プロ直伝! アイデアを起業に結びつける5つの軸と3つのアプローチ

2023/12/04更新

この記事の執筆者安田博勇

基本的な方法論に従えば、ビジネスとして成立する“起業アイデア”を誰でも思いつくことができる―。そう提言するのは「起業アイデア3.0」著者の村田茂雄氏。新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちの働き方が大きく見直されるなか、漠然と「起業をしたい!」と思い描いている人は増えているのではないでしょうか。この変化の時代を生き抜くためにも知っておきたい、新しいビジネスの発想法についてうかがいました。

  • この取材はオンライン会議ツールを使用し、リモートでインタビューしたものです

村田 茂雄(むらた・しげお)

中小企業診断士。1982年生まれ。信州大学経済学部卒業後、銀行・信用金庫・コンサルティングファームを渡り歩く。現在は有限責任監査法人トーマツに所属。これまでに1,000人以上の起業家支援を行う傍ら、自ら”起業アイデア”を考えることを趣味とする。これまでに考えてきた起業アイデアは約1年8か月の間に1万件以上。それらの経験から起業アイデア発想法を体系化。2019年10月「起業アイデア3.0新規タブで開く」(秀和システム)を発表した。

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アイデアは”量”ではない!? ――実践から辿り着いた起業アイデア発想法

村田さんのプロフィールを拝見したところ、ご趣味は「起業アイデアを考えること」だそうですね。なんとその数は1年8か月間で1万個! 「1日平均17個」という驚異的なペースです。

村田:私が起業アイデアについて明確に考えるようになったのは、2014年11月のことでした。それまでも興味本位で日頃思いついた起業アイデアをメモ書き程度にまとめることがあり、そのときは、たまたま知り合いの大手企業にコンサルしている方にこれまでに思いついたアイデアについて相談してみたんです。

しかし、その方曰く「アイデアはたくさん考えなければ、質が高まらない」「もっとアイデアの量を稼がなければ」「1日10個でもアイデアを考えてみたら」―と。一般的なアイデア発想では「アイデアは質より量!」なんて言われますが、私は「アイデアは量ではない」と漠然と思っていて、ただ、「周りに納得してもらうためには量も必要なんだ」と思ったんです。だから私もそのときから「1日数十個」単位で起業アイデアを考えるようになりました。そして、1万個を目標にして結果、1年8ヶ月かかりました。

その経験で得た知識を体系化したのが「起業アイデア3.0」ですね?

村田:はい。私がたどり着いたのは「起業アイデアで重視すべきは”量”だけではないのでは?」―そんな仮説です。

拙著「起業アイデア3.0」第1章にも書かせていただきましたが、一般的なアイデア発想には”型”(制限)がありません。自由な発想ができる分、量も稼げます。しかし発想の自由度の高いがゆえ、実は逆に発想がしにくくなるという側面があります。

例えばアイデアを今すぐに思いつくかぎり100個考えて並べたとしましょう。おそらくそのほとんどがビジネスで使えるレベルに至らないと思います。量より先に”型”を知っておくからこそ、後にヒットするビジネスへと昇華できる、と私は考えるようになりました

ビジネスに特化した起業アイデアで大事なのは、あくまでも”型”に立ち返ること。私が唱える”起業アイデア”には型がある分、発想に制限が加わりますが、考えるべきことが明確になるため意外と発想がしやすくなります。

基礎編 ビジネスを5つの軸・要素で考える

村田茂雄

では、村田さんが唱える起業アイデアの”型”とは?

村田:起業アイデアの明確な型は、5つの軸(要素)で定義できると考えています。その5つとは「誰の・何を・何で・どのように・誰から」です。

事業計画書の作成やビジネスモデルの見直しなどをするときに使う「リーンキャンバス」というフレームワークがあります。これは、9つの要素から事業プランを整理するフレームワークなのですが、要素が多くてアイデア発想には不向きだと思ったのです。

5つくらいのシンプルさのほうが、起業アイデアも出やすいかと。ちなみに5つの軸はどれか1つでも欠けてもならず、起業ビジネスにおける「絶対必須」な事項だとお考えください。では5つの軸について、もう少し詳しくお話しましょう。

  • 誰の(顧客)=その起業ビジネスは、誰がターゲットになり得るのか
  • 何を(顧客の課題)=その人が、どんな課題を抱えているのか
  • 何で(課題に対する解決策)=その課題を、何によって解決するのか
  • どのように(解決策の提供方法)=その解決策を、どのように提供するのか
  • 誰から(収益化・マネタイズ)=その起業ビジネスを、どのように収益化するのか

