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千葉で3代続くバナナ専門店「佐藤バナナ店」…バナナってそんなに儲かるの?

2022.05.25

著者:斎藤充博

世の中には様々な専門店がありますが、なんと千葉県にはバナナしか置いていないバナナ専門店があるのだとか。しかも現在の店主は三代目! バナナだけでどう商売をするのでしょうか? そもそもバナナだけでちゃんと儲かるの?

スモールビジネス事業者やこれから起業を考えている方たちにとってビジネスに役立つヒントがきっとあるにちがいない! ということで、ライターの斎藤充博が千葉県館山市にある「佐藤バナナ店」さんで話を聞いてきました。


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バナナしか売っていないバナナ専門店が千葉にある

こんにちは。ライターの斎藤充博です。今日来ているのは千葉県館山市にある通称「佐藤バナナ店」というお店。こちらは、バナナしか置いていないバナナの専門店なんです。

店内に入ると、あっちもバナナ。こっちもバナナ

バナナの甘い香りがただよう……。

マジでバナナ以外の売り物がありません。

今回取材に応じてくれたのは佐藤バナナ店の3代目、佐藤隆史さんです。

佐藤:斎藤さん、まずはバナナを食べてみませんか?

佐藤さんにうながされるままにバナナをいただきます。

まず食べたのはエクアドル産のバナナ。実がしっかりしていて、甘みの奥にフルーティーな酸味が感じられます。次に食べたのはフィリピン産のバナナです。こちらは実がねっとりしていて、とても甘い。

斎藤:どっちも、めちゃくちゃうまいですね……。ただ、僕はエクアドル産の方が好みかもしれません。

佐藤:日本では、エクアドル産のバナナはちょっとマイナーなので、珍しく感じるのかもしれませんね。もっとも、最近では取り扱うスーパーも増えてはきましたが。
フィリピン産のバナナの方は、良くも悪くも「いかにもバナナ」って味がしませんか?

斎藤:ですね。みんなが「バナナ味」って聞いて頭に思い浮かべるのは、間違いなくフィリピン産の方だと思います。

斎藤:バナナってやわらかすぎたり、固すぎたり、いろいろな状態があるじゃないですか。このバナナは、そのどちらでもない、完全に「ちょうどいい」感じがします。

佐藤:ありがとうございます。実は熟成の度合いについては、専門店として気を遣っているところではあるんです。

斎藤:バナナ専門店ってことは、この2つ以外にもいろいろな種類のバナナがあるんですか?

佐藤:いまの季節はフィリピン産とエクアドル産だけです。春になったらここに台湾産のバナナも加わるのですが。

斎藤:いま取り扱っているのは2種類だけ? 念のためにおうかがいしたいのですが、バナナの他に売っている物は……?

佐藤:ないです。バナナだけですね。

バナナだけで、やっていけるんでしょうか……? 僕はそんなふうに思ってしまうのですが、佐藤バナナ店の創業は1931年。なんと、おじいさんの代から続いているんです。

バナナってそんなに売れるの? 儲かるの? バナナ専門店の経営事情を聞いてみました。

1日に3,000本バナナが売れる

斎藤:率直におうかがいしますが、バナナって、そんなに売れるものなのでしょうか……?

佐藤:日本人が一番食べている果物ってバナナなんですよ。リンゴとかミカンだと思っていませんでしたか?

斎藤:知らなかった。でもそう言われてみると、バナナって旬がないし、食べるのも簡単。僕自身も意外と買っているような気がしています。

佐藤:実はバナナって定期的にブームが起きているんです。2000年代の前半に「朝バナナダイエット」ってあったの覚えていますか?

