資金繰りとは?キャッシュフロー把握に必要な「資金繰り表」の基礎知識

事業の元手や経営に必要なお金を資金といいます。資金は日々の事業活動で増減し、この流れを把握するためには、資金繰り表が必要になってきます。資金繰り表とは、日々の現金収支を表で表し、お金の流れ(キャッシュフロー)を見ることができる表のことです。
新型コロナウイルス感染拡大による売上減少などにともない、資金繰りが悪化する事業者も増えています。倒産を防ぐためにもまずは資金繰り表を作成して、いま会社や自分の事業のお金の流れがどういう状態なのか、どの程度手元にお金が必要になりそうなのかを、正確に見えるようにすることが大切です。資金繰り表の簡単な作り方や読み方、資金繰り表を作る意味を学んで、安定した経営を目指しましょう。
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目次
資金の流れを把握するためには資金繰り表が必要
資金繰りとは、事業活動によって生じる支払いに対応できるよう、資金の流れを調整することです。そして資金繰り表とは資金の流れを把握するために、現金の収支をまとめた表のこと。企業版の家計簿のようなものなのです。
資金繰り表を作成し、現金の流れをある程度把握することで、資金が不足しそうになった場合でも、早めに資金を調達するなどの対策を講じることができます。余裕を持った資金計画を立てることは堅実な経営にもつながります。
資金繰りが悪化するケース
資金繰りの悪化とはキャッシュフローの悪化、つまり資金が足りなくなることを指します。では、なぜ資金繰りの悪化が起こるのか。いくつかの例を見てみましょう。
たとえば、資金繰りの悪化のひとつに赤字経営があります。売り上げが上がっていない状態でも、仕入れや固定費などの支払いは発生します。赤字が続くと、事業を継続するための資金の調達が困難になり、結果的に倒産ということになってしまうのです。資金繰りの悪化には、投資の失敗や債権の貸し倒れ、過剰な在庫や売り上げの減少など、さまざまな原因があります。
ほかにも、経営が黒字の状態なのにもかかわらず、資金不足で倒産してしまう「黒字倒産」というものもあります。経営数字上は、売上があって黒字で利益は上がっているのに、実際に入金があるまでの間に資金不足に陥り、仕入れなどの代金が支払えない状態となって倒産してしまうのです。どれだけ利益が上がっていても、手元に資金がなければ商売が立ちゆかなくなり倒産する可能性があります。
逆に、赤字でも倒産しない場合もあります。これは借入れによって資金を確保し、それを返済して循環させながらなんとか事業を続けている状態です。資金を回す様子を、止まると倒れてしまう自転車の両輪にかけて、自転車操業などとも呼ばれています。
資金繰り悪化の根本的な原因は、資金の流れが把握できていないことにあります。事業継続の危機的な状態におちいらないためにも、資金の流れを正確に把握し、現金不足にならない経営努力が必要となります。そのために必要になるのが資金繰り表というわけです。資金繰りを把握しておくことは、事業を存続させるためにとても重要なことなのです。
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資金繰り表の作成と読み方
では、資金繰り表はどうやって作成すればよいのでしょうか。資金繰り表には2種類あります。過去のお金の流れを見える化する「実績資金繰り表」とこれからを予測する「予定資金繰り表」です。
まずは、現在のお金の流れを表す「実績資金繰り表」を作成し、お金の流れを把握しましょう。必要な項目は、収入、支出、財務収入、財務支出の大きく4つ。収入には売上や売掛金の回収など、支出には、現金での仕入れなど、ある程度の項目は決まっていますが、絶対これでないといけない、という決まりはありません。事業者によってカスタムが可能なので、自社の業種や状況によって必要と思われる項目を追加して作成しましょう。
資金繰り表には、1カ月ごとに記入する「月繰り表」と毎日の入出金を記入する「日繰り表」があります。資金の流れが活発な個人事業主には、毎日の流れが把握できる「日繰り表」がオススメですが、いきなり毎日記入するのが難しい場合は、ざっくりと1カ月ごとの現金の収支を書き出すことから始めてみるのも良いでしょう。
ウェブ上には、エクセルなどで作成する無料の資金繰り表テンプレートもありますので、必要な項目を追加して活用してみてはいかがでしょうか。資金繰り表を作成し、実際の資金の出入りを目に見える形にすることで、資金不足による倒産を防ぎ、借り入れなど今後の資金調達の計画も立てやすくなります。
資金繰りを改善するには
資金繰り表を作成したら、改善するべきことが数字でしっかりと見えてきます。資金繰り表の見方をマスターして、余裕ある資金繰りを目指しましょう。収入に対して支出が大きければ当然、資金繰りは悪化します。資金繰り表の収入の部分で、月々の売上が目標(予算)を達成しているかを確認しましょう。達成していなければ、改善策を考えるきっかけにもなります。売上げに対して、かかるコストを抑えることこそが黒字経営への第一歩です。
ちなみに、人件費や商品在庫などは資金繰り改善のために影響が大きいコストです。人員が過剰になっているところはないか、今一度見直してみましょう。小売業などの場合、売れなくなった商品や過剰な在庫は、保管スペースを圧迫します。そうした場合はセールなどで販売したり、廃棄処分を行いましょう。廃棄処分した在庫は廃棄損として経費に計上することができます。
フリーランスの場合は、売掛金の回収も重要になってきます。取引先からの入金が請求書を発行してから1、2か月後という案件もよくあります。その間にも経費や外注費などの支払いは発生しますので、最低でも3か月先くらいまでは資金の流れを把握しておきたいですね。資金繰りに無理はないか、資金繰り表を使ってお金の流れを把握しましょう。
