個人事業主から法人化(法人成り)したい!必要な手続きは?自分でもできる?

個人事業主で開業した人にとって、開業の手続き自体はそれほど難しくなかったのではないでしょうか? 税務署や市区町村に届出を行った程度の記憶しかないかもしれません。しかし、法人化をするとなると、話はそう簡単ではありません。
個人事業主が法人化(法人成り)する場合には、どのような手続きが必要となり、どのような点に気をつければよいのでしょうか? 今回は個人事業主が法人化する際の基本的な流れや必要書類、必要な届出などについて解説いたします。
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目次
- POINT
-
- 個人事業主が法人化するときは、特に本店住所について登記が可能かどうかをしっかりと確認する
- 法人化をするときの資本金は、個人事業主時代の資産の状況を鑑みて決める
- 法人化した後は、会社名義の口座を速やかに開設するとともに、個人事業主の廃業に関する届出書や、各種許認可に関する届出を行う
個人事業主から法人化(法人成り)の基本的な流れ
「個人事業主の開業」と「会社を設立しての開業」のもっとも大きな手続き上の違いは、登記手続きの有無です。会社は、いくつかのプロセスを経て登記をすることで設立することができます。個人事業主として開業する場合は、開業届を提出するだけで、登記は不要です。ここでは、個人事業主が法人化するまでにどのようなプロセスが必要になるのかを見ていきましょう。
STEP1.会社の基本事項を決定する
最初に、以下のような会社の基本事項を決めていきます。
【会社設立の際に決めるべき基本事項】
- 会社の形態
- 商号(社名)
- 事業目的
- 本店住所
- 役員構成
- 資本金
会社の形態はいくつかありますが、主に使われる形態として「株式会社」と「合同会社」があります。合同会社は株式会社に比べて会社設立のコストが半分以下で済みますが、知名度の点では株式会社に軍配が上がります。
参考までに、筆者が手掛けてきた法人化案件では、飲食店などBtoCの事業で社名があまり前面に出ないビジネスにおいては「合同会社」、一方で、コンサルティングなどBtoBビジネスにおいては「株式会社」が選択されていることが多いです。
会社の形態が決まれば、次にその他基本事項の決定です。
社名については、個人事業主時代に屋号を使っていた方であれば、その屋号をそのまま利用する人もいます。一方、会社設立を機に別のビジネスにも手を広げたいなどの理由で、心機一転まったく別の名称を付ける人もいます。
事業目的については、個人事業主のときにやっていたビジネスの内容や、会社設立を機に新たに始めたいビジネスを記載しておきましょう。
本店住所については、個人事業主時代のオフィスや店舗があれば、そのままそこで登記すればよいでしょう。ただし、あらかじめオフィスや店舗の管理会社に連絡して、法人化して本店住所として登記したい旨は伝えておきましょう。
注意しなければいけないのは、賃貸の自宅を個人事業主のオフィスとして使用していた場合です。
個人事業主であれば、賃貸で借りている自宅でオフィスワークをしていても不特定多数の人が出入りするなどの事情がない限り、とがめられることはないでしょう。しかし、法人化してその住所で登記するとなると話は別です。居住用として借りている部屋を会社の本店にすることは、契約違反になる可能性大です。まずは賃貸契約書を確認して、必ず管理会社を通して大家さんに確認しておきましょう。
勝手に登記して、郵便物などから登記していることがわかってしまうと、後々の賃貸契約に影響を及ぼしかねません。分譲マンションも同様に、管理規約で登記不可となっていることがありますので、必ず事前に確認しておきましょう。
役員構成については、個人事業主から法人化(法人成り)する場合は、あまり検討するポイントはないでしょう。なぜなら、事業主ひとりで登記することがほとんど(場合によってはプラス配偶者などの家族)だからです。
また資本金については、いくらにすればよいのかということは個人事業主時代の最後の所得税の確定申告書(年の途中での法人化の場合は、それまでの試算表)をもとに決めることになります。法人化をする場合、おそらく顧問税理士がいるのだと思います。資本金の金額については、顧問税理士と相談して決めましょう。