1988年に日本でも出版された「アイデアのつくり方(リンク追加)」(ジェームス.W.ヤング)という本があります。この本の中で著者は「(アイデアは)既存の要素の新しい組み合わせ」と説きました。すなわちアイデア発想とは、まったくのゼロベースから始めるのではなく、世の中にすでにあるものを組み合わせで生まれるのだ、と。これはとても本質を突いた考えだと私も思います。

でも「何と何を組み合わせるのか」なんて、迷ってしまいそうですね。

村田:はい。そこで「5つの軸」です。すでに世の中にある既存商品について考えてみてください。ヒットしている商品・サービスを5つの軸に分解して考え、そのうちどれか1つを別のものへ”入れ替えて”みる――。

例えば「海外で流行しているビジネスを日本に輸入する」のは5つの軸のうち「誰の」の部分を置き換えた、立派な「起業アイデア」。きちんと5つの軸に沿って考えれば「漠然とアイデアを考えてしまう」なんて事態も起こりません。

応用編 3つのアプローチを使い分ける

5つの軸は、起業アイデア発想の基礎になるんですね。この次は何をどう考えていけばよいのでしょうか。

村田:ここからは、次のステップになります。

ここまでにお話した5つの軸で考えるためには、今から紹介する3つのアプローチが有効です。「3C分析」という言葉を聞いたことはありますか? マーケティングなどで使われる手法です。

3Cとは「Company(自社)」「Customer(市場・顧客)」「Competitor(競合)」を指します。私が唱える「3つのアプローチ」は、これら3つのCからアプローチする発想の方法です。

  • プロダクトアウト発想法
    =「自分が持つ能力スキル」から起業アイデアを発想する
  • マーケットイン発想法
    =世の中のニーズの変化から起業アイデアを発想する
  • コンペティターシフト発想法
    =既存の競合製品・サービスから起業アイデアを発想する

人類社会の歴史は、これら3つの変遷だと言っても過言ではありません。すなわち「プロダクトアウト → マーケットイン → コンペティターシフト」の順番で、人類はビジネスをバージョンアップさせてきました。

バージョンアップの変遷について具体的に教えていただけますか。

村田:1980年代頃の「作れば売れる」と言われた時代は、各社が自社保有の技術を競わせていました。これがプロダクトアウトの時代です。そこに「お客様視点」の発想が加わり、市場ニーズから製品・サービスを開発する――マーケットインの時代へ。しかし現在はどうでしょう。市場ニーズはある種の飽和状態を起こし、何か新しいビジネスを世に送り出そうにも「すでにあるよ」みたいな状態が続いています。

そうなると、自社の技術で勝負しても、あるいはマーケットのニーズを吸い上げてもそれがビジネスとしてうまくいくとは限らない。むしろ、競合の商品・サービスを想定してそれとは違う部分を作ってビジネスした方が可能性がある。ならば先ほど「5つの軸」の項でご紹介したように、競合の製品・サービスの要素の一部を変えてピンポイントに発想したほうが成功しやすい、という考え方です。

ご著書のタイトルにもなっている「起業アイデア3.0」もこの3つの変遷から採られたのでしょうか?

村田:はい。なので、アプリケーションなどのバージョン表記をもじって「3.0」を付けてみました。と言っても、これは編集者さんの案なのですが。
ただ読者の皆さんに誤解なきよう強調しておきたいのは「プロダクトアウト発想法」や「マーケットイン発想」が”古くて使えない”というわけではありません。あくまで”使い分け”が肝心ということ。今の時代に比較的発想しやすいのは「コンペティターシフト発想法」である、とお考えください。

起業において優先すべきは、will(意思)+must(使命感)

村田茂雄

既存の製品やサービスから起業アイデアを発想する場合も、自分にできること(好きなこと・得意なこと・仕事の経験が役立つこと)から考えてもよいのでしょうか。

村田:もちろん、仕事に向かうときの考え方として「できるから楽しい」で全然問題はありません。結果として自分の考えた起業ビジネスが「(自分の)経験の延長線上にあるビジネス」でもいいでしょう。ただ「もしもそれが”できなく”なったときのこと」も考えておいていただきたい。

得意としていたことが通用しない…。私ならその途端、起業した事業が楽しくなくなってしまいますね。

村田:ですよね。現実的な問題として、自分が「できること」(経験・スキル)が「この世の中でナンバー1!」とはなかなかいきません。

新規ビジネスの世界で勝負すれば、当然、他者・他社(競合)に負けてしまうこともある。ましてや今の世の中、クラウドサービスやIT、AIなどで代替できるスキルがたくさんあるし、外国語の翻訳ならスマホアプリがやってくれる。資金調達もクラウドファンディングで集められ、人手がほしければクラウドソーシングを活用することもできます。つまり、これまで自分ができると思っていた大抵のことは他から補えるのです。

だからこそ「できること」だけで勝負するのは得策ではない?

