個人事業主が加入する社会保険制度にはどんなものがある?従業員を雇った場合の手続きは?

会社員だった人が個人事業主になると、会社員時代とは社会保険の扱いが大きく異なります。
また従業員を雇用すれば、従業員の社会保険の手続きも取らなければいけません。
個人事業主にとって、どのような社会保険制度が関係するのかということを、個人事業主本人と従業員のそれぞれについて見ていきましょう。
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目次
- POINT
-
- 個人事業主は基本的には国民健康保険と国民年金に加入する
- 一定の業種の個人事業主は、5人以上の従業員がいれば健康保険と厚生年金保険への加入が義務になるが、個人事業主自身は国民健康保険と国民年金のままである
- 労災保険や雇用保険は、従業員を雇用すれば加入義務が発生する
「社会保険」とは国や自治体が運営している公的保険
社会保険とは、国や自治体が運営している公的な保険です。生命保険会社などで加入する民間保険と異なり、社会全体で保険料を出し合って支えあうのが特徴です。
そのため、加入についても要件を満たせば強制加入ということになっています。「自分は医者に行かないから健康保険や国民健康保険には加入する必要はない」ということは認められませんね。
なぜなら社会保険は自分のためでもありますが、何より社会全体のために加入している保険だからです。
社会保険には、主に健康保険や厚生年金保険、国民年金や国民健康保険といった制度があります。広い意味では、労災保険や雇用保険なども社会保険に含まれます。今回も、この広義の社会保険、つまり労災保険や雇用保険も含めて個人事業主にまつわる社会保険というものを見ていきます。
個人事業主と会社員で社会保険はどう違う?
個人事業主自身が加入する社会保険といえば、国民年金や国民健康保険となります。法人が健康保険や厚生年金保険に加入義務があるのと対照的です。
会社員が加入する健康保険
法人は健康保険や厚生年金保険への加入が義務付けられています。そのため、法人で雇用される会社員についても、入社すれば自動的にこれらの制度に加入することになります。
ただし、パートタイマーなど労働時間が正社員に比べて短い従業員については、以下の要件を満たす場合に加入義務が生じます。
- 週の労働時間が20時間以上
- 賃金の一ヶ月の金額が8.8万円以上(年収106万円以上)
- 1年以上勤務を継続する見込みがある
- 学生は適用除外
- 従業員が501名以上
また、2017年(平成29年)4月1日からは「従業員規模500人以下の企業」でも、労使との合意があれば、条件を満たすパートが社会保険に加入できるようになりました。
個人事業主が加入する「国民健康保険」
会社員が健康保険に加入するのに対して、会社員以外の人(個人事業主など)が加入するのが「国民健康保険」です。この二つ、名前は似ていますが、異なる点もいくつかあります。
まず、給付面では、健康保険の給付である出産や病気などで休職した際に受給できる出産手当金や傷病手当金は、国民健康保険では受給できません。
支払われない給与の補填が目的の給付なので、給与の支払いを受けていない国民健康保険の加入者は対象外というわけです。
給付以上の大きな違いが、保険料の決まり方です。健康保険が給与の金額に応じて保険料が決まるのに対して、国民健康保険は、前年の所得に応じて保険料が決まります。
そのため、会社員で高給だった人が個人事業主になった場合、収入が下がったのに、国民健康保険の保険料が会社員時代の健康保険料以上に納付しなければならないということもあり得ます。
こうしたことを防ぐために設けられているのが、任意継続という制度です。健康保険に加入していた人が退職した場合、国民健康保険に加入せずに、退職前の健康保険にそのまま加入できる制度です。
任意継続は退職した直前の給与、厳密にいえば社会保険の標準報酬月額をベースに保険料が決められます。
ただし、任意継続の場合は、退職の時の標準報酬月額が30万円超の人については30万円で計算してもらえるのです。退職時に高給だった人に配慮してくれているわけです。
会社員時代は会社が健康保険料を半分負担してくれていましたが、任意継続では、この分も含めて自分で負担しなければなりません。
それでも、30万円が上限ということは、単純計算で行けば月給60万円を超えるような給与をもらっていた人については任意継続のほうが健康保険料を会社員時代より低くできるということです。
個人事業主になる際には、任意継続の活用も検討してみましょう。
満40歳になった月から加入義務が発生する「介護保険」
満40歳になった月から加入義務が発生するのが「介護保険」です。介護を必要とする高齢者の介護費用を支えるための社会保険です。
保険料は、健康保険料や国民健康保険料に上乗せして支払うことになります。ただし、65歳以上になると、年金からの天引きに切り替わります。
会社員が加入する「厚生年金保険」
会社員が健康保険と合わせて加入するのが、「厚生年金保険」です。厚生年金保険は、会社と、そこで働く会社員が保険料を半分ずつ負担します。
