務があるのかどうか、という点で疑問がある方も多いのではないでしょうか。

そこで、今回は労働保険について、経営者なら知っておきたい基本について説明していきます。

労働保険とは「労災保険」と「雇用保険」のこと!加入しないとどうなる?

「労働保険」と一般的に呼ばれているのは「労災保険(労働者災害補償保険)」と「雇用保険」の2つを指しており、いずれも労働者の雇用と生活を守るために国が定めている保険制度です。

「労災保険」は業務上また通勤途中でのケガ・病気あるいは不幸にも亡くなってしまった場合などについて、労働者やその遺族などを保護する保険です。「雇用保険」は、失業した人や家族の育児・介護などのやむを得ない事情により働けなくなった人に対する雇用継続のための支援のほか、失業の予防、再就職の支援などを行う保険制度です。

この2つの保険制度は、労働者(パートタイマー、アルバイト含む)を1人でも雇用している事業者であれば(農林水産業のごく一部を除き)原則として業種や規模を問わず加入手続を行って労働保険料を納付しなければなりません。これは法人や個人事業主を問わず必須です。

もし、適用対象にもかかわらず未加入のままにしていると労働基準監督署等から訪問指導などの警告を受けます。指導を受けたにも関わらず無視をするといった悪質なケースでは、労働基準監督署等が職権によって保険料をさかのぼって追徴金として徴収し、労働保険への加入手続きを行うこともあります。

国は政策として未加入の事業者を減らす方針を堅持しているので、もし未加入の場合は自社が対象に該当しているかどうかを確認しておく必要があるでしょう。まだ従業員を雇っていない事業者も、この先どういう状態になった場合に加入対象になるのかをしっかり把握しておきましょう。

「労災保険」と「雇用保険」について詳しく解説します。

労災保険とは

正式には「労働者災害補償保険」といい、業務上または通勤途中の病気やケガに対する保険給付をする制度です。従業員を雇用するときには加入の必要があります。

業務上の事由でケガや病気になった、あるいはその影響で障害が残った、死亡してしまったなどのケースで、その労働者と家族(遺族)を対象として一定額の保険金を給付するための制度です。

労災保険の特徴

業務上の事案だけでなく、通勤途上で災害や事故に遭った場合も給付対象となります。労災保険は、ほぼすべての事業者が対象で(例外は小規模の農業や水産業などに限られる)1人でも労働者を雇った場合には加入することが義務付けられています。保険料は事業主の全額負担です。

労災保険の給付にはいくつかの種類があります。ケガや病気などにより医療機関で治療を受ける場合の給付を「療養(補償)給付」、傷病による療養のために労働ができなくなり収入がなくなった場合の給付を「休業(補償)給付」といい、この2つが労災保険の典型的な給付方式です。

その他、心身に障害が残ってしまったときには「障害(補償)給付」、長期療養が必要となった場合は「傷病(補償)年金」、介護が必要な状態になってしまったときは「介護(補償)給付」がそれぞれ給付されます。

また、業務上または通勤途中の事由によって死亡してしまった場合には、亡くなった労働者の遺族等に対する「遺族(補償)給付」と「葬祭料(葬祭給付)」の2つの給付制度が用意されているのも特徴です。

労災保険の対象労働者

対象労働者はかなり広い範囲だと理解しておきましょう。正社員はもちろん、アルバイトやパートタイマーであっても、従業員として雇っているのであれば法人・個人事業主に関わらず原則としてすべて対象労働者となります。

例外は労災保険の加入が任意となっている業務(小規模の農林水産業)に該当する「暫定任意適用事務所」のみです。これはかなり例外的なケースなので、ほぼ全業種に加入義務があるという理解でよいでしょう。

ちなみに2020年9月1日施行で労災保険法が改正されました。働き方改革でますます広がる兼業者・副業者の複数就業者への労災保険の保険給付が変わります。改正後の規定は、施行日である2020年9月1日以後に発生した負傷、疾病、障害又は死亡に対する労災保険の保険給付について適用されます。

なお、事業所の中で労災保険の対象とならない人がいます。それは事業主や社長や取締役といった経営陣です。したがって、例えば一人社長の会社の場合、1人も従業員を雇っていないのであれば労災保険への加入義務はありません。

逆に言えば、社長が業務上の事由でケガや事故にあったとしても、労災保険は使えないということです。その場合は、後述する「特別加入制度」という制度を利用する必要があります。

