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ホーム 補助金・助成金 【最新版】賃金アップなど従業員の待遇改善にも! 業務改善助成金とは?申請方法から注意点を解説

【最新版】賃金アップなど従業員の待遇改善にも! 業務改善助成金とは?申請方法から注意点を解説

新型コロナウイルスの影響で、少ない人数で職場の生産性を上げなくてはならない中小企業や小規模事業者は多いのではないでしょうか。従業員の業務効率化には、設備投資が有効です。費用はかかりますが、その一部を国に助成してもらえるのが「業務改善助成金」です。今回は、業務改善助成金の受給要件や申請手続きなどについて詳しく見ていきましょう。

POINT
  • 業務改善助成金とは、従業員の賃金を引き上げる努力をしている中小企業、小規模事業者を支援するための助成金
  • 2020年1月創設の新たなコースでは、最低賃金を引き上げた労働者数や最低賃金の引き上げ額に応じて、最大450万円まで受給できる
  • 実施は、交付決定後に行わないと支給の対象外となってしまう

業務改善助成金とは

中小企業や小規模事業者の生産性向上を支援する業務改善助成金は、設備投資により業務の効率化を図る事業者のための助成金です。業務の効率化が実現すれば、同じ業務を行うために要する時間も削減できます。さらに、業務時間が削減できれば、同じ時間で売上が上がったり、コストが削減できるはずです。しかしこれでは生産性向上を目指すほかの補助金と変わりません。

業務改善助成金は、雇用保険料を財源にする助成金で、結果的には労働者の待遇改善に結びつけるというのが最終目的。この業務改善助成金が目指すのは「事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引上げ」です。

設備投資による生産性向上の例を紹介します。

脱毛サロンを経営しているA社。それまで1人の施術に20分かかっていたところ、新型のマシーンを導入することで、15分で終わるようになり、施術終了後のメンテナンス時間も短くできました。この結果、そのスタッフがさらに別の仕事を行ったり、施術回数を増やすことができ、売上アップにつながりました。

こうして増えた売上や減少したコストを、人件費の底上げのために使用してもらうのが、業務改善助成金の目指すところです。

少子高齢化が進み、労働人口が減少していく中、各事業者が生産性を上げて、少ない人数でも企業が利益を稼ぎ出せる体質を作っていくのは国を挙げての課題です。こうした国の課題に対して、助成金という形で事業者をサポートしているのです。

業務改善助成金受給の要件

業務改善助成金の申請の要件は、主に4つあります。

1賃金引上計画を策定すること
事業場内最低賃金を一定額以上引き上げる(就業規則等に規定)

2引上げ後の賃金額を支払うこと

3生産性向上に資する機器・設備などを導入することにより業務改善を行い、その費用を支払うこと
( (1) 単なる経費削減のための経費、 (2) 職場環境を改善するための経費、 (3)通常の事業活動に伴う経費は除く)

4解雇、賃金引下げ等の不交付事由がないこと など

(出典:厚生労働省/業務改善助成金について

助成の対象となる事業場の条件

60円コースと90円コースは、全国47都道府県で利用できるほか、30円コースは、1人引き上げる場合の助成上限額が2020(令和2)年1月から30万円に変更になっています。

助成の対象となる条件は、いずれも、

  • 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内
  • 事業場規模100人以下

という2つの条件を満たす事業場が助成の対象となります。

申請コース別 助成率と助成上限額

コース区分 対象事業者 引上げ額 引き上げる労働者数 助成上限額 助成率
25円コース 事業場内最低賃金が850円未満の事業者 25円以上 1人 25万円 4/5(※2)
生産性要件を満たした場合は9/10(※1)
2~3人 40万円
4~6人 60万円
7人以上 80万円
30円コース 全事業者 30円以上 1人 30万円 事業場内最低賃金850円未満の事業者については、4/5(※2)
生産性要件を満たした場合は9/10(※1)

事業場内最低賃金850円以上の事業者については、3/4
生産性要件を満たした場合は4/5(※1)

2~3人 50万円
4~6人 70万円
7人以上 100万円
60円コース 60円以上 1人 60万円
2~3人 90万円
4~6人 150万円
7人以上 230万円
90円コース 90円以上 1人 90万円
2~3人 150万円
4~6人 270万円
7人以上 450万円

助成金を申請した場合、どの程度助成されるのか見てみましょう。引上げ額のほか、助成対象や助成率、上限などは、申請コースや対象労働者数によって異なります。申請コースについては、これまで30円コースのみでしたが、2020(令和2)年1月6日からは、コースが拡大され新たなコースが設けられたほか、30円コースについても助成対象事業場要件が見直されました。

(※1)図中の「生産性」とは、企業の決算書類から算出した、労働者1人当たりの付加価値を指します。助成金の支給申請時の直近の決算書類に基づく生産性と、その3年度前の決算書類に基づく生産性を比較し、伸び率が一定水準を超えている場合等に、加算して支給されます。

(※2)対象は、地域別最低賃金850円未満の地域のうち事業場内最低賃金が850円未満の事業場です。青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、群馬、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄の32県。(令和2年4月13日現在)

次に、助成額について説明します。助成額は、引き上げた事業場内最低賃金の金額と最低賃金を引き上げた従業員の人数によって変わってきます。助成金の上限額は組み合わせによって変わりますので、上記<申請コース>の表で確認しましょう。

行った投資に助成率を乗じた金額または、助成上限額のいずれか、低い方の金額が助成額となります。

投資の金額によっては、助成上限額の450万円を受給できる可能性があります。しかし、いくつか注意しておきたいポイントがあります。

まず、助成率の計算などで事業場内最低賃金850円未満という区分がありますが、東京をはじめとするいくつかの都道府県については、そもそも最低賃金が850円以上に設定されています。その場合法律上、事業場内最低賃金が850円未満ということにはなりえません。こうした都道府県については、上の表の通り、最低賃金引き上げ額は30円、かつ助成率は原則として3/4になります。