厚生年金保険料を支払っていると、後述の国民年金の保険料も合わせて支払っていることになりますし、扶養に入れている配偶者の国民年金も支払っていることになります。
国民年金だけの個人事業主に対して、非常に手厚い給付内容となっているのが特徴です。
個人事業主が加入する「国民年金」
厚生年金保険が会社員のための年金制度なのに対して、個人事業主の年金制度は「国民年金」です。国民年金は、20歳になると日本に居住する人が全員加入する制度です。
厚生年金保険は給与の金額に応じて保険料が決まるのに対して、国民年金の保険料は定額(令和2年については、16,540円)です。
会社員が厚生年金保険に加入すれば、厚生年金保険料で国民年金の保険料も賄っているのに対して、個人事業主は国民年金の保険料そのものを納めることになります。
将来の年金額が厚生年金保険に比べてどうしても少なくなってしまいますので、現役時代の蓄えがより重要になってきます。
「雇用保険」は個人事業主が従業員を雇用した際、従業員のために加入する保険
「雇用保険」は、個人事業主が従業員を雇用した際に、従業員のために加入する保険です。雇用保険に加入していれば、従業員が退職した場合に、失業給付を受給することができます。裏を返せば、雇用保険に加入していない従業員は、退職しても失業給付を受けられません。
雇用保険については、どのような従業員が加入対象となるのか理解したうえで、雇用のたびに加入義務を判断して、加入対象になるなら、忘れずに雇用保険の加入手続きを取ってあげましょう。
人を雇用すれば加入義務が発生する「労災保険」
「労災保険」も雇用保険と同様に、従業員のために加入する保険です。雇用保険と違って、学生だけでも短い労働時間のパートタイマーだけでも、とにかく人を雇用すれば加入義務が発生します。どれだけ労働時間が短くても就業中や通勤中にケガをする可能性はあるためです。
それでは個人事業主自身の就業中のケガがどうなるのでしょうか?個人事業主本人は労働者ではないので、労災保険の対象外です。
ただし、「特別加入」という制度があり、「労働保険事務組合」という組織を通して、個人事業主自身も労災保険に加入できる場合があります。同居の親族が対象外となるのは雇用保険と同じです。
個人事業主が従業員1人を雇った時の社会保険への加入義務と負担額は?
個人事業主については、国民年金と国民健康保険に加入するということはここまでで説明してきました。雇用する従業員については、雇用する条件によって、加入すべき制度が異なってきます。どのような従業員がどのような制度にすべきかということを理解しておきましょう。
従業員が5人未満でも社会保険に加入できる場合とできない場合
個人事業主本人は、健康保険や厚生年金保険には加入できません。そこで働く従業員も基本的には健康保険や厚生年金保険への加入はありません。
しかし、従業員については要件を満たす場合は、個人事業主の事業所であっても社会保険への加入が義務となっています。
- 常時5人以上の従業員(パートタイマーなど含む)が働いていること
- 営んでいる業種が、サービス業の一部(飲食店など)や農業、漁業等以外であること
1つ目の従業員の人数要件は分かりやすいと思います。業種については、飲食店など従業員を多く使用するような事業は対象外となっていますので、実のところ、それほど要件に当てはまることは多くないかもしれません。
しかし、上記に該当しなくても、従業員の半数以上が厚生年金保険等の適用事業所となることに同意し、かつ申請書を年金事務所に提出して認可を受けられれば、健康保険や厚生年金保険に任意で加入することもできます。これを任意適用手続きといいます。
任意適用なら健康保険と厚生年金保険のいずれかのみ加入ということも可能です。任意適用の場合は、同意しなかった従業員も含めて加入する必要があります。
いずれもの場合も、個人事業主本人については、国民年金と国民健康保険のままです。
社会保険の加入義務と負担額
社会保険については、製造業、鉱業、電気ガス業、運送業、貨物積卸し業、物品販売業、金融保険業、保管賃貸業、媒体斡旋業、集金案内広告業、清掃業、土木建築業、教育研究調査業、医療事業、通信報道業、社会福祉事業の16業種については、常時従業員を5人以上雇用している個人事業所も対象となります(サービス業の一部、農林業、水産業、畜産業、法務などの事業所は対象外)。
保険料の負担額は、個人事業主と従業員が半分ずつ負担することとなります(厳密には、社会保険料の納付額に連動して、事業主にのみ子ども・子育て拠出金も賦課されますので、従業員の負担額よりも事業主負担が少しだけ多くなります)。
納付については、あらかじめ日本年金機構に届け出ている報酬月額をもとに、毎月日本年金機構が従業員負担分と事業主負担分を合算した社会保険料の納付書(自動引き落としの場合は通知書)を郵送してきます。
従業員の給与から毎月社会保険料を天引きしつつ、納付額と天引き額の差額が事業主負担分ということになります。
労災保険の加入義務と負担額