労災保険の加入方法

「労災保険」は、原則として事業所ごとに加入します。必要となる提出書類は以下のとおりです。

  • 労働保険の保険関係成立届
  • 労働保険概算保険料申告書
  • 登記簿謄本(履歴事項全部証明書)の写し1通

提出期限は、保険加入義務の発生日の翌日から起算して10日以内です。ただし、労働保険概算保険料申告書に関しては提出期限が保険加入義務の発生日の翌日から起算して50日以内です。提出期限の違いはありますが、ほとんどの場合は他の書類とあわせて提出します。

労災保険料の計算方法

労災保険と雇用保険の保険料である「労働保険料」のうち、労災保険料は事業主の全額負担です。算定方法は単純で、毎年4月から3月までの期間について労働者に支払った賃金に、法定の「労災保険率」をかけて算出していきます。

ただ、この「労災保険率」は事業の種類ごとに定められていて、例えば水力発電施設、隧道等新設事業などでは62/1000、原油又は天然ガス鉱業では2.5/1000(いずれも令和2年現在)などと、事業の種類によってかなり差が大きいのが特徴です。

この保険率の差は過去3年間の業務上の災害発生率や保険給付額を元に、国が決定する仕組みとなっています。詳細は、厚生労働省から出されている下記の表をご確認ください。

雇用保険とは

労働保険の2つの柱のうちのもう1つ、雇用保険について説明します。

こちらは倒産などの会社都合や、何らかの自己都合で労働者が失業したり働けなくなったりした場合の経済的困窮から労働者を救うための制度です。労働者が失業してしまった場合、あるいは育児や介護が必要となって働けなくなった場合に、労働者の経済的な生活支援や就職の促進などのために給付を行います。

雇用保険の特徴

労働者の生活や再就職を支援するだけでなく、事業所の雇用継続を支援する目的で助成金が出ることがあります。

雇用保険の加入対象者となる要件を満たす労働者のいる事業所に加入義務があります(農林水産業などの個人で5人未満の事業所は除く)。

雇用保険の加入対象者

加入対象者は次の2つの要件を満たしている必要があります。

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上あること
  • 31日以上の雇用見込みがあること

この要件を満たしていれば、正社員に限らずパートタイマーやアルバイトの従業員も加入対象です。もちろん派遣社員などの非正規労働者も含まれます。なお、会社の代表者や取締役は加入することができません。

雇用保険は制度のメニューがさまざまあり、2017年(平成29年)からは65歳以上で新たに雇用された人も対象になるなど適用範囲を拡大しています。

雇用保険の加入方法

必要書類を作成して所轄のハローワーク(公共職業安定所)に提示または提出します。必要となる主な書類は次のとおりです。

  • 雇用保険適用事業所設置届
  • 雇用保険被保険者資格取得届
  • 労働保険の保険関係設立届の控え
  • 登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
  • 労働者名簿

提出期限は労災保険と同じく、保険関係が成立した翌日から起算して10日以内となっています。

「雇用保険適用事業所設置届」は適用となる事業所の登録手続きです。この書類を提出することで、事業所ごとに割り振られた「事業所番号」が交付されます。同時に保険対象となる労働者についての「雇用保険被保険者資格取得届」を記入し、提出書類とします。なお、この「資格取得届」は労働者1人につき1通必要となるので、従業員が多い場合には注意しておきましょう。

労災保険と同時に加入手続きをする場合は「労働基準監督署」で「労働保険(労災保険)」の手続きをしたあとに「ハローワーク」で「雇用保険」の手続きを行います。

雇用保険料の計算方法

毎年4月から翌年3月までの期間に労働者へ支払った賃金総額(賞与など各種手当も含む)に、定められた雇用保険料率をかけて算出していきます。

雇用保険料率は、次の3つの事業の種類ごとに異なります。

  • 一般の事業
  • 農林水産・清酒製造の事業
  • 建設の事業

この3種類で「雇用保険負担率」が異なってきます。

「雇用保険負担率」は「事業主負担率」「被保険者負担率」そして全額事業主負担となる「雇用保険二事業率」からなる、保険料負担率の割合です。一般の事業の場合、「被保険者負担率」が3/1000、「事業主負担率」が6/1000、というように決まっています。それぞれの負担率で各保険料を計算するという仕組みです。

雇用保険料率の詳細については以下をご確認ください。

労災保険の特別加入制度

事業主となる社長や取締役は労災保険に加入できないと前述しましたが、社長であっても事故や災害に遭うことはあります。そうした場合に備えられるように「特別加入制度」があります。

労災保険の特別加入制度とは?対象者は?

