個人事業主と法人の違いは?税金ではどっちがお得?法人化(法人成り)した方がいいタイミングは?【起業志望者必読】

個人事業主やフリーランスという働き方が社会に浸透し、会社から独立してお金を稼ぐ人も年々増えています。また、副業の広がりで会社員が独立した事業者として収入を得ることも珍しいことではなくなってきました。
そこでよく起業家の頭を悩ませるのが、個人事業主が良いのか、法人が良いのかということです。
今回は、この両者についてどのような違いがあるのか具体的に見ていきます。これを読むことで、どちらのパターンが自分に合っているのかということを判断することができるでしょう。
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目次
- POINT
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- 個人事業主と法人では、納める税金の種類が異なり、法人のほうが税金の申告が大変である
- 法人は、個人事業主に比べて、取引先からの信用面では上である
- 税金のメリットの面から個人事業主と法人とを判断するには、まず自分の生活にいくらほどのお金が必要なのかを明確にする必要がある
起業する際に迷う「個人事業主」と「法人」の違いって?
起業する際には大きく分けて法人(株式会社や合同会社などの会社設立)と個人事業主の2つの方法があります。この両者には税金面での違い(かかってくる税金の種類や申告の方法)や、経費の範囲の違いから、経営していくうえでの違い(信用など)など、いろいろな面で違いがあります。
法人の場合は、設立登記をするための初期費用として十数万円(合同会社の場合)は最低でもかかります。
一方、個人事業主は登記のように面倒でお金がかかる手続きは必要ありません。開業後に税務署や自治体に届出を出すくらいです。このように、簡単に起業できる個人事業主という起業形態があるにもかかわらず、法人設立する起業家が多いのは、法人を選択するメリットがあるからです。
もちろん、どちらのスタイルで起業するのがよいのかということはケースバイケースです。その判断基準にするために、両者にどのような違いがあるのかを解説していきます。
法人と個人事業主、税金で考えるメリット・デメリット
個人事業主と法人では納めるべき税金の種類が異なります。
まず個人事業主であれば、主なものとして
- 所得税
- 個人住民税
- 個人事業税(業種によってかからない場合がある)
- 消費税
- 固定資産税(償却資産税)
があります。
法人の場合は、
- 法人税+法人住民税+法人事業税+地方法人特別税(法人税等と呼ばれます)
- 消費税
- 固定資産税(償却資産税)
があります(地方法人特別税については、2019年9月30日をもって廃止となります)。
消費税や固定資産税については、個人事業主も法人も税金の計算の観点からはほぼ違いはありません。そのため、異なる点は、所得税・個人住民税・個人事業税と、法人税等の部分です。
多くの人がまず気にするのが、税率の違いではないでしょうか。
各税金の細かい計算はそれだけで数冊の本になってしまいますので割愛しますが、例えば所得税であれば5%〜45%と、所得が増えるごとに段階的に税率も上がっていきます。個人住民税は10%で一定、個人事業税は3~5%となっています。
■所得税の税率[平成31年(2019年)4月1日現在法令等]
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
※(参考)国税庁 No.2260 所得税の税率
一方、法人税等については計算が複雑ですが、資本金1億円以下の法人の場合は、税率にしておよそ約21%~34%となります。
このような税率の違いから、よく「所得が○○円を超えれば法人化したほうがお得になる」ということが言われます。これは、単純に利益と税率の関係から議論されることが多いのですが、話はそう単純ではありません。
このあたりについては後述しますので、ここでは税金の計算の面での違いを見てみましょう。法人税等は計算が複雑といいましたが、計算が複雑ということは、税金の申告も非常に複雑です。個人事業主であれば、自分で所得税の確定申告書を作成しているという方も多いと思いますが、法人税等の申告書はそう簡単にはいきません。ほとんどすべての会社が顧問税理士に依頼して法人税の申告書を作成しているほど、法人税等の申告書の作成は手間がかかるのです。
メリット・デメリットという言葉が適切かどうかはわかりませんが、法人の税金の申告は個人に比べて、数倍手間がかかります。とはいえ、申告が楽だから個人事業主にしよう、という意思決定をする方もそうはいないでしょう。納める税金の種類や税率は、個人事業主がよいのか、法人がよいのかを決めるのに、それほど大きく影響しません。ここでは、個人事業主と法人で税目が違うということくらいを理解しておけばよいでしょう。
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法人と個人事業主、経費や控除で考えるメリット・デメリット
個人事業主と法人の経理で取り扱いが大きく異なるのが、経費の部分です。売上であれば、個人事業主も法人も計上すべき金額にそれほど違いはありませんが、経費についてはそうではありません。
個人事業主と法人の違いは多々ありますが、この経費関係の扱いの違いが、両者の違いを生み出すもっとも大きな部分です。税金の税率の違いなどもありますが、そうした税金計算のベースになる「所得の違い」を生み出す経費面での違いは、どちらにするかの判断にあたってしっかりと理解しておく必要があります。