斎藤:ありました、ありました。

佐藤:あの時はすごかったです。店のバナナが午前中で全部売り切れて、仕方がないので、午後にはシャッター締めてました。

斎藤:すごい……。

佐藤:それから、マラソンやテニスの選手が休憩の時にバナナを食べますよね。テレビ中継で見たことありませんか? そういう映像が流れるようになったことで、世の中の需要が増えてきています。

斎藤:なるほど。手軽な栄養補給ですね。

佐藤:うちは小売りだけでなく、八百屋さんや近隣のスーパーなどに卸しもやっています。最近では「タピオカ」に続くドリンクとして「バナナジュース」が流行りそうって話があるんです。そうしたバナナジュースを作るお店にも卸していますね。

斎藤:卸もやっているんですね。それにしてもタピオカなみにバナナジュースが流行ったら、もうすごいことになりそう……。

ずばり聞いちゃいますが、一日の売上ってどのくらいですか?

佐藤:金額ベースでお答えするのは難しいので、本数で答えてもいいですか? だいたい1日に3,000本くらいです。卸売りが6割で、店頭での小売が4割くらいのイメージですかね。卸の方がちょっと多い。

斎藤:3,000本!!! すごい。メチャメチャ売れてるじゃないですか!!!

リンゴやミカンよりバナナの方が利益が出る

斎藤:量が売れるのはわかったのですが、バナナって単価が安いですよね。ぶっちゃけ、利益って出るんでしょうか……?

佐藤:これもちょっと明確には言いにくいのですが、リンゴやミカンよりはいいですね。バナナって商社から直接買い付けるので、中間マージンが省けるんですよ。

斎藤:へえ! バナナって意外と利益率がいいんですね。

佐藤:でもね、バナナって保管が意外と難しいんですよ。ちょっと倉庫に行ってみましょうか。

佐藤:これは「ムロ」と呼ばれるバナナ倉庫です。これが6部屋あります。

斎藤:おお、バナナを保管するのに、こんなにがっしりとした倉庫がいるんですね。

斎藤:すごく甘くていい匂いしますね……。

斎藤:ここのバナナはまだ青いですね。

佐藤:そう。青い状態で商社から買い付けるんですね。これを倉庫の中で熟成させるんです。その時の温度管理が難しい。バナナは温度に敏感で、暑すぎても、寒すぎてもダメなんです。

斎藤:どのくらいの温度に設定するんでしょう?

佐藤:もう本当にその時々によって変わります。1~2度の差で熟成具合は変わるので。悩んだ末に0.5度単位で調節をすることもあります。

斎藤:うちのエアコン、0.5度刻みの調節なんてできないですよ。人間よりも丁重に扱われてますね。

佐藤:まあ、実際には0.5度刻みの調節は、細かすぎるかもしれません。そこまでやらなくてもいいのかもって思います。

ただ、温度の調節を失敗するとおいしくなくなっちゃうんです。熟成が足りなくて、芯が残ったようなバナナになってしまったり、逆に熟成が進みすぎて、真っ黒なバナナになってしまったりすることもありますね。

そういうことを考えると、ついつい神経質になっちゃいますね。

斎藤:奥が深いんですね。確かに、時々スーパーでは芯が残ったバナナを売っていることがありますね。あれはおいしくない……。

佐藤:バナナの味には本当に気を遣っています。お客様のなかには「佐藤さんのバナナを食べたら他のところのバナナを食べられないよ」って言ってくれる人も多いです。

斎藤:確かに、おいしかったです。

佐藤:正直、うちのバナナはそのへんのスーパーよりも、ちょっとだけ高いんです。いや、高いと言っても、ちょっとだけですよ。それでもお客さんは差をわかってくれて、買いに来てくれるんですよ。

斎藤:保管でバナナをおいしくして、付加価値つけているのすごいですね! リンゴやミカンには熟成することはないですもんね。

かかるお金は仕入れがほとんど

斎藤:バナナ専門店って、お金はどんなものにかかるでしょうか? やっぱりバナナの仕入れですか?

佐藤:そうですね。出ていくお金については、仕入れが6~7割のイメージです。

斎藤:保管庫の空調などについては、お金がかかったりしないんでしょうか?