村田:これまでに多くの起業家をみてきましたが、順風満帆にきた人はほとんどいません。うまくいっていないときにも諦めずにやり切って成功をつかんでいます。最後まで諦めずに起業を成功させるため大事にすべきは「本当にそれをやりたいかどうか」―― can(できること)よりwill(意思)やmust(使命感)が先決だと、私は思います。

極端な話「自分はこのビジネスをやるために生まれてきたんだ!」くらいのことを思える起業アイデアのほうが、後にビジネスとしては成功しやすいのでしょうか。

村田:はい。例えば、ある農業AIロボットベンチャーの社長さんは、高齢化や後継者問題を抱える農業の実状・課題を知り、助けたいと思いました。農業経験もないし、工学系の知識もなかったその方は、それでも「自分がやらなければ」と考えるようになり、農業用収穫ロボットを開発して成功を収めました。これはあくまで一例ですが、そうした新規ビジネス創出の事例は国内にたくさんあります。社会課題を背景に使命感が芽生えた起業家さんは、とても強いと思います。

あとこれは「起業アイデア0.0」と私が自称しているくらいの”超基本”事項なのですが、先見の明があれば起業が成功する、というわけでもありません。起業家とは「世の中がこうなりそうだ」というようなことがわかる”評論家”ではない。アイデアをビジネスにまで昇華させられる、そんな”やり遂げることのできる人”が本当の起業家です。最後までやり遂げるためにもwillとmustは大切だと思います。

即断は禁物。日々の仕事・生活のなかで意識してみよう

現在のコロナの状況下でリモートワークが加速していますよね。在宅でも仕事ができると感じた方のなかにはフリーランスとしての開業・起業、あるいは会社に在籍しながらの副業・複業を考える人も少なくないと思います。実際、起業したい人は増えているのでしょうか?

村田:マインドとしては盛り上がっていると思いますね。会社の業績が悪化して止むを得ず別の道を探さないといけなくなった人や自身の環境や気持ちの変化によって新たな道を進もうと思い立った人などにとって、新しいことを始めやすくなっている点においては、プラスに働くことの方が大きいように思えます。

特にこのコロナ禍では、新たなビジネスチャンスもありそうです。新たなビジネススタイルで挑戦するという感じでしょうか。

村田:コロナ関連のビジネスでいえば、リモートワークやテレビ会議の需要増に伴うITサービスの提供や、テイクアウト事業なんかが盛り上がっていますよね。コロナになって、マスクの在庫を一覧で把握できるネットサービスも立ち上がったり、飛沫防止の商品や改良されたマスクなども市場に投入されていますし、新しい消費行動に合致したサービスも増えてきています。新型コロナの流行のような、人間の行動や価値観に変化が起こったとき、あるいは法改正・法規制(例えばドローン規制等)があったときには、新規ビジネスを立ち上げるチャンスがあると思いますね。まさに、マーケットイン発想法です。

最後に、そんなチャンスを活かして今後、起業を考える読者の方にメッセージをお願いします。

村田:実を言いますと、私の本懐としては「起業はあまり勧めてできない」なんです。最後のメッセージとしていきなりこう言ってしまうとちょっと驚かれるかもしれませんが(笑)。

なぜそんなことを言うのかといえば、皆さんが思いついたアイデアはすでに実現されていることが多い。実現されているってことは皆さんが起業のリスクを負ってまでやる必要がないからです。でも、探してもそのビジネスが行われていなくて、世の中にない状況にモヤモヤした日々を過ごし、「これは自分がやりたい!やるしかない!」と言える思い・動機で居ても立ってもいられなくなった時が、起業するタイミングだと思います。

思い立ったら吉日、とばかりに無理に今すぐ即断する必要はありません。今の仕事・業界あるいは生活において、常にアンテナを立てるようにしてみる。例えば、既存ビジネスの延長上のもの、業界では当たり前でも、非効率やおかしなこと、日々の日常から気づきをえることがある。そうして、5つの軸・3つのアプローチを使いながら起業アイデアについて意識してみる。そうした日々の行動が、起業へ続く道なのだと思います。

本日は、起業アイデアの基本を教えていただきました。もっと詳しく知りたい方は、事例もまとめられた「起業アイデア3.0」をぜひお読みください!

この記事の執筆者安田博勇

1977年生まれ。大学卒業後に就職した建設系企業で施工管理&建物管理に従事するも5年間勤めてから退職。出版・編集系の専門学校に通った後、2006年に都内の編集プロダクションに転職。以降いくつかのプロダクションに在籍しながら、企業系広報誌、雑誌、書籍等で、編集や執筆を担当する。現在、フリーランスとして活動中。

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