【実践解説】客単価や人件費を予測して「事業計画書」を作ってみよう

【会計士オオノ先生に聞く!お金の経営相談】
コワーキングスペースとカフェを兼ねたお店を運営している新米経営者・ゆうちゃん。公認会計士・税理士で、融資や資金調達について詳しい専門家・オオノ先生から、資金繰りや融資についていろいろと教えてもらっています。いよいよ今回は自社ビジネスの方向性や経営課題、将来の売上予測などを検討するために必要な「事業計画書」を作成することに!
さてさて、大野先生の実践的な解説から、どんなことが学べるでしょうか。
[おすすめ]法人の会計業務をかんたんに!無料で使える「弥生会計 オンライン」
目次
- POINT
-
- 事業計画書で将来の売上予測を作ることで、より収益性の高い経営方針を立てることができる
- 「人件費」がどのくらいかかるか、把握しておこう
- 「販管費」の予測は固定費と変動費に分けて考える
事業計画書を作成して、自社ビジネスの売上予測を立てるべし!
※本記事は「事業計画書・サンプル」のエクセルファイルをダウンロードして、事業計画書のサンプルと数字をつき合わせながらお読みいただくと、より実践的な理解を深めるための助けとなります。ぜひ以下よりゆうちゃんが経営しているお店の事業計画書のサンプルをダウンロードしてからお読みください。
>>「事業計画書・サンプル(jigyoukeikakusyosample.xlsx)」こちらよりダウンロード(.xlsx形式)
※事業計画書サンプル【1)実績PL(販管費)】をご確認ください
オオノ先生:それでは、さっそく事業計画書を作っていきましょう。事業計画書は売上計画から作り始めるとスムーズだと思います。ゆうちゃんが経営しているお店では、1つの店舗でコワーキングスペース(※)とカフェの2つのサービスがありますから、それぞれで分けて考えていきます。まずはカフェの方からいきましょうか。今後カフェをどのようにしていきたいと思っていますか?
(※コワーキングスペース:一般的なオフィス環境とは異なり、事務所スペース、打ち合わせスペースなどを共有しながら仕事を行う場所のこと)
ゆうちゃん:もっと売上を増やしたいと思っているに決まってるじゃん。今までは漠然と考えていたけど、前回で詳細な損益計算の分析をしたから、ちょっと対策が見えてきたよ。
オオノ先生:……と、言いますと?
ゆうちゃん:まず、昼の部については、さすがにこれ以上、回転率を上げるのは難しそうだし、稼働率を上げてキツキツに座ってもらうのもウチのコンセプトと違うかなと。そのかわり客単価については、ケーキとかプラス一品の注文をもっと声がけするようにすれば、800円くらいには引き上げられる気がする。
オオノ先生:確かに昼の部は、もう少し客単価を上げられそうですね。
ゆうちゃん:地道にお客さんにもう一品おすすめして、月に20円ずつくらい、じっくり時間をかけて客単価を800円まで上げてみるよ。
オオノ先生:現状の客単価が650円ですから、月20円ずつ上げれば、翌年の6月には800円になりますね。
(※事業計画書【1)実績PL(販管費)】の売上高「昼の部」の「客単価」をご参照ください)
ゆうちゃん:うん、それくらいのペースかな。
オオノ先生:そうすると、こんな感じですかね。客単価を上げることで、カフェスペースの昼の部の売上が75万円くらいから90万円まで増えましたね(755,500円→900,000円)。
※事業計画書サンプル【2)売上計画(カフェ昼)】をご確認ください
オオノ先生:カフェスペースの夜の部はどうですか?
ゆうちゃん:うーんと、これは前々から思っていたんだけど、もう少し料理の質を上げたいんだよね。今はほんとにカフェ飯(メシ)って感じだけど、コワーキングスペースで作業したあとに夜食を食べて帰られるお客さんがけっこう多くてさ。フリーランスの人だと、ちょっとお金出してでも、ちゃんと栄養バランスの良いものを食べたいって声が多いんだよね。
オオノ先生:つまりメニューを改善する必要があるってことですね。
ゆうちゃん:そうそう、もう少し和食メニューを増やしたい。
オオノ先生:料理の質を上げるとなると、その作り手はいますか?
