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どうすればいい?あなたの会社がネットで炎上したとき【風評被害の専門家に聞く】

自身に過失があるかどうかに関わらず、今や誰にでも発生しうるネット上での風評被害。「ユーザーからの不買運動」や「お得意先からの取引停止」をはじめ、あらゆる方面でネガティブな結果が起こりえます。

では、中小企業や個人事業主が風評被害や炎上に遭ってしまった場合はどんな対策を講じるべきなのでしょうか。ネット上の風評被害対策に強い弁護士として多数の実績を持ち、NHKのドラマ『デジタル・タトゥー』の原案も担当したモノリス法律事務所の代表弁護士、河瀬季(かわせ・とき)先生に伺いました。

売上や求人に支障がないと判断できれば、スルーすべし

売上や求人に支障がないと判断できれば、スルーすべし

──それほど深刻な状況ではないにも関わらず、余計なアクションをしてしまい、かえって炎上してしまうパターンもあると思います。無視・スルーした方がいい場合は、どのようなパターンでしょうか?

河瀬先生

河瀬:中小企業や個人事業主の規模感で言うと、売上や求人に支障がないと判断するのであれば余計な反論はせず、無視した方がいいですね。

──例えば自社とは無関係の会社が炎上して、その会社名や商品名が自社と似ていることで炎上してしまった場合はどのように対処すればいいでしょうか?

仮に「株式会社A」という会社が死亡事故を起こしたとして、名前が自社とはそっくりではあるものの、実際は別の会社である「株式会社A」が誤解され炎上した……などの場合はいかがでしょうか。

河瀬先生

河瀬:そう言う場合は予算を割いてマーケティングで解決するしかありません。そのような事態に陥った場合「株式会社A」と検索ボックスに打ち込むと「株式会社A 事故」「株式会社A 死亡」といったサジェストワード(※Googleなどの検索ボックスに検索キーワードを入力したとき、自動表示される検索候補キーワードのこと)が出てしまうことがありますが、そうした現象に対して法的にできることはありません。

なので「株式会社A」と検索ボックスに打ち込んだ際に別のワードがサジェストされるように対策するといったような、広報やマーケティングの力で解決する必要があります。

広報と風評被害対策は密接に関わっています。こうしたケースでは、法律ではなく広報の問題であると認識しなければ問題を解決できません。なので、なるべく全体像を見渡せる人間を近くに置いておいたほうが良いと思います。中小企業や個人事業主が、そういった事態になってしまった場合も同様ですが、経営者自らが対応することになるでしょう。

──風評被害を起こしている原因になっているWebページやSNSのページはどうすれば削除できるのでしょうか?

河瀬先生

河瀬:一般論から言いますと、その書き込みの内容が嘘であれば削除申請をしやすいです。まずその書き込みが「事実」なのか、それとも個人の「感想」なのかを区別する必要があります。

事実に関してはそれが嘘であれば消しやすいですが、個人の感想(店員の対応が悪い、商品が美味しくないなど)については削除申請しにくいということですね。

ただし、飲食レビューサイトやSNSに関して言うと別の判断軸があります。たとえばその書き込みが「利用規約違反」ということなら削除申請できるのです。

飲食レビューサイトやTwitterなどのSNSは、自由な言論を形成することでプラットフォームとしての価値をつくっている会社であり、原則としてはユーザーからの投稿を消したくないと考えるはずです。ただし、自分たちで利用規約を決めている以上、それに反しているという主張であれば話が通しやすくなります。

各飲食レビューサイトもしっかりとした規約をつくっているので、いかにその投稿が規約に反しているかということを論証できればいいわけです。飲食レビューサイトの書き込みは消せないとおっしゃる方は多いですが、実際には簡単に消せるケースもあります。

──では、転職口コミサイトの投稿は消せるでしょうか?

河瀬先生

河瀬:転職口コミサイトの場合は変化が目まぐるしいため、対応が一時的なものになりがちですし、あくまでも一般論としてですが、「消せる・消せない」の判断基準はその投稿が事実であり、具体的かどうかというところになります。ただし転職口コミサイトの場合も利用規約を定めているので、別途利用規約違反かどうかを検討することもできます。

問題を正しく認識し、全体の解決策の提案できる人間に依頼するべき

──中小企業や個人事業主が独力で対応する場合、風評ページを削除することができなかったり、風評ページの発信者を特定できなかったりすることも多いと思います。そういう場合はどうすればいいのでしょうか。

河瀬先生

河瀬:まず、風評被害に対して弁護士にできる仕事は何かをご説明しましょう。1つは悪評の原因となった書き込みを削除するという仕事、もう1つは発信者を特定するという仕事の2種類があります。このうち「発信者の特定」については裁判所を使うしかありません。

風評ページが投稿されているプラットフォームを運営する会社から見た場合、顧客の個人情報を外部に提供することになります。そのため、情報提供しろと言われても原則としては無理なため、裁判所を通じた手続を行う必要があります。

──一般の企業や個人が「発信者の特定」をすることはできるのでしょうか?