商号(社名)が決まったら、会社の印鑑も早めに発注しておきましょう。会社の印鑑には実印、銀行印、角印の3種類があります。それぞれの役割は以下の通りです。
法人の実印……登記申請や不動産などの取引など、重要な場面で使用する会社の代表印です。個人の実印と同じような役割があります。会社設立の登記申請の際に、同時に法務局に届け出なければいけません。
銀行印……窓口での口座開設のときに届け出ます。金額の大きな振り込みを行うときなどに使用します。個人の銀行届出印と同じものだととらえておけばよいでしょう。
角印……もっとも使用頻度が高いハンコです。社判とも呼びます。請求書や見積書などに押印します。日常の認印のような役割を果たします。
特にこだわりの手彫りなどだと数週間かかる場合もありますので、設立日との兼ね合いに注意しなければいけません。
通常は上記の3本セットで販売されています。1本のハンコですべてを兼ねることもできますが、その場合、すべての印を実印で押印するということになってしまいます。どんな書類にも実印を押すというのもセキュリティの面で心配です。ここは無難に3本セットを購入しておいたほうがよいでしょう。
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STEP2.必要書類や定款等を準備し、作成する
基本情報が決まれば、あとはそれを定款(ていかん)に落とし込んで、その他必要な書類を作成します。登記に必要な書類は、株式会社か合同会社かということや、どのような役員構成なのかということで、変わってきます。
法務局のサイトに必要な書類が載っていますので、それを参考に書類を作成するのもよいですが、法人化の場合は、すでにビジネスが始まっていて、会社設立手続きに時間を割く暇がない人も多いでしょう。そんなときは会社設立の専門家である司法書士や行政書士に依頼しましょう。
- 【参考】
- 法務局:商業・法人登記申請手続
ただし、行政書士は、以下STEP.4の法務局での登記申請手続きを行うことは法律上認められていません。そのため会社設立手続きを最後まで専門家にお願いする場合は、司法書士に依頼するのがよいでしょう。個人事業主時代からの顧問税理士がいれば、専門家を紹介してもらうのもよいかもしれません。
STEP3.公証人による定款認証を行う
株式会社の場合は、公証人による定款認証の手続きが必要です。
定款認証には、紙で印刷した定款を使う場合と、電子定款といって、PDFファイルで作成した定款を専用ソフトにより電子署名して、公証役場に送信して認証手続きをする方法の2種類があります。どちらのパターンにしても、最終的には公証役場まで定款を取りに行く必要があります(テレビ電話での認証という手続きもありますが、ほぼ利用されていませんので、割愛します)。
2つの方法で大きく異なるのは印紙代です。紙の定款の場合は印紙4万円が必要となりますが、電子定款であれば印紙が必要ありません。そのため、印紙4万円分だけ電子定款のほうが安上がりとなります。
とはいえ、電子署名や電子定款の公証役場への送信など、専門家でないとできないような手続きも必要となります。この意味でも、会社設立は司法書士・行政書士に依頼したほうがよいでしょう。
合同会社の場合は、定款認証の必要がないため、設立にあたって公証役場で公証人の認証を受ける必要はありません。ただし、定款そのものの作成は必要です。定款を紙で作成した場合、やはり印紙代4万円がかかりますので、これを節約するためには、PDFファイルに電子署名した電子定款が必要になります。この点は株式会社の定款認証の手続きと変わりありません。
STEP4.法務局に登記申請に行く
定款認証が終わり、その他の必要な書類の作成も完了したら、あとは法務局での登記申請だけです。法務局で登記申請を受け付けてもらった日が会社の設立日となります。
登記申請は、司法書士が申請する場合は郵送で行うことも多いですが、もし自分で登記申請する場合は間違いなく受付をしてもらうため、法務局まで持参したほうがよいでしょう。書類不備などで受付できなければ、会社設立日もずれ込んでしまいます。
余談ですが、法人化の場合は、年いっぱい個人事業主として、1月から法人化しようとしている人も多いと思います。ただし、法務局は1月1日~1月3日までは例年閉まっています。そのため、受付、つまり会社設立日は最短でも1月4日(4日が土日ならその次の月曜日)となります。1月1日設立で準備を進めないように注意しておきましょう。
