開業資金・起業資金はいくら必要?プロが教える資金調達方法

起業するからにはお金が必要です。それではそのお金はどのように工面すればよいのでしょう。自分が持っているお金ですべてを賄えれば話は簡単ですが、ビジネスによってはそう単純にはいきません。
今回は、どのような資金調達の方法があるのかということをまとめてみます。
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目次
- 起業資金の使い道は大きく分けて設備資金と運転資金の2種類
- 自己資金としていくら準備できるのかが、融資や第三者からの投資を受けるためのベースになる重要な要素である
- 親族からの借り入れを検討する前に、まずは金融機関からの借り入れをするのが定石である
起業資金にはいくら必要? 平均や目安は?
一口に起業といっても、業種によってかかるお金はさまざまです。以下の平均や目安についてはあくまで参考情報として捉えていただき、実際にどれだけ用意すればよいのかということは、自分のビジネスに合わせてじっくりと検討しましょう。
起業資金といえば、自分で用意したお金である自己資金を思い浮かべる方もいるかもしれません。本記事では、「起業するのに必要なお金」として「起業資金」という言葉を使っていきます。
そもそも起業資金は何に使うのか
起業資金の使い道は業種にもよりますが、大きく分けて設備資金と運転資金の2種類があります。
設備資金
店舗系のビジネスであれば物件の契約費や内装費、飲食店なら冷蔵庫や業務用シンクなどの調理関係の機材(厨房機器)といったものが設備資金です。起業時に必要な資金の大部分はこの設備資金が占めます。
運転資金
開業時の仕入れや光熱費、家賃の支払いが運転資金となります。このあたりは売上が立ち始めればそこから賄っていきます。こうした運転資金を売上で賄えないと、そもそも事業として成り立ちませんので、事業が軌道に乗るまでの分の運転資金を用意しておきましょう。
なお、業種によっては売上金が実際に入金されるまでに数か月かかるというケースもあります。その間の人件費や家賃などの固定費、その他の経費も、起業資金で賄わなければなりません。
資金の目安 個人事業主の場合
業種によっては数十万円からスタートすることもできます。例えばコンサルタントやエンジニア、プログラマーなどは、数十万円というケースも多々あります。このようなスキルを売るビジネスでは、大掛かりな投資も不要かつ既に売り上げが見込めている状態で起業することもあるので、そこまで起業資金ということを考慮しないことも多いのかもしれません。
飲食店など設備投資が必要なビジネスであれば1,000万円程度はかかるでしょう。自分で500万円ほど準備して、残額を借り入れなどの形で賄っている人が多いです。目安としても、物件の契約費や内装などの設備投資のための借り入れなどを考慮して、最低限これくらいは準備しておくべきでしょう。
できる限り初期費用を減らしたいという場合には、居抜きも検討してみましょう。場合によっては、設備もほぼそのまま使えるので、初期の設備投資の軽減にもなります。ただし、店舗の立地も重要です。ぴったりの居抜き物件を見つけた場合も、まずは人通りなど立地が問題ないかしっかりと検討しましょう。
資金の目安 法人設立の場合
法人の場合はどのようなビジネスにしても、まずは会社設立に実費がかかります。これ以外に個人事業主の開業との違いとしては、税理士などの専門家と契約することが多いことや、社会保険料の会社負担が発生します。
あくまで目安ですが、会社としての見栄えや会社名義の銀行口座開設のために、個人事業主プラス100万円くらいは起業資金として準備しておいたほうがよいでしょう。
個人事業主との大きな違いは、資本金として会社に入れた分は会社のお金になるということです。個人事業主の場合は、屋号がついているような事業用口座でも、あくまで個人名義の口座です。事業主は自由に出し入れできますが、会社の資本金はそうはいきません。資本金としていくら入れて、足りない部分をいくら借り入れで調達するのかということは、慎重に検討しなければいけません。
起業するための資金調達の方法の種類
起業するための資金調達の方法には、融資、補助金や助成金、自己資金での調達や出資などさまざまな種類があります。詳しく見ていきましょう。
融資を受けて起業資金にする
多くの起業家は、起業時に融資制度を活用しています。自己資金だけでは足りない部分は、融資を使って起業を実現しています。起業時の融資、いわゆる創業融資は、通常の融資とは異なります。なぜなら決算書などの過去の実績数字が存在しないからです。
銀行や信金などの金融機関からの融資が難しいか簡単かといえば、それは人それぞれなので断言はできませんが、創業時の融資ならではの審査項目があります。場合によっては融資を受けられないということもあります。
日本政策金融公庫の創業融資