河瀬先生

河瀬:いえ、法律上、削除することも特定することもできません。裁判を広告代理店に委託することができないのと同じです。そういった交渉は「非弁行為」というもので、弁護士にしか対応できないのです。

──風評ページの削除にはどの程度の期間や費用を想定すればいいのでしょうか?

河瀬先生

河瀬:これはケースバイケースですね。事務所によっても違うと思いますが、ある程度は定量的に言えます。裁判が不要な場合は1週間から2ヵ月、裁判所に申し立てる仮処分という手続きの場合は2〜3ヵ月ほどかかります。費用についてはページ削除がだいたい1ページ10万円、仮処分が50万円くらいと想定しておけば大きなズレはないと思います。

──では、Twitterで特定のツイートを削除したい場合は?

河瀬先生

河瀬:ツイートは一過性のものなので、Twitterでツイートの削除を要する場合は少ないです。よほど自社に対して粘着的に攻撃し続けるアカウントがあった場合は発信者を特定するとか、アカウントの成りすましのような悪質なケースに対応することはありますが。

個人でもできることで言えば、利用規約違反の報告を定期的にするということですね。仮処分をするよりもコストパフォーマンスが良いです。

問題を正しく認識し、全体の解決策の提案できる人間に依頼するべき

ただ、誤解のないように言っておくと、我々弁護士は説得的に論証することを専門としている以上、利用規約違反の申請をする専門家でもあります。なので、自社でもできることと全く同じことを弁護士がお金もらってやるということではありません。

自社内でさんざん利用規約違反の申請をしても消えないとされていた投稿も、弁護士を通すことであっさり消せたケースも多々ありますので。

──ちなみにモノリス法律事務所に依頼する場合、どのような手続きを経ての依頼になりますか。また、依頼にあたり依頼元が準備しておくべきものや情報はありますか。

河瀬先生

河瀬:当事務所に関して言えば、会社名・商品名や解決したい事柄をメールか電話で教えていただければ、発生している問題やその対策を分析して提案します、という流れですね。あとはインターネットで検索してもわからない情報(商品名など)があれば教えてほしいです。

基本的には会社名を聞いただけで無料診断から全体の解決策の提案までをつくることはできるのですが、公表されていない情報については把握ができませんので。

会社名だけ教えていただければインターネット上の問題はリストアップしますし、解決すべき優先順位に基づいてプランA・B・Cまでつくります。それにフィードバックをいただければ、それに応じてプランを組み替えます。そういう意味で当事務所は、法律的な業務にも対応するITコンサルと称したほうが正確かもしれません。

弁護士は職人と言われることがよくありますが、それにはいい意味と同時に悪い意味もあると思っています。職人は言われたことはしっかりとこなす一方、問題の根本原因や本質には目を向けない傾向があります。会社が弁護士に求めていることに、それでは応えきれないのではないかと思います。

──ITコンサル的な領域まで対応できる法律事務所って他にあるのでしょうか?

河瀬先生

河瀬:あまりないと思います。我々は他の弁護士がライバルだとは思っていないですし、法的に私では対処できないことがあれば先輩弁護士をクライアントに紹介しようとも思っていますので。私の事務所の場合、問題解決の上流から対応できるという意味で、インターネット広告代理店のような会社が競合なのではないかなと思っています。

──本日はどうもありがとうございました。

河瀬季かわせ・とき

河瀬季

1981年生まれ。モノリス法律事務所代表弁護士。JAPAN MENSA会員。
大学の工学部に進学後はフリーランスのITエンジニア・ライター業務や、IT企業経営を経て、東京大学大学院法学政治学研究科に入学し弁護士に転身。ネット上の風評被害対策に強い弁護士として知られ、NHKのドラマ『デジタル・タトゥー』の原案も担当した。
モノリス法律事務所

・河瀬先生のスモビバ!執筆記事はこちら

photo:塙薫子

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