法務局に登記申請をしたら、その日に登記事項証明書を取得できるわけではありません。法務局内でおよそ1週間から10日ほど登記の審査があり、その審査終了後に登記事項証明書の取得が可能となります。
STEP5.登記事項証明書、印鑑証明書を取得する
登記が完了すると、登記事項証明書(登記簿謄本と呼ばれることもあります。)や法人の印鑑証明書の取得が可能となります。いずれの書類も、管轄の法務局以外でも、全国どの法務局でも交付してもらえます。
ただし、印鑑証明書については、交付を受けるためには「印鑑カード」が必要となります。印鑑カードは、管轄の法務局に交付申請書を提出すれば交付が受けられます。郵送でも交付申請が可能ですし、窓口に行けば即日発行してもらえます。印鑑証明書の取得はどの法務局でも可能ですが、印鑑カードの交付申請は管轄の法務局で行うことになります。
法人化したらすぐに必要な手続きは
法人化には、会社設立の登記以外にもさまざまな手続きが必要となります。個人事業主のときの売掛金や口座の取扱いも気を付けなければいけません。
会社名義の銀行口座の開設申し込み
まず行いたいのが、会社名義の銀行口座の開設申し込みです。会社設立以降は、個人事業主時代に使用していた銀行口座から、会社名義の口座に切り替える必要があります。
売上金の入金や売掛金の回収、経費などの支払いも法人化後は会社口座で行います。ここで注意したいことが、いくつかあります。
・個人事業主時代の売掛金の回収
会社の口座ができていても、個人事業主時代の売掛金は、あくまで個人事業主として回収します。
・法人化(法人成り)して、個人事業主としての売上を会社口座に入金してしまったとき
このときは、そのままの金額を引き出したり、個人口座に振り込んだりして対応しましょう。振り込んでもらうべき口座を間違ってしまっただけなので、単にお金を移動させるだけで問題ありません(会社から社長がお金を借りるというわけではないので、特に社長個人と会社の間で書面を取り交わすなどの必要ありません)。
仕訳例:
入金時
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
普通預金(会社口座) | 10,000円 | 未払金(社長) | 10,000円 |
社長個人への支払時
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
未払金(社長) | 10,000円 | 普通預金(会社口座) | 10,000円 |
・会社の売上を個人口座で回収する
会社の売上を個人口座で回収するということも法人化(法人成り)の直後には発生する可能性があります。この場合は、個人口座で回収した売掛金を会社口座に振り込んだり、預け入れたりして対応しましょう。
仕訳例:
社長個人口座への入金時
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
未収入金(社長) | 10,000円 | 売掛金 | 10,000円 |
社長個人への支払時
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
普通預金(会社口座) | 10,000円 | 未収入金(社長) | 10,000円 |
会社名義の口座の開設には、数日から数週間かかりますので、登記事項証明書が手に入ったら、すぐに口座開設の申し込みをしたほうがよいでしょう。
法人化(法人成り)した後は、それ以外にも多くのやるべき手続きがあります。どのような手続きが必要になるのか、見ていきましょう。
それまでの個人事業の廃業手続きを忘れずに
新設法人として、会社を設立すると、税務署や都道府県、市町村に法人設立届出書など、会社設立時の書類を提出しなければいけません。これは、個人事業主から法人化(法人成り)の場合でも同様です。
法人化(法人成り)の場合は、この届出に合わせて、「個人事業の廃業届出書」も税務署や都道府県、市町村に提出します。また、消費税の課税事業主であった場合には、各種の不適用届出書も必要に応じて提出します。
廃業関係の届出書
提出先 | 提出書類 | 提出する場合 | 提出期限 |