ゆうちゃん:今の体制だと無理だと思うから、知り合いのフリーの料理研究家の人に頼もうと思ってる。その人が、夜だけならアルバイトで手伝ってくれるらしいんだよね。それにプラスで調理補助のアルバイトをもう一人雇って、新しいシフトを組もうかなと。
オオノ先生:そうすることで、客単価や原価率も変わりそうですね。
ゆうちゃん:うーん、客単価は2,000円くらいまでは上げられると思う。客単価が上がる分、もしかしたら原価率は下がるかもしれない。26%くらいかな。早ければ12月からその体制にできると思う。
オオノ先生:わかりました。その他の係数は変わらなそうですか? 例えば回転率とか。
ゆうちゃん:メニューの充実は実際に多くのお客さんからもらっていた要望だから、回転率も落ちないとは思うんだけど……。あ、でも、料理の質が良くなると、ゆっくり食べる人が増えるかもしれないね。念のため、12月から回転率を0.80回転から0.75回転くらいに下げておこうか。
オオノ先生:そうですね。だとすると、こういう感じになりますかね。カフェの方の売上はこれで完成です。
※事業計画書サンプル【3)売上計画(カフェ夜)】をご確認ください
ゆうちゃん:次はコワーキングスペースのほうの売上か。
オオノ先生:そうですね。まずは、会員の売上からいきましょう。
ゆうちゃん:今後はドロップイン(※)のお客さんより、月額で契約してくれる会員を増やしていきたいんだよね。とはいえ、あまり会員の数を増やしすぎると席が足りないってことにもなりかねないから……。
(※ドロップイン:月額の会員契約ではなく、時間単位で一時利用するサービス形態のこと)
オオノ先生:どれくらいの増加を目標にしますか?
ゆうちゃん:会員数はマックスでも20名くらいかなと思うんだよね。あまり増えすぎてドロップイン利用がしにくくなるのもちょっと問題だし。目標としては月に1名ずつ会員を増やしていけたら良いかな。
オオノ先生:12月から会員が1名ずつ増えるとすると、期末には15名になってますね。
※事業計画書サンプル【4)売上計画(コワーキング会員)】をご確認ください
ゆうちゃん:会員の売上が上がってきて(75,000円→225,000円)、イイ感じ!
オオノ先生:ドロップインの方の売上は、会員数が決まれば自動的に利用者の数が決まってくるので、こんな感じですね。
※事業計画書サンプル【5)売上計画(コワーキングドロップ)】をご確認ください
オオノ先生:会員数が増えた分、ドロップインの売上は減少(305,000円→210,938円)しましたが、全体としては売上が向上してますね。より収益性の高い会員売上にシフトしてきたという感じです。
ゆうちゃん:ほんとだ! コワーキングスペース全体の売上も40万円を越えてる(380,000円→435,938円)!
オオノ先生:カフェとの売上合計では月250万円を越えてきているので、これなら十分利益が出そうですね! では次に、さっそく販管費および一般管理費の計画に移りましょう。
ゆうちゃん:販売費および一般管理費か……けっこう難しそう……。
「人件費」の事業計画を立てる
オオノ先生:売上計画が定まっていれば、なんとなく事業の方向性が見えてくると思いますので、一般管理費や販管費の計画もそれほど苦ではないはずです。
ゆうちゃん:それで売上計画から作ったのか。
オオノ先生:そうです。では、まずは人件費から見ていきましょう。カフェメニューの変更に伴って人員配置も変わりそうなので、フォーマットをこんな感じにしてみました。
※事業計画書サンプル【6)人件費フォーマット】をご確認ください
ゆうちゃん:人件費の部分がちょっと詳細になったって感じだね。新規アルバイトっていうのが、料理研究家の人ともう一人増やす調理補助のアルバイトの人ってこと?