もう一つ、生産性要件というポイントがあります。生産性という言葉は普段から何気なく使うことも多いかもしれませんが、助成金など国の施策の場面で出てくると、しっかりとした定義づけが行われています。助成金における生産性といえば、以下の数式で計算します。

生産性=付加価値/雇用保険被保険者数

雇用保険被保険者数については自社で把握できているとして、重要なのが「付加価値」という言葉です。詳細な計算は決算書の話となるので割愛しますが、簡単に言えば、売上総利益から、外注費や消耗品など社外に流れた経費を引いた金額です。助成金の計算においては、営業利益に人件費や家賃などを足し戻すことで計算します。細かい計算については、以下のページも参考にしてみてください。

こうして計算した生産性が、以下の生産性要件のうちいずれか一つを満たせば、上記の表の通り助成額がアップします。より少ない人数で、多くの付加価値を生み出せた事業者に対するボーナスです。

【生産性要件】

1) その3年度前の決算に比べて6%以上伸びていること
2) その3年度前の決算に比べて1%以上(6%未満)伸びており、かつ金融機関から一定の「事業性評価」を得ていること

2)の場合、金融機関が関係してきて手間がかかり、また事業性評価自体のノウハウが金融機関に蓄積されておらず対応が困難というケースもあり、基本的には1)の6%以上の伸びをもって判定を行う事業者が多いです。

3年度前の決算と比較するので、そもそも4期分の決算が終わっていない事業者については、生産性要件の対象外となることにも注意が必要です。

対象外となる例を30円コースの場合で説明します。東京都の地域別最低賃金は、2019(令和1)年10月1日から1,013円です。そのため、申請にあたっては、事業場内最低賃金が1,043円以下でなくてはいけません。給与水準が最も低いのがアルバイトという事業者の場合、東京都で言えばアルバイトの時給が最低1,050円(厳密には1,044円)となり、申請の対象から外れます。

今では人手不足ということもあり、アルバイトでも時給が最低賃金を30円を上回る募集が珍しくなくなりました。この段階で、申請できる事業者はそれなりに絞られてきます。もともと給与水準がある程度高い事業者については申請の対象外ということです。

地域別最低賃金については、以下のページで確認できます。
厚生労働省:地域別最低賃金の全国一覧

事業場の人数については、上記に100人以下が対象と書きましたが、申請は、雇用保険の事業場単位で行います。企業全体ではなくその事業場の従業員数で判定します。

事業場内最低賃金や事業場の人数といった形式的な要件を満たしていれば、後は導入する設備などが生産性の向上のためのものなのかといった実体的な要件の判断となります。

助成対象となる費用

助成対象となる費用は、生産性向上のための機器や設備の導入費用ということで、細かく内容が定められているわけではありません。

厚生労働省の例として挙げられているのが、

  • POSレジシステム導入による在庫管理の短縮
  • リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮
  • 顧客・在庫・帳票管理システムの導入による業務の効率化

などです。

実際には、最終的に生産性向上に結び付いて、結果事業場内最低賃金を引き上げることができれば、幅広く受給対象となります。

飲食店であれば、

  • それまで手洗いだった食器洗浄について、自動食器洗い機を導入することで、食器洗いにかける時間を削減した
  • 店舗のレイアウトを、より効率的に動くことができるように内装工事を行った

といったことが生産性向上のための投資として考えられます。このような投資ももちろん生産性向上のためのものなので対象となります。

ただし、不調だった機器について、メンテナンスを行うことで元の性能に戻ったといったケースのように、新たな投資を行っていない場合は対象外となります。

申請までの流れ

要件の判断のほか、受給をするまでのプロセス(申請書の提出や設備の導入や支払いなど)についても、段階を踏まないと支給の対象外になることがあるので要注意です。

業務改善助成金の申請は、2段階に分かれています。

1.
まずは「交付申請」です。どのような投資を行って、生産性の向上のためにどのような効果が得られるのかといった計画(業務改善計画)や、現状の事業場内最低賃金や、どのように事業場内最低賃金の引き上げを行っていくのかといった計画(賃金引上計画)を作成して、管轄の労働局に提出します。

2.
労働局が行う審査に通ったら次に「交付決定」が行われます。「計画を承認したから、計画通りに投資や事業場内最低賃金の引上げを行ってください」という旨の交付決定書が労働局から郵送されてきます。この交付決定のあとに、実際に設備投資を行うなどの業務改善計画や、それに伴う賃金引上計画を実施していきます。

業務改善助成金の申請書

業務改善助成金(新型コロナウイルス感染症緊急対策)事業の申請書はホームページ出典元『厚生労働省』各種様式(Wordファイルがダウンロードされます)

業務改善助成金の申請書

ここで注意しておきたいのが、事業場内最低賃金の引上げや、実際の設備投資の実施や支払いは、交付決定のあとに行わないといけないということです。

労働局が承認した計画に沿って行うので、交付決定の前に行った活動は、助成金の対象外になってしまうのです。また、購入した設備やソフトウェアについては、請求書や納品書などの書類の提出が必要です。これらの書類の日付が交付決定前だと支給の対象外と判断されます。

決められた日付通りに段取りを組むことは当たり前ですが、実際に書類を提出する前にも、請求書や納品書の日付に間違いがないか、しっかりとチェックしながら進めましょう。

申請にあたって、不明点などがある場合は、社会保険労務士や労働局(働き方改革推進支援センター)などに相談しましょう。

photo:Getty Images

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