違いはさまざまありますが、一つ言えるのは、「法人のほうが経費の幅が広く、柔軟」ということです。仕入や旅費、会議費や消耗品費など日常的に事業のために発生する支出が経費になるということは、個人事業主も法人も変わりありません。両者に違いが出てくるのは、以下のようなところです。
給与の取り扱い
この点がもっとも重要な違いです。まず本人の給与の取り扱いです。個人事業主は、儲けが自分の事業所得となり、これが給与代わりです。一方、法人の場合は、法人から給与の形でお金を受け取ることになります。社長一人だけの会社であってもこれは変わりません。
また、配偶者や子などの家族従業員に対して給与を支払う場合も扱いが異なります。個人事業主(青色申告の承認を受けている者に限る)が配偶者や家族従業員に給与を支払う場合は、支払う金額などをあらかじめ税務署に届け出る必要があります。一方、法人であれば、たとえ代表者の家族であっても、法人のために仕事をしている以上は、給与の支払いにあたって税務署への届出は不要です。
- 【関連記事】
- 専従者給与とは何か?家族に支払う給料を経費扱いにする方法
生命保険料
生命保険料は個人で加入していれば、生命保険料控除という形で上限12万円までを所得から控除することができます。一方、法人で役員の生命保険を契約することもできます。この場合、法人が契約者となりますので、生命保険料控除と異なり、基本的には支払額が経費となります。
ただし、法人で加入する生命保険については、過度に法人税などを少なくすることを目的に加入することを防ぐため、契約形態によって、経費にできる割合が定められています。とはいえ、生命保険料控除で上限が決められている個人に比べて、法人のほうが生命保険料の取り扱いも柔軟であるといえます。
社宅
法人であれば、役員の自宅を法人名義で借りる、つまり社宅契約を結ぶことにより、家賃のうち一定割合を法人の経費にすることができます。
これと混同しやすいのが、自宅を事業用で使っているケースです。例えば自宅のうち、半分ほどの面積を事業で使用していれば、家賃の内の半分をオフィス賃料として家事按分し、経費で落とすことができます。これは法人でも個人でも変わりません。ここでいう「社宅」とは事業用ではなく、居住用、つまりプライベート用のことを指します。
一方で、個人事業主の場合、自宅家賃のうち居住用については、一切経費にすることはできません。しかし、法人が社宅の形で借りれば、居住用部分であっても、一定割合を経費にすることができるのです。
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- 社宅制度はどれだけおトク? 節税メリットを考える
日当
日当とは、出張の際にかかる細かな経費の補填や、出張することに対する慰労の意味で支給する金額です。しっかりした旅費規程を作成して、それに基づいて支払う日当は経費にすることができます。
ただし、個人事業主本人が遠方に出張しても日当は支払えませんし、その裏返しで経費計上もできません。日当はあくまで従業員に対して支払うものだからです。しかし、法人の役員に対して法人が日当を支払うことは可能です。法人から見れば、役員も法人のために業務に従事する従業員だからです。
ちなみに、日当は実費補てんといった側面があるため、金額が趣旨に照らして相当であれば、受け取る役員やその他従業員には所得税の課税は行われません。会社の経費になるのに、個人側では課税されない珍しいパターンです。
いくつか個人事業主と法人で異なる点を見てきましたが、経費という面で考えれば、法人のほうに軍配が上がります。
法人と個人事業主、社会的信用の面ではどっちがいい?
法人と個人事業主について、税金のほかに念頭に置いておく必要があるのが、社会的信用のことです。「社会的信用」には、対外的なイメージといった側面と、実務的な側面の2面があります。
対外的なイメージは取引相手の安心感です。例えば、お客様に請求書を発行して、振込先が個人名よりは会社名のほうが安心する……といったことです。また、名刺を出したときに法人なのか個人事業主なのかを気にする方も多いです。
やはり、法人のほうが取引上、安心感があるということは否めません。別の捉え方をすれば、法人であることが前面に出ないような業種、例えば飲食店などの店舗系ビジネスでは、信用という視点では、それほど法人であることが重要というわけではないでしょう。
実務的な側面としては、「取引開始の判断」といったことがあります。取引先によっては、法人でないと取引しないなどといった規定を設けている会社もあります。今では少ない元手で会社を設立できるようになりましたが、会社法施行以前は、株式会社であれば1,000万円の資本金が必要であるなど、設立要件が厳しかった時期もありました。
そのため、会社組織であればそれなりの基盤を持っているということで、特に歴史の長い会社などの内規では法人でないと外注などの取引契約をしないといったところもあります。
話は逸れますが、まれに個人事業主でも屋号に○○会社とつけるなど、会社であると誤解させるような表現を使っている方がいらっしゃいます。これは会社法違反になるので気を付けましょう。個人事業主はあくまで個人です。設立のための税金を払って登記手続きを経て、初めて会社として名乗ることができるのです。
また、個人事業主なのに、代表取締役などといった肩書を使うのも、会社であると相手に誤解させるので避けましょう。
個人事業主から法人化(法人成り)するタイミングはいつがベスト?基準は?
