30万円未満の固定資産を一括で経費に!青色申告「少額減価償却資産の特例」とは

青色申告をしていると、税金計算上のさまざまな特典を受けることができます。今回説明する「少額減価償却資産の特例」もそんな特典の一つです。
「少額減価償却資産の特例」は、青色申告書を提出する、資本金又は出資金の額が1億円以下の法人等又は個人事業主が対象です。特に固定資産の処理は、個人事業主が行う所得税の確定申告の中でもやや難しい部分になりますが、こうした制度をしっかりと理解しておくことで、税金の計算で有利な選択ができるようになります。
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目次
- POINT
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- 「少額減価償却資産の特例」は取得価額が30万円未満の固定資産が対象である
- 「少額減価償却資産の特例」は取得価額の合計で、年間300万円を限度に活用できる
- 「少額減価償却資産の特例」の特例を受ける固定資産は、いったん固定資産計上したうえで、減価償却費として経費計上する
30万円未満の固定資産を一括で経費に!青色申告「少額減価償却資産の特例」とは?節税効果は?
「中小企業者の少額減価償却資産」とは、取得価額が30万円未満の固定資産のことです。本来であれば、固定資産は減価償却といって、所得税の計算上、決められた年数で取得金額を按分して費用計上していかなければいけません。
しかし、資本金又は出資金の額が1億円以下の法人等(※1)又は常時使用する従業員の数が500人以下の個人事業主については、取得価額が30万円未満の固定資産を一括で減価償却できるという特例が設けられています。
※1 資本金又は出資金の額が1億円以下の法人等であっても、次の法人は本税制の適用を受けることができません。
①大規模法人(資本金又は出資金の額が1億円超の法人、大法人(※2)の100%子法人(※3)等)から2分の1以上の出資を受ける法人
②2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人
③常時使用する従業員の数が500人を超える法人
④税制の適用を受けようとする事業年度における平均所得金額(前3事業年度の所得金額の平均)が年 15 億円を超える法人
(※3)
⑤連結法人
※2 資本金5億円以上の法人、相互法人・外国相互会社(常時使用する従業員が1,000人超のもの)又は受託法人
※3 平成31年4月1日以降に開始する事業年度決算から適用されます。
この特例を受けるためには、適用する年について、青色申告書を提出していることが必要です。本来は期限付きの措置ですが、期限が来るたびに恒例のように適用期間が延長されています。
令和4年度税制改正で、適用期間が延長されて、2023年2月現在の適用期限は2024年3月31日までに取得した固定資産が対象です。
なお、この改正で、2022年(令和4年)4月1日以後に取得するものから、貸付け(レンタル業など主要な事業として行われるものを除く)に使用された減価償却資産は対象外になりました。この資産は10万円未満のものや一括償却資産でも対象外となります。主要な事業として行われるものは除かれるので、レンタル事業を営む場合は、少額減価償却資産の特例を適用できます。
「少額減価償却資産の特例」を受ければ、本来数年に分けて計上している減価償却費を取得した年で一括計上できるので、取得した事業年度の必要経費を増やすことができます。取得した年が黒字であれば、その分所得税の金額を抑えることができます。数年間の期間で見れば、減価償却費として計上できる金額には差が出ませんが、取得した年の納税額を抑えたいという場合には、この特例を使うメリットがあります。
(引用元)「青色申告のメリットと節税効果についてのまとめ」
少額減価償却資産の特例の対象となる固定資産はどんなもの?中古品は?
ここでとりあげる減価償却資産とは、1年以上使うもので、取得価額が10万円以上のものを指します。
長い期間使用するものを利用期間に応じて、取得した金額を各事業年度に計上するために減価償却が行われます。ただし、これでは金額が少ない備品までも該当してしまいます。
そこでもう一つ、金額の基準も設けられています。取得価額が10万円未満のものは、1年以上使うものでも一括で費用計上が可能です。多くの備品はこの基準により消耗品費などで処理されます。
そして、要件に当てはまれば少額減価償却資産の適用も含めて検討していくことなります。
この少額減価償却資産の特例は、モノだけでなくソフトウェアなどの無形固定資産も対象にできますし、新品だけではなく、中古品にも適用が可能です。
ちなみに、最近はリモートワークでデスクセットを購入するなど、セットで10万円を超えるものを購入するケースもあるかもしれません。こうしたセット購入の場合は、購入するときにセット販売だったかどうかで判定します。
応接セットのように一体で販売されるものもあれば、デスクと椅子のようにバラ売りの場合もあります。使用時にセットで使うとしても、購入時は個別に購入したのであれば、合算せず個別に金額を判定します。
また、これは固定資産一般に言えることですが、減価償却を開始するのは「事業の用に供した日」です。注文した日でも代金を払った日でもありません。
実際に手元に届いて使用できる状態になった日になって初めて減価償却を開始できます。年末に慌てて注文してお金を支払っても、モノが届いたのが1月以降であれば減価償却できるのは次の年ということになります。
【あわせて読みたい】取得金額の判定基準を以下の記事で解説しています。30万円未満に当てはまるか確認してみましょう。
・この経費は固定資産?消耗品費?減価償却資産の判定基準を分かりやすく解説
消費税は関係する?税込?税抜?どちらで処理するの?
これまで10万円や30万円という金額が出てきましたが、消費税の扱いを忘れてはいけません。判断基準は簡単で、免税事業者や、課税事業者でも税込経理を行っている事業者については、税込金額で判定します。税抜経理をしているのであれば税抜き金額で判定します。
会計ソフトを使っているのであれば、消費税の経理方法に合わせて金額が表示されますので、チェックもしやすいです。記帳したうえで、貸借対照表に表示された金額を見て判定をすればよいでしょう。
少額減価償却資産の特例の限度額はある?