---|---|---|---|
税務署 | 個人事業の廃業届出書 | 必須 | 廃業日から1か月以内 |
青色申告の取りやめ届出書 | 青色申告の承認を受けている場合 | 廃止年の翌年3月15日まで | |
消費税簡易課税制度選択不適用届出書 消費税課税事業者選択不適用届出書 消費税課税 期間特例選択不適用届出書 |
各種の消費税の特例を選択している場合(いずれか1つを提出すれば、他の不適用届出書も提出した扱いとなる) | 速やかに | |
事業廃止届出書 | 消費税関係の不適用届出書のいずれかを提出しない場合 | 速やかに | |
各自治体 | 事業廃止届 | 必須 | 自治体による |
個人事業主は、税務署に対して所得税、都道府県に対して個人事業税、市町村に対して個人住民税(均等割の事業所課税)の納税を行っています。廃業すればこの納税の必要がなくなるので、その旨を届け出る必要があるのです。
注意したいポイントとして、法人設立届出書の提出期限は設立から2ヵ月以内となっているということです。また、個人事業の廃業届出書の提出期限は税務署については廃業から1ヵ月以内です。個人事業の廃業届出書のほうが先に提出期限が来ますが、法人設立届出書も早めに出しておけばよいでしょう。金融機関によっては口座開設時に法人設立届出書のコピーを求められることもあるためです。
併せて、個人事業主として青色申告の承認を受けていた場合には、税務署に「所得税の青色申告の取りやめ届出書」も提出しなければいけません。この届出書には、青色申告の承認を受けていた期間などを記載する必要がありますので、いつ青色申告の承認を受けたのかということを確認しておきましょう。
また、青色申告の承認を取りやめる理由の記載欄もあります。ここは、「法人化のため」などと記載しておけばよいでしょう。設立後の法人の情報は、廃業届出書に記載するので、ここで詳細に記載することまではしなくてもよいでしょう。
そして、新たに会社(法人)として「青色申告の承認申請書」を提出することになります。
また、個人事業主時代に「給与支払事務所の開設届出書」や「源泉所得税の納期の特例承認申請書」と提出していた場合は、個人事業の廃業届出書の提出によって、これらの効力も当然失われますので、別途これらの取りやめの届出書を出す必要はありません。法人で給与を支払う場合や、源泉所得税の納期の特例を受けようとする場合は、改めてこれらの届出書の提出が必要です。
もし、法人化(法人成り)に伴って新たにオフィスを借りるなどしている場合は、会社と個人事業主で管轄の税務署が異なってくることがありますので注意しておきましょう。
また、個人事業主時代の納税額によっては、法人化(法人成り)後も所得税の予定納税の通知が届いてしまいます。それを防ぐために、「予定納税の減額申請書」も提出しておきましょう。個人事業主を廃業した場合などで翌年の所得税の確定申告の必要がない人などがこの届出書を提出することで、予定納税の納付をする必要がなくなります。
各機関へ届出
個人事業主の廃業関係の届出以外にも、法人を設立したこと自体で届出が必要となります。必要となる届出や提出先は以下の通りです。
【税金関係】
提出先 | 提出書類 | 提出する場合 | 提出期限 |
---|---|---|---|
税務署 | 法人設立届出書 | 必須 | 会社設立の日から2ヵ月以内 |
給与支払事務所等の開設届出書 | 給与を支払う場合 | 第1回給与支払日まで(役員報酬も含む) | |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 源泉所得税の納期の特例を受ける場合 | 納期の特例を受ける月の初日の前日まで | |
青色申告の承認申請書 | 青色申告の承認を受ける場合 | 設立から3ヵ月以内 | |
消費税課税事業者選択届出書 | 消費税の課税事業者を選択する場合 | 設立第1期の終了日まで | |
消費税簡易課税制度選択届出書 | 消費税の簡易課税を選択する場合 | 設立第1期の終了日まで | |
都道府県税務事務所 | 法人設立届出書 | 必須 | 都道府県による |
市町村(東京23区は不要) | 法人設立届出書 | 必須 | 市町村による |
【雇用関係】
提出先 | 提出書類 | 提出する場合 | 提出期限 |
---|---|---|---|