日本政策金融公庫は国が100%株主であり、民間の融資を補完することを目的に設立されている金融機関です。そのため創業前でまだ業績などから信用がはかれない起業家への融資も積極的に行っています。
日本政策金融公庫に限らずですが、創業融資においては3つの重要なポイントがあります。
自己資金
自己資金とは、自分が事業を開始するために貯めてきたお金です。どれだけその事業をやるためにお金を貯めてきたのかということが、その事業への熱意を図る一つの目安となります。借りる金額についても、自己資金の〇倍までといった要件がありますので、そうした意味でも自己資金は重要です。
経歴
すでに何期か決算や確定申告をやっている事業者であれば、決算書を見ればおおよその業績などは分かります。しかし、これから創業をするという場合は、そうした物差しが存在しません。そのため、個人の経歴がかなり重要なポイントになります。
それまで一般企業に勤めていて飲食店での仕事経験がない人が、いきなりカフェを開きたいといっても、成功するかどうか分かりません。事業で成功するには、どのような経験を積んできたのか、その結果起業分野でどのようなビジネススキルがあるかということが、審査ポイントになります。
事業計画書
「事業計画書」とは、どのようなビジネスで起業するのか、その起業のためにどのような準備をしてきたのか、そして起業資金としていくら必要なのかということをまとめたものです。
融資を受けるときにはこの事業計画書の作り込みも大事ですが、まずは1つ目と2つ目の重要ポイントである、自己資金と経歴が先にきます。どれだけ事業計画書を作り込んでも、自分のお金がなくてすべて借り入れで賄おうというのも無理な話です。
信用保証協会付きの融資
日本政策金融公庫以外に民間の金融機関でも起業家向けの創業融資を行っています。ここで登場するのが信用保証協会です。信用保証協会とは、もし起業家がお金を返済できなくなったときに、返済を肩代わりしてくれる機関です。民間金融機関は、信用保証協会が保証してくれるから安心してお金を貸すことができます。
信用保証協会の保証付きで融資を受けるには、金融機関のほかに、信用保証協会自体の審査をクリアしなければいけません。日本政策金融公庫での融資のポイントも重要ですが、信用保証協会でより厳しく見られるポイントが、過去の信用情報です。もちろん日本政策金融公庫もこうした情報を重要視しますが、信用保証協会はより厳しい目で見るといわれています。
過去に金融機関などからお金を借りて返せなかったり、クレジットカードの引き落としができなかったなどの履歴があるということは、お金を貸す側からすればマイナスポイントです。こうした過去の履歴は自分でも調べることができます。融資を受けようとする場合は、一度自分の信用情報を取り寄せてみるとよいかもしれません。
信用情報は以下のサイトから取り寄せることができます。
ノンバンクなどからの融資
ノンバンク、いわゆる消費者金融などからの借り入れは、金利が高いことが多く、限度額も起業資金を賄うには少ないことが多いです。せっかく起業しても、儲けを利息の支払いに持っていかれては元も子もありません。まずは前記の資金調達手段の可能性を最大限探るべきです。それでもだめなら、会社員として働くなどして、起業資金として自己資金を貯めることから始めましょう。
親兄弟、親族、親類などからの借入
多くの起業家は金融機関から借り入れで事業をスタートします。しかし、審査が通らないケースや、そもそも金融機関での融資でも足りないといったときは、親族からの借り入れを検討することがあります。最も多いのは、両親からの借り入れでしょう。
親族から借りる場合は、金額や利息などの設定は当事者間の自由です。ただし、借りたことを明確にするために金銭消費貸借契約書は作成しておきましょう。
一番手っ取り早い方法にも思えますが、親族のお金も無尽蔵に出てくるわけではありません。いずれ事業がピンチになって金融機関からの融資が受けにくいときの最後のカードとして登場してもらうべきであり、起業時はまず金融機関の融資から検討することをお勧めします。
補助金や助成金を起業資金にする
補助金や助成金も資金面では大きな助けとなります。ただし勘違いしてはいけないのは、補助金や助成金は一定の審査があり、受給できるのは起業してから数か月から数年後であるということ、そして補助金によっては趣旨に沿ったお金を使ってから、その一部の補填を受けるものであるということです。つまり、起業当初の資金のアテにはできないということです。
それでも応募自体は無料でできますので、条件がそろっていればチャレンジしてみてもよいかもしれません。また、どんな補助金にも審査があり、準備する書類も膨大です。難しそうであれば、補助金で実績がある専門家やコンサルタントに相談してみるのもよいでしょう。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者が取り組む新たな販路開拓(新たにテイクアウト販売を開始、新たにWebやチラシでの宣伝開始など)や生産性向上の取り組みを支援する補助金です。年に数回募集が行われていますので、自分で間に合いそうな募集期間に応募してみるとよいでしょう。