労災保険は基本的に「労働者の保護」を目的としているため、事業主をはじめとする経営陣とその家族については保険制度の対象外です。しかし、実際は家族経営の小さな会社や一人親方、一人社長のように経営者が何らかの理由で働けなくなるとその人とその家族の生計が立ちいかないケースも多くあります。

そこで、主に中小規模以下の会社経営者のために、特別な労災保険制度が準備されています。それが「特別加入制度」です。

「特別加入制度」の加入対象となるのは、従業員とともに労働することの多い「中小事業主」と「一人親方」、農作業従事者などの「特定作業従事者」「海外派遣者」です。本来は加入対象外である人を特別に加入させる制度であるため、任意加入となっています。

中小事業主等の特別加入の概要

特別加入制度の対象者で「中小事業主」に当たる人は、以下のとおりです。

  • 金融業、保険業、不動産業、小売業で労働者数が50人以下の事業主
  • 卸売業、サービス業で労働者数が100人以下の事業主
  • 上記以外の業種で労働者数が300人以下の事業主

事業主だけでなく、労働者以外で加入対象となる事業主の事業に従事している人(たとえば事業主の家族従事者、中小事業主が法人その他の団体である場合の代表者以外の役員など)も加入できます。

労働者数のカウント方法ですが、通年雇用に限らず年間100日以上雇用する労働者も含まれます。工場や支店などがある場合は、それぞれの場所での労働者を合計したものとなります。

そして、特別加入の要件は2つあります。

  • 雇用している労働者について保険関係が成立していること
  • 労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していること

申請手続きは労働保険事務組合を通して行う必要があるため、この要件はあまり問題にはなりません。しかし特別加入の場合は、事業主としての業務中は補償の対象とならないなど通常の労働者とは異なる点が多いため、詳細は委託する労働保険事務組合に確認しましょう。

一人親方等の特別加入の概要

次に一人親方です。労働者を雇用せずに専門的な技術などのサービスを提供する一人親方は、加入対象となる事業の種類が細かく決められています。大まかに言えば以下の7つです。

  • 運送事業(個人タクシー業者や個人貨物運送業者など)
  • 建設事業(大工、左官、とび職人など)
  • 漁業(船員法第1条に規定する船員が行う事業を除く)
  • 林業
  • 医薬品の配置販売事業(医薬品医療機器等法第30条の許可を受けて行う医薬品の配置販売業)
  • リサイクル事業(廃棄物などの収集、運搬、選別、解体など)
  • 船員法第1条に規定する船員が行う事業

加入に際しては国からの指定を受けている業界ごと、地方ごとに存在する「特別加入団体」の構成員であることが要件です。この「特別加入団体」は厚生労働省の各地方労働局などで簡単に調べることができますので、加入に際しては問い合わせておきましょう。加入手続きもこの特別加入団体を通じて行うことになっています。

労働保険の年度更新とは

労働保険の支払いでは、その年度の見込み賃金をもとに会社が雇用保険料と労災保険料を算定、申告して前払いをする「年度更新」という方法で行われます。「年更」という言葉で呼ばれることもあります。手続きの期間は6月1日から7月10日までの間です。この期間に、1年分の前払いと前年分の清算を行います。

なお、令和3年度労働保険の年度更新期間は2021年(令和3年)6月1日(火)~7月12日(月)です。

労働保険の年度更新を電子申請でする場合「GビズID」を取得すると便利です。今後も電子化の動きは広がりますので、今のうちにIDを準備しておくとよいかもしれません。

労働保険料の納付方法

基本的に、労災保険料と雇用保険料は一括で納付します。期間は毎年6月1日から7月10日の間で、所轄の労働局か労働基準監督署に申告したうえで、金融機関やインターネット上で納付することができます。

また、概算確定保険料申告書を金融機関に持参して納付することもでき、その場合は労働局や労働基準監督署への申告は不要です。もし実際に支払われた賃金と概算で申告した賃金に差が生じた場合は年度終了後に精算し、翌年の保険料から差し引きや追加納付を行うことになります。

知らずに放っておくと追徴金も!労働保険の知識は大事

労働保険は労働者を雇った場合に加入義務のある制度です。よくわからずに放っておくと、あとで未払い分をさかのぼって徴収されたり、追徴金を課されたりといったペナルティもあります。「労災保険」と「雇用保険」この2つの特徴を理解しておきましょう。

また、経営者自身も「特別加入制度」によって労災保険に加入することができるので、しっかり確認しておきましょう。

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