佐藤:温度の調整はしているんですが、温室や冷蔵庫のように極端な温度にしているわけではないんですね。常温の範囲でいかに微調整するか、です。だから電気代についてはそこまでかかってはいませんね。もっとも、先ほど言ったように調整の手間はかかるんですが……。

斎藤:なるほど。仮に保管庫の設備を新しくそろえようとしたら、けっこうお金がかかりそうですね。

佐藤:いまだったら相当かかるかもしれませんね。ここは祖父の代に作った保管庫をそのまま使っているので、もう初期投資の回収は気にしなくてはいいのですが。……ただ、空調の調子が悪くなると、ヒヤヒヤしますね。かなり古い物だから、修理業者さんが部材の確保に苦労しています。

斎藤:バナナ専門店、意外とおいしい商売かも……って思ったけど、新規で参入するのは大変なのか……。

そもそもなぜバナナ専門店を始めたのか

斎藤:そもそも、3代前のおじいさんはなぜバナナ専門店を始めたんでしょうか?

佐藤:まだバナナが一般的ではなかった頃です。私の祖父は普通の会社員だったんですが、バナナを生まれて初めて食べて「こんなうまい物はない!これで商売するぞ!」って思って始めたらしいんです。

斎藤:それでバナナ専門店始めちゃうんだ!

佐藤:当時はバナナが高級品でしたから。バナナ専門店の存在は、珍しくなかったようです。千葉県にも、いくつかあったそうですよ。いまでは見当たりませんが……。

斎藤:当時はバナナの存在感がいまとは全然違うわけですね。

佐藤:また、うちはバナナ専門店を名乗っていますが、創業以来ずっとバナナ一筋だったわけでもないんです。戦争中でバナナが輸入できなかったときは、普通の八百屋になったこともあったそうです。

佐藤:父の代ではけっこういろいろな果物を売っていましたね。マンゴーなどの外国の果物を販売したり、葬祭に使う果物カゴを販売したり。でも結局、バナナ専門店に戻りました。

最近ではバナナ専門店が珍しいということで、こうした取材を受けることも多いです。ただ、昔を知っている人からは「お前のところ、バナナ以外の物も売っていたじゃないか」って言われちゃいますね(笑)。

専門店のプライドと間口を広くとることを両立させる

斎藤:商売を長く続けるコツみたいなものはありますか?

佐藤:お客様の間口は広くとっておこうと。バナナ専門店なんて聞くと、敷居が高く感じる人もいると思うんです。値段が高いのかもって思う人もいるかもしれない。

確かにスーパーにくらべたら、ちょっとだけ高いんですが、そんなにすごい高いわけでもない。専門店のプライドも持ちつつ、リーズナブルな範囲に値段は抑えています。お客さんの個別の要望にもできるだけお応えしています。そうすることで、家族がふつうに食べていくくらいは稼いでいける、って感じですね。

斎藤:それって、意外と難しいことのような気がします。明確な信念がないとできないですよね。

佐藤:やっぱりバナナですから。気楽な気持ちで食べてもらいたいですよね。

斎藤:ちなみに、最後にどうしても聞きたかったんですが、佐藤さんの一番好きな食べ物ってなんですか?

佐藤:……梨ですね。

斎藤:そうなんだ(笑)

佐藤:だって、梨ってみずみずしくて、めっちゃうまくないですか?(以降、梨の魅力についてしばし語る佐藤さん)

バナナって、値段が安いし、栄養素があるし、食べるのに手間がかかりません。そのおかげで僕たちは本当に気楽な気持ちでバナナを食べています。

でもそれを提供する佐藤バナナ店は工夫と手間をかけてバナナを売っていました。そして利益をちゃんと出している。

今後、バナナを見る目がちょっと変わりそうかも。そう思った取材でした。

Photo:沼田学

この記事の著者

斎藤充博

1982年生まれ。ノンバンク金融の営業を退職した後に、指圧師、マンガ家、ライターなどの仕事をしていまに至っています。著書に『いやしのツボ手帳』(永岡書店)、『ツボストレッチ』(日本文芸社)などあり。

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