年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険新規適用届 | 健康保険・厚生年金保険に加入する場合 | 健康保険・厚生年金保険に加入する日から5日以内 |
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届 | 健康保険・厚生年金保険に加入する場合 | 健康保険・厚生年金保険に加入する日から5日以内 | |
健康保険被扶養者(異動)届 | 被保険者に扶養する者がいる場合 | 扶養に入る場合、できる限り早く | |
国民年金3号被保険者資格取得届 | 被保険者に被扶養配偶者がいる場合 | 扶養に入る場合、できる限り早く | |
労働基準監督署 | 適用事業報告 | 従業員を使用するようになった場合 | 労働基準法の適用事業となってからできる限り早く |
時間外労働及び休日労働に関する協定届(36協定書) | 従業員に時間外労働をさせる場合 | 時間外・休日労働を行う前まで | |
労働保険関係成立届 | 従業員を使用するようになった場合 | 従業員を雇った日から10日以内 | |
労働保険概算保険料申告書 | 従業員を使用するようになった場合 | 従業員を雇った日から50日以内 | |
雇用保険適用事業所設置届 | 雇用保険に加入する従業員を使用するようになった場合 | 従業員を雇った日から10日以内 | |
雇用保険被保険者資格取得届 | 雇用保険に加入する従業員を使用するようになった場合 | 従業員を雇った月の翌月10日まで |
業種別で必要な各種の届出に注意しよう
税金関係の手続きのほかにも、業種によっては法人化(法人成り)によって手続きが必要となります。もともと個人事業主として許認可を取っていても、法人化(法人成り)するとあらためて会社として許認可を受ける必要が出てきます。
ここでは、法人化(法人成り)によって改めて許認可が必要なもののうち、主なものを列挙していきます。また、個人事業主としては「廃業扱い」となるので、各許認可について個人事業主として廃業の手続きを取らなければいけない点は税金と同じです。
許認可の手続きが終わらないと、会社としてビジネスが開始できないという意味では、会社名義の口座開設の手続きと同じく、登記終了後にすぐに取り掛かりたい手続きでもあります。
さて、具体的にどのような手続きが必要になるかということは、各管轄の役所で確認することができます。もちろん、いくら個人事業主時代にその業務で許認可を受けていたからといって、会社を設立した以上は、新たに会社として許認可を取得しなければいけません。
また、許認可を取らずに会社としてこれらの営業を行ってはいけません。この手続きを確実に進めるためには行政書士(有料職業紹介事業や人材派遣業の場合は社会保険労務士)に依頼するのもよいでしょう。
【業種別・許認可手続きを管轄する行政機関】
業種 | 申請先 |
---|---|
飲食店 | 保健所 |
建設業 | 都道府県 |
宅地建物取引業 | 都道府県 |
理・美容業 | 保健所 |
有料職業紹介事業 | 労働局 |
人材派遣業 | 労働局 |
古物業(リサイクルショップなど) | 警察署 |
各種の契約などで名義変更の手続きにも注意
法人化(法人成り)したら、住所の不動産の契約名義を、個人から会社に変更する手続きを行ったほうがよいでしょう。会社名義で契約しないと家賃を会社の経費で落とせないというわけではありませんが、会社で使用する以上、会社名義に変更するのが自然です。多少費用がかかるかもしれませんが、管理会社に確認して早めに手続きしましょう。
その他にも、個人事業主時代にお客様がクレジットカードを使った際の売上の入金先を個人事業主の口座に設定している場合は、会社口座ができ次第、会社口座に入金されるように変更手続きを行いましょう。そうしないと、会社の売上を個人の口座で回収することになってややこしくなります。
また、自動引き落としで引き落とされている電話料金や水道光熱費があれば、早めに会社口座から引き落とされるように手続きを行いましょう。家賃同様、個人の口座から引き落とされていても経費計上は可能ですが、個人が会社の代わりに立替払いした扱いになって、会計処理が多少ややこしくなってしまいます。
個人事業主から法人へ「資産移行」