オオノ先生:そうです。それぞれどれくらいの勤務になりそうですか?
ゆうちゃん:そうね、最終的には料理研究家の人は週3勤務、調理補助の人は週4勤務って感じかな。だけど、12月だけは調理補助の人の育成期間でもあるから、2人とも週6で入ってほしい。
オオノ先生:それぞれ、時給はどうします?
ゆうちゃん:料理研究家の方は1,400円、調理補助の方は1,100円かな。
オオノ先生:わかりました。営業日から算定すると、こんな感じになりますね。
※事業計画書サンプル【7)人件費入力後】をご確認ください
ゆうちゃん:毎月90万円くらいの出費か……。やっぱり人件費っていちばんかかってくるところだねえ。
オオノ先生:とはいえ、人件費が売上の50%くらいですから、飲食店としては悪くない数字だと思いますよ。
ゆうちゃん:そうなんだ。だったらホッとした。つぎは販管費か。
「販管費」の予測は固定費と変動費に分けて考える
オオノ先生:はい。まず販管費の予測は、固定費と変動費に分けて考えると良いと思います。
ゆうちゃん:固定費と変動費?
オオノ先生:簡単に言えば、変動費というのは売上が増えたらそれにつれて増える費用のことです。一方固定費というのは、売上が増えても変化しない一定の費用のことですね。例えばゆうちゃんの会社の経費でいうと、消耗品費、雑費を変動費として、あとだいたいは固定費ですかね。
ゆうちゃん:交通費は? 交通費って変動費っぽいけど。
オオノ先生:交通費は売上に連動するというよりも、人数に連動しますね。人数が増えれば、その分の交通費も増えると思います。あと、広告宣伝費なんかは単純に変動費・固定費に分けることはできず、これは社長が戦略的に決定する費用ですね。
ゆうちゃん:戦略的にね~。
オオノ先生:ちなみに現在の広告宣伝費は売上の1.5%くらいの割合になっていますね。
ゆうちゃん:そっか、今後はコワーキングの会員さんも増やしたいから、2倍に増やしても良いかな。
オオノ先生:そうですか。では売上の3%くらいを目安に作ってみましょう。
ゆうちゃん:固定費については、大きな変更がない限りそのままの金額を据え置けばOK?
オオノ先生:そうですね。まとめるとこういう感じになります。
※事業計画書サンプル【8)PL最終】をご確認ください
ゆうちゃん:お! 春には単月黒字を達成してる!
オオノ先生:良い感じです。どうです? 現実的に無理はなさそうですか?
ゆうちゃん:うん。売上については控えめに計画したし、費用ももれなく計上できてそうだしね。
オオノ先生:それでは、これを今期の目標としましょう!
ゆうちゃん:ふ~、やっと事業計画書が作れた~。疲れたな~
オオノ先生:いえいえ、ゆうちゃん、まだ事業計画書は完成していませんよ。
ゆうちゃん:え? どういうこと?
オオノ先生:ここからさらに資金繰り表を作成して、実際にお金が十分回るのかを確認していきます。
ゆうちゃん:ひえ~。でも、そうだよね。いくら黒字でも、資金ショートしてしまったら、そこで倒産してしまうんだもんね。
オオノ先生:そういうことです。完成までもう少し! 次回は、同じexcelシートを使って資金繰り表を作成し、いよいよ事業計画書を完成させて行きます。頑張りましょう!
- 【関連記事】
- まさかの「黒字倒産」を避けるために
- なぜ、会社は「突然死」するのか〜経営者は知っておきたい倒産と資金繰りの大事な話〜【会計士オオノ先生に聞く!お金の経営相談】
- 手もと資金がどんどん減る!?事業成長に運転資金が追いつかない「成長痛パターン」とは【会計士オオノ先生に聞く!お金の経営相談】
撮影:塙薫子