最初は個人事業主で始めた人も、いずれは法人化することがあります。法人化するタイミングはいつがいいのか。その点を判断するための理由としては、大きく分けて、
- 取引先開拓などの信用面から必要なため(信用面)
- 税金の総額を抑えるため(節税面)
- 消費税の課税を先延ばしにするため(消費税面)
の3つがあります。1.については、取引上の必要に迫られて行うことが多いため、ここでは2.と3.について見ていきましょう。
「所得が○○万円を超えると法人のほうがお得」は本当か
まず、2.の税金の総額を抑えるという点です。
この点は、よく「所得が○○万円を超えると法人のほうがお得」といった情報がいろいろなサイトでも書いてあります。その情報も700万円だったり1,000万円だったりとまちまちで、いったい何が正解なのかわからなくなってしまいます。
例えば、単純に法人税等の税率と所得税の税率を比較しているケースがありますが、この場合、個人住民税率を考慮していないなど、不完全な情報で判断しているケースも多々あります。
それでは、いくらが正解なのでしょうか?
その答えは、「お金の使い方や自分自身の取り方次第」です。答えになっていないようなので、まずはそもそも個人事業主と社長一人の法人で、どのような違いが出てくるのかを見てみましょう。
以下の図は、両者の違いを図にしたものです。
個人事業主と法人の違いは、図で見ればわかるとおり、かかってくる税金の種類と、役員報酬の部分です。個人事業主は、稼いだ金額に対して、そのまま所得税+住民税がかかってきます。一方、法人の場合、まず自分への役員給与については、給与所得控除という控除が受けられます。
これは実際にお金を使っていなくても、役員給与から引くことができる金額です。そのため、費用の金額が同じであれば、給与所得控除の分だけ課税される金額が少なくなります(厳密には、個人事業主の場合、最高65万円の青色申告特別控除というものが受けられますが、給与所得控除は最低65万円なので、必ず給与所得控除は青色申告特別控除以上となります)。
上記の図は、費用が両者同額を前提にしていますが、前述のとおり法人であれば、生命保険を法人で契約したり、出張の多い社長であれば日当を支払ったりすることで、法人経費の幅を広げることができます。
お金の使い方次第、といったのは、法人の場合、前述したように個人事業主に比べて費用の範囲が広いため、やり方次第で費用の部分を大きくできること、自分への給与をいくらに設定するのかということが社長の裁量に任せられるからです。
例えば、仕事で地方を飛び回る機会の多い研修講師の場合。
この方の売上が仮に600万円で費用が200万円の場合、事業所得は400万円です。しかし費用のほとんどが旅費といった場合、法人化して例えば出張に対して支払う日当が年間50万円となれば、役員給与の金額の設定次第では、このレベルの売上規模でも法人のほうが税金の総額は低くなる可能性だってあります。
個人事業主が稼いだ事業所得に対して課税されるのに対して、法人は少なくとも、役員給与の金額を上下させることで、税金の総額を変えることができます。そのため、この観点でどちらが有利かということを判断するためには、まず「自分が生活にいくら必要か」ということを明確にする必要があります。
役員給与とは、文字どおり社長への給与です。さらにここでは触れていませんが、社会保険料の負担もあります。個人事業主と法人では、加入する社会保険制度が異なるため、負担する社会保険料の違いも考慮に入れたほうがよいでしょう。
これだけ検討事項が多いと、正直、素人レベルでは判断しかねるでしょう。まずは自分の生活にかかる金額が最低限いくらあればよいのかということを明確にしたうえで、税理士などの専門家にシミュレーションしてもらうのがよいでしょう。
法人化することで消費税の課税を先延ばしにできる
次に、3.の消費税の課税を先延ばしにするという点です。
そもそも個人事業主の場合、原則として2年前の売上高が1,000万円を超えると消費税の納税義務が発生します。例えば2019年の売上が1,000万円を超えると、2021年から消費税の納税義務が発生するということです。
ただし、法人化すれば、売上高について個人事業主時代は通算されずにリセットされます。そのため、上記の例でいえば、2021年1月初めから法人化することで、消費税の課税を少なくとも2年間は先延ばしにできるのです。できたばかりの法人は、2年前の売上が存在しないからです。
ちなみに、法人化をすることで、個人事業主時代に比べて、毎日の会計記帳や税金の申告も複雑になります。もし、顧問税理士など専門家がいない場合は、法人化を機に契約をすることをオススメします。
また、話は変わりますが、2023年10月1日からはインボイス方式の導入が行われます。
インボイス方式とは、簡単にいって、消費税の納税義務がある事業者、つまり課税事業者が相手の支払いのみ、消費税の納税にあたって売上で預かった消費税から控除することができる制度です。法人化のタイミングによっては、課税事業者だった個人事業主が免税事業者になることで、取引先での消費税処理に影響することもありますので、注意しておきましょう。
photo:Getty Images