自治体の創業補助金・助成金
自治体によっては、その自治体の中で創業することで受給できる補助金・助成金制度を設けている場合があります。自治体のホームページなどで検索したり、地元の商工会議所に問い合わせたりしてみるとよいでしょう。
その他、自治体などが実施する独自の補助金や助成金
起業してくれることは自治体にとっても地域の活性化などにつながり、よい影響を及ぼします。起業以外にも、たとえば展示会への出展や、自治体が抱える問題に取り組んでくれる事業者への補助金など、いろいろな自治体が独自の補助金を運営しています。
これも創業関係の補助金と同じように自治体や地元の商工会議所に確認するのが手っ取り早いです。
自己資金を起業資金にする
自己資金は、起業時の最も基本になるお金です。自己資金0円で、すべて他者のお金でビジネスを始めるということは、まずないでしょう。借り入れをするにしても、自己資金の〇倍という要件があることが多く、起業時にどれだけ自己資金を用意するかは、非常に重要なポイントになります。
100%自己資金での起業
前述しましたが、そもそも仕入れや設備投資などのコストがかからず、売上もすぐに見込める、または売上が入ってくるまで自己資金で十分というビジネスであれば、お金を借りずに100%自己資金で始めることもできます。ビジネスにもよりますが、借り入れをしないようなケースではそもそも起業資金が少なくて済むことが多いです。
個人事業主なら数十万円、場合によっては最初の名刺代などだけ支払って、あとは売上で賄うというようなケースでは数万円で始めることもできます。
出資を受けて起業資金にする
融資などと並んで、もう一つの資金調達方法が出資です。自らのビジネスに投資家からお金を出してもらって、起業資金にするということです。融資を間接金融というのに対して、出資を直接金融といいます。
ベンチャーキャピタルや個人投資家から出資してもらう
ベンチャーキャピタルや個人投資家(エンジェル投資家)から出資してもらうのが、直接金融の代表例です。ただし、ベンチャーキャピタルの審査は厳しく、起業してすぐにお金を出してもらえるということはなかなかないでしょう。多くのケースでは、個人のエンジェル投資家から出してもらうことになります。
この場合は、エンジェル投資家に渡す株を何割にするかなど検討事項がありますので、税理士などの専門家に相談してみてもよいでしょう。
クラウドファンディングで起業資金を集める
最近増えてきたのが、クラウドファンディングです。サイトでビジネスを紹介して、共感を得た多くの人から少額のお金を集めて、まとまったお金にする方法です。クラウドとは“Crowd”つまり直訳すれば「群衆」です。不特定多数の人からお金を集めるということでこの名がついています。そうした不特定多数の人から集めるお金が一人当たり1万円でも、100人から集めれば100万円になります。
クラウドファンディングの場合は、お金を出してもらう対価として、何らかのモノやサービスを提供する形(購入型)がほとんどです。こうした対価の提供のためのコストも考慮に入れておかなければいけません。
このほかにも、親族から借りるのではなく、贈与を受けるといった方法もあります。ただし、この場合は贈与税がかかりますので、避けたほうがよいでしょう。
結局、起業のための資金は、
- 自己資金
- 融資
- 第三者からの出資
の3つが柱となります。中でも、自己資金は、融資の借りられる金額の計算のベースとなりますし、エンジェル投資家との間の株式の割合にも影響するので、最も重要なものといえます。
起業したい人のための支援制度を知っておこう
起業家向けには、自治体を始め、さまざまな支援制度を整えているところがあります。法人設立にはさまざまな窓口で手続きが必要です。たとえば、次のような開業ワンストップセンターでは、開業相談やサポート、東京都内の開業手続き、福岡市内の開業手続きがそれぞれ1カ所で対応できます。
こうした自治体の制度のほかに、起業に強い税理士などの専門家が独自のサービスとして、支援してくれる場合もあります。
起業を志したら、まずはこうしたところに相談してみるとよいでしょう。特に、起業資金が起業をするための障壁になるようなケースでは、金融機関に行く前に、まず融資に強い起業の専門家に相談することをお勧めします。自分で進めようとした結果、審査で落ちてしまったとなると、どんな専門家でもリカバーできません。融資は一度審査で落ちたら「落ちた」という履歴が残るシビアな世界なのです。そうならないように、少しでも不安を感じれば、まず相談してみましょう。
photo:Getty Images