法人化(法人成り)をすることで、個人事業主時代の資産を法人に移す手続きが発生します。特に店舗系のビジネスのように、個人事業主として内装の設備や在庫を抱えている場合には法人化(法人成り)によって、それらの資産を法人に移行する必要があります。
法人化(法人成り)によって資産を移す方法には大きく分けて2つがあります。ひとつが新たに作った法人に売却すること、そしてもうひとつが現物出資です。売却の場合は、資産の移行の対価として設立した法人からお金を受け取ることになりますし、現物出資であれば株式(合同会社であれば持分)を対価として受け取ることになります。
売却にしても、現物出資にしても、重要なのは、いくらで移行するかということです。まずは簿価(固定資産であれば残存価額)で移行するのがよいでしょう。簿価で移行すれば、個人事業主側で利益が発生しないため、資産の移行それ自体で所得税が発生するということがありません。
ただし、現物出資の場合は移行する金額に注意が必要です。現物出資を行う資産の価額の合計額が500万円を超える場合、その金額が本当に見合っているかということについて、弁護士などの第三者の専門家による調査などが必要となります。そのため、移行する資産の価額が500万円を超えるようであれば、現物出資ではなく売却の形を取るのがよいでしょう。
また、このほかにも個人から法人への賃貸や、対価を取らずに法人に渡す贈与といった方法もあります。賃貸だと、法人から賃借料を受け取るわけですから、個人事業主を卒業したのに毎年確定申告をしなければならなくなりますし、贈与だと価値があるものを法人がタダでもらえるわけですから、その分利益として法人税が課税されることになります。いずれの方法も、積極的に取るメリットがありませんので、結局は売却か現物出資の形で資産を移行するのが通常です。
また、個人事業主時代に借入金があれば、それも移行する手続きが必要です。手続き自体は金融機関に確認すればよいのですが、注意すべき点は個人が返済すべき借入金を会社が引き受けるということです。借入金の金額そのものを法人に渡すことができればよいのですが、借入金で設備投資をする場合のように、お金ではなく固定資産の形に代わっていることもあります。
つまり、法人が借入金を引き受ける対価としてお金の代わりに固定資産などを個人から受け取るということも考えられます。そうなると、先ほどのような現物出資や売却ということも必要なくなるでしょう。
特に借入金の引き受けが絡む場合には、そもそも売却や現物出資ということが必要かどうか含めて検討する必要があります。顧問税理士に相談するなどして、慎重に方向性を決めていくことが重要です。
個人事業を廃業した年の確定申告
個人事業を廃業した年も確定申告は必要となります。廃業したといっても、法人化(法人成り)であれば、廃業前までは通常通り事業をしていたはずですので、確定申告といっても例年通りに行えば問題ありません。
ただし、法人化(法人成り)をする年に特有の処理が法人に資産を譲渡するケースです。前述の現物出資にしても、売却にしても、個人としては資産を法人に渡して、対価としてお金や株式を受け取ったということになります。そうなると、金額によっては利益が出ることもありますので、確定申告が必要となります。
ちなみに、通常の廃業と違って、法人化(法人成り)では同じビジネスを個人から法人に間髪入れず引き継ぐことになり、設立日を境に経費の計上主体も個人から法人に移行します。そのため、法人化(法人成り)のあとに個人事業主時代の必要経費が発生するということはほぼないでしょう。
ただし、個人が納めるべき事業税のように、法人化(法人成り)の後に個人事業主の必要経費にすべき支出が発生することがまれにあります。このようにいったん終わった確定申告で追加の経費を計上するケースでは確定申告を訂正する「更正の請求」という手続きが必要になります。
また、課税事業者であった場合には、消費税の確定申告も必要となります。所得税の確定申告で、正確に売上や経費を計上しておけば、あとは例年通り申告すれば問題ありません。ただし、在庫や固定資産などを法人に譲渡した場合には、その対価に消費税がかかります。この点は、法人成り特有のポイントとして把握しておきましょう。
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