通常、継続的な取引がある場合、「取引基本契約書」を交わします。取引先に資金不足になったからといって、後から交渉で支払いを早めてもらったりするのは至難の業です。
定石としては、
・売上に関しては、回収をなるべく早めるようにする
・仕入・経費に関しては、支払いをなるべく遅くする
これを「取引基本契約書」を交わす段階でしっかり交渉しておくことです。
つまり、資金不足が発生する前にしっかりと交渉を済ませて、取引をしておくことが重要です。
資金繰り表で資金不足になる状況や時期がわかれば、早めに手を打つことができます。銀行融資などの借入金で資金を増やすこともできますが、絶対借りられるとは限りませんし、審査などにも時間がかかります。資金が足りなくなってから焦るのではなく、早めに対策をするようにしましょう。
さらに、税金や社会保険料の支払いにも注意したいところです。中でも、年金などの社会保険料は年々増加傾向にあり、事業主の負担も重くなっています。しかしこれらは、支払う時期が決まっていて、前年の金額などからある程度予測を立てることも可能です。早めに用意をしておきましょう。2020年のコロナ禍のように不測の事態の場合は、事業者支援の一環として、国や自治体などによる猶予が認められる場合もありますので、調べて活用しましょう。
資金調達のやり方と気をつけるべきこと
資金繰りの重要性が分かったところで、どうしても資金が不足してしまう場合の話をしましょう。自社努力をしても足りない分は、社外から資金を調達するしかありません。足りない資金調達の方法としては、以下のようなものがあります。外部からの資金調達にはメリットだけではなく、それぞれに気をつけるべきこともありますので、あわせて確認しておきましょう。
融資制度を活用する
銀行や信用金庫などから、資金を融資してもらう方法です。融資には、国や地方自治体が行う公的融資と、銀行や信販会社などから借り入れをする民間融資の2つがあり、政府が出資する日本政策金融公庫なら小規模企業用の低金利のプランがあり、経営に関するサポートも充実しているので、検討の余地アリでしょう。ただ注意点として、面談や事業計画書の提出などがあり、審査が厳しい点と、返済の義務がある点があげられます。また、審査から入金までに、ある程度の時間がかかります。コロナ禍で直接の面談ができなかったり、問い合わせや相談に時間がかかる場合もありますので、注意しておきましょう。
補助金制度を活用する
補助金とは、経済産業省が主導して、国や自治体が税金を使って経費の一部を負担し、事業を支援する制度です。原則として返済は不要ですが、あらかじめ予算が決まっており、募集期間が短い場合も多いので気をつけましょう。補助金制度は種類が多く、経費の適用範囲が広いところも魅力です。令和2年度には新型コロナによる経営不振への対策として、持続化補助金特別枠である補助率や上限額の引き上げ等を行ったコロナ特別対応型も登場しています。ただし、補助金はあくまで後払いとなります。先に資金は使用するので、そのための資金は必要です。審査のハードルも高く合格率は3、4割と言われています。
クラウドファンディング
クラウドファンディングとは、インターネットを通じて資金を募るというもの。寄付型、購入型、投資型などの種類があり、自分の事業にあった方法を選ぶことが大切です。たとえば寄付型は、支援者に対して商品やサービスなどのリターンはありませんが、そのぶん、プロジェクトに共感してもらう必要があるため、環境保全や災害支援など社会貢献を目的としたプロジェクトに向いています。支援者には、寄付分に関して税制優遇が受けられるメリットもあります。
CAMPFIREやMakuakeなどの購入型は、支援者から資金を得る代わりに、プロジェクトの商品やサービスなどを、通常よりお得な価格で提供するもので、新しいプロジェクトや商品開発に向いています。All-or-Nothing方式の場合、比較的大きな金額を調達できる場合もありますが、目標金額を達成できない場合は、プロジェクトの頓挫や縮小などということもあり得ますので、入念な計画と段取りが必要となります。All-in方式の場合は、支援された分だけの資金を調達できます。それぞれにメリットデメリットがあります。
投資型は、新規の事業やベンチャー企業が資金を得るために有効です。事業が成長した場合には出資の見返りに、分配金や株などの金銭的なリターンを提供します。投資型の場合は、金融商品取引法の対象になる場合があるため、注意が必要です。さまざまな種類があるクラウドファンディング。それぞれの特徴を踏まえて、相性が良いものを選びましょう。
企業が存続するために、重要な資金繰り
事業の資金はよく、私たち人間にとっての空気や血液に例えられます。人間は空気や血液がなければ生きていけません。つまり、そのくらい資金は会社にとって大事なものなのです。2020年は新型コロナの影響により、さまざまな業種で経営が悪化しています。こんなときこそ、しっかりと資金繰りをして倒産を防ぐことが大切です。
資金繰り表を作成すると、いつまでにどれくらいの資金が必要か、またはどれくらい不足するかが、きちんと数字として表れます。これをもとに、キャッシュフローをしっかりと把握して資金繰りを改善し、手元の資金を確保しましょう。資金が潤沢に回ることにより、倒産の危機を免れ、健全な会社経営を行うことができます。足りない分は早めに資金調達をして、余裕のある資金計画で健全な経営を目指したいですね。
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