少額減価償却資産の特例を使えるのは、年間300万円までと決められています。複数の固定資産を購入した場合で、年間の限度額ギリギリまで適用を受けたいのであれば、取得価額をうまく組み合わせる必要があります。取得価額を分割して300万円ちょうどに収めるといったことはできません。
限度額に達したり、取得金額が30万円以上だったりということで、この制度の対象にしない固定資産については、以下のような方法で減価償却します。
1) 通常通りの法定耐用年数での減価償却
2) 取得価額20万円未満の場合は、3年間で均等に償却する一括償却
3) 取得価額10万円未満であれば、資産計上せずに購入時点で経費化
ちなみに、上記の内、2)の一括償却は減価償却の計算の一つとして認められているもので、青色申告でも白色申告でもいずれも選択が可能です。
固定資産で処理してもいいの?決め方は?
少額減価償却資産の特例を受けるためには、「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書」を確定申告書に添付します。
クリックすると大きく表示されます。
国税庁:中小企業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の 特例制度」を適用する場合の明細書の添付について「減価償却費の計算」記載例
もしくは決算書の減価償却費の計算欄に、この制度の適用を受ける旨を記載する必要があります。具体的には、決算書の固定資産明細の備考欄に「措法28の2」などと記載しておきます。少額減価償却資産の特例は、租税特別措置法第28 条の2で規定されていますので、その略ということです。
つまり、一旦固定資産に計上したうえで、減価償却費で全額経費計上するという流れになります。
「どうせ全額減価償却するなら最初から消耗品費などで計上しても変わらないのでは?」と思う人もいるかもしれませんが、確定申告書の作成を考えると固定資産に計上して減価償却費で経費計上ということが必要だと分かります。
他にもある個人事業主が青色申告でできる節税
少額減価償却資産のほかにもある個人事業主の青色申告の特典について、簡単に見ていきます。
自宅などの経費が一部事業の費用になる「家事按分」
家事按分とは、家事関連費(個人事業主が行う支出の中で、事業のための部分とプライベートの部分が混在している支出のこと)を経費部分とプライベート部分に按分することをいいます。
家事関連費について、青色申告の場合、使用割合などで明確に区分できるのであれば、その部分を経費で計上できるということになっています。
白色申告についてはそもそも事業として使用する割合が50%を超えないと認めないという規定が所得税法上で存在します。しかし、いわゆる通達という国税庁のお達しで、50%に満たなくても、しっかりと区分できるのであれば経費計上して構わないということがいわれています。
結局のところ、青色申告でも白色申告でも家事関連費という点では変わらないということになります。
【あわせて読みたい】
・家賃や光熱費を経費にする「家事按分」のやり方
事業を手伝う家族への給料が全額経費になる「青色専従者給与」
税務署に届け出ることで、家族への給料を経費にすることができる「青色専従者給与」の制度が使えるのも青色申告の特典の一つです。
個人事業主の場合、家族に給与を渡しても、家計内でお金が動いているというのが原則ですが、青色申告をする人が、金額や業務内容などを税務署に届け出ることで支払った給与を経費扱いできるのです。
白色申告の場合、給与そのものを経費に入れることはできませんが、「事業専従者控除」といって、家族一人当たり最大50万円(配偶者は最大86万円)を経費計上することができます。とはいえ、青色専従者給与に比べれば、金額も少ないでしょうし、家族への給与の扱いという点では青色申告に軍配が上がります。
【あわせて読みたい】
青色専従者給与と混乱されやすい「配偶者(特別)控除」との違いについてはこちら
・青色事業専従者給与と配偶者(特別)控除。節税効果の違いは?
赤字の確定申告で節税できる?
青色申告の場合、事業所得で発生した赤字を3年間繰り越して、その間の黒字と相殺できる「純損失の繰越控除」が使えます。白色申告でも使えるのですが、白色申告の場合損失の原因が災害などに限定されていますので、基本的には使えないと思っておいたほうがよいでしょう。
さらに青色申告をした年に赤字が発生していて、その前年の青色申告で黒字が発生していた場合には、前年の黒字とその年の赤字を相殺して所得税の還付を受けられる「純損失の繰戻還付」という手続きもあります。この制度は、赤字の年も黒字の年も両方青色申告をしている必要があります。
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・赤字は確定申告不要?申告するメリット・デメリット、書類の書き方を税理士が解説
まとめ
青色申告ならではの少額減価償却資産の特例。償却方法の選択肢が増えることで、利益の調整弁として、非常に大きな役割を果たします。青色申告でしか使えない制度ですが、使えるのであれば、そのほかの制度と合わせて、所得税の計算上非常に有利になります。今は白色申告の人でも、ぜひ青色申告にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
photo:Getty Images
よくある質問
Q 「少額減価償却資産の特例」とは?
A 一定の要件を満たせば、取得価額が30万円未満の固定資産を一括で減価償却できるという特例のことです。この特例を適用するための要件はこちらをご覧ください。
Q 少額減価償却資産の特例の対象となる固定資産はどんなもの?
A 少額減価償却資産の特例は、モノだけでなくソフトウェアなどの無形固定資産も対象にできますし、新品だけではなく、中古品にも適用が可能です。セット販売の場合などについて詳しくはこちら
Q 消費税は関係する?税込?税抜?
A 判断基準は簡単で、免税事業者や、課税事業者でも税込経理を行っている事業者については、税込金額で判定します。税抜経理をしているのであれば税抜き金額で判定します。詳しくはこちら