労災保険は、前述の通りで、従業員を1名でも雇えば加入義務が発生します。
労災保険料は、どのような業務を行うのかによって保険料率が変わってきます。オフィス内で事務などの業務を行う人と、建設現場で作業を行う人であれば、業務の性質上、当然後者のほうが労災に遭いやすいですし、労災が起きた時の被害も大きくなります。
大掛かりな仕事は法人でやることが多いので、個人事業主の労災保険料率はそれほど高くならないでしょう。ちなみに、飲食店の労災保険料率は0.3%です。
労災保険料は全額が事業主負担です。毎年4月から翌年3月に発生した全従業員の給与の金額合計に、上記の労災保険料率を乗じて1年分の労災保険料を計算します。
細かい納付の方法などは割愛しますが、金額としては、思ったほどには高くならないのではと思います。
雇用保険の加入義務と負担額
雇用保険は基本的に従業員全員が加入しますが、1週間の所定労働時間が20時間未満のパートタイマーや、雇用期間が30日以下であることが確定している人については加入させられません。学生についても基本的には加入対象となりません。
さらに個人事業主であるような一家で切り盛りする飲食店のように、同居の親族についても雇用保険の対象外です。ほかに従業員がいて、かつほかの従業員と同様に始業就業時間などの労務管理をしているといった場合でなければ対象外です。
同じく生活している家族にまでほかの従業員と同じように扱うというのはあまり考えられませんので、基本的に家族従業員は雇用保険の対象外と思っておいてよいでしょう。
雇用保険料は、完全に折半というわけではありません。およそ従業員:事業主=1:2という割合で負担しています。
建設業や農林水産業など一部の事業を除いて、雇用保険料率は0.9%です。このうち、雇用保険に加入している従業員の給与から0.3%を天引きし、残り0.6%を個人事業主が負担します。
納付の方法は、計算対象が全従業員ではなく、雇用保険に加入している従業員分であることを除いて、労災保険と同じです。
従業員の給料が増加したら、税額控除も検討を
従業員の給料が増加したら、税額控除も検討しましょう。ここでは「所得拡大促進税制」と「雇用促進税制」をそれぞれ解説します。
「所得拡大促進税制」は雇用が増えて人件費総額が上がった場合に活用
従業員に支払う給与の総額について、前年に比べて一定率上昇していれば、最大で、その上昇した給与の差額の15%(一定の基準を満たせば25%)の所得税の税額控除を受けられます。これを「所得拡大促進税制」と言います。
雇用が増えて人件費総額が上がったなどというケースで活用を検討しましょう。
「雇用促進税制」は正社員などフルタイムの無期雇用者を増やした場合に活用
所得拡大促進税制と並んで給与に関して使える税額控除が、「雇用促進税制」です。雇用促進税制は、正社員などフルタイムの無期雇用者の人数を増やした場合に受けられる税額控除です。
ただし、現在では「地方拠点強化税制」といって、地方への本社機能の移転をして、地方での雇用を増加させるようなケースでのみ適用を受けられる制度となっています。
個人事業主の地方移住はあるかもしれませんが、雇用を伴うとなると個人事業主ではあまり現実的ではなく、法人向けの制度といってよいでしょう。個人事業主で適用を受けるということはあまり考えられませんが、念のため紹介しておきます。
個人事業主は支払った社会保険料を経費にできる?
個人事業主は支払った社会保険料を経費にできるかどうか見ていきましょう。
自身の社会保険料は「社会保険料控除」の対象
自身の社会保険料は経費にはなりませんが、支払った社会保険料は、全額所得控除の一種である「社会保険料控除」の対象にできます。結果として所得税の計算上経費に入れるのと同じ効果が得られます。
支払った日ベースで判断するので、前年に支払うべき社会保険料の支払いが遅れて今年支払ったという場合には、その支払った年の所得控除として確定申告します。
従業員の社会保険料は個人事業主が負担した場合、経費になる
従業員の社会保険料のうち、個人事業主が負担した分については経費に入れられます。労災保険料や雇用保険料、加入した場合の健康保険料、厚生年金保険料が対象です。
まとめ
これまでの加入義務についてまとめると以下の通りです。
個人事業主 | 会社員 (給与所得者) |
||
---|---|---|---|
本人 | 従業員 | ||
医療保険制度 | 国民健康保険に加入 | 国民健康保険に加入 一定の場合は健康保険に加入 |
健康保険に加入 |
年金制度 | 国民年金に加入 | 一定の場合は厚生年金保険に加入 | 一定の場合は厚生年金保険に加入 |
介護保険制度 | 介護保険に加入 | ||
雇用保険 | 加入しない | 雇用保険に加入 | |
労災保険 | 加入しない 一定の場合は特別加入できる |
労災保険に加入 |
どのようなケースで、どのような制度に加入すべきなのか、または加入できるのかということをしっかりと把握しておきましょう。
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