どうすればいい?あなたの会社がネットで炎上したとき【風評被害の専門家に聞く】

自身に過失があるかどうかに関わらず、今や誰にでも発生しうるネット上での風評被害。「ユーザーからの不買運動」や「お得意先からの取引停止」をはじめ、あらゆる方面でネガティブな結果が起こりえます。
では、中小企業や個人事業主が風評被害や炎上に遭ってしまった場合はどんな対策を講じるべきなのでしょうか。ネット上の風評被害対策に強い弁護士として多数の実績を持ち、NHKのドラマ『デジタル・タトゥー』の原案も担当したモノリス法律事務所の代表弁護士、河瀬季(かわせ・とき)先生に伺いました。
[おすすめ]確定申告はこれひとつ!無料で使える「やよいの青色申告 オンライン」
- POINT
-
- 風評被害や炎上の悪影響が及ぶ範囲は「売上」「求人」「上場審査」の3つ
- 風評被害は「事実」と「感想」に分けられるが、「事実」についてはそれが嘘であれば消しやすい
- 炎上の原因となっているWeb書き込みの発信者の特定は弁護士にしかできない
中小企業の場合、一度の炎上でほぼ売上がゼロになる可能性もある
──まずは河瀬先生のご来歴について教えてください。
河瀬先生(以下・河瀬):大学に進学してから26〜27歳までの間はWebサイトの制作を請け負うなど、IT関連の個人事業主として活動していました。その後は大学院で法律を勉強し、32歳で弁護士になりました。私はよく「ITに強い弁護士」と言われるのですが、実際は「弁護士資格を取ったIT屋」と言ったほうが正しいと思います(笑)。
私の事務所が提供している主なサービスは2つあり、具体的に言うと1つはシステム開発会社をはじめとしたIT企業の顧問弁護士。もう1つはITが苦手な企業に対してIT+法律の領域で行うサポートで、いわゆる「風評被害対策」もこれにあたります。
──河瀬先生が風評被害対策に取り組むことになったのはなぜなのでしょうか?
河瀬:風評被害対策に対応できる人間が少なかったからですね。風評被害に関する問題を解決するには、まず被害状況を正しく分析することをはじめとした、ITに関する知見が必要です。そして法律を使わなければ問題を解決できない場合もありますので、使うべき場合は法律を使う必要があります。つまり、ITと法律、この両方を駆使しなければなりません。私はもともとIT屋であり、同時に弁護士でもあるため、風評被害対策を専門領域としました。
──風評被害や炎上には、どのようなタイプのものがありますか?
河瀬:当事務所によく依頼が来るのは主に3つのタイプです。
1.営業・売上に影響を及ぼす風評被害
商品やサービスの悪評が流れて売上が下がってしまうケースです。たとえばバイトテロ(飲食店・小売店で働く非正規雇用の従業員が商品や什器を使用して悪ふざけする様子をSNSに投稿し、炎上すること)などが挙げられます。他には商品の欠陥に関する根も葉もない噂(商品に異物が混入していたなど)がSNS上で広まることもあります。
2.求人・採用に影響を及ぼす風評被害
「あの会社はブラック企業だから」など、職場環境や人間関係に関する悪評によって求人応募が減少するなどのケースです。数十年前までは求人の媒体といえばタウンページくらいでしたが、今ではほとんどがスマホやPCです。新卒の就活生や、転職したいと思っている人間は、ほぼ間違いなく就職・転職先として検討している会社の名前で検索しています。今やインターネットを使っていない求人が存在しないと言ってもいい状況だからこそ起こるケースです。
3.上場審査の障害になる風評障害
自社に関するインターネット上での悪評(「あの会社は違法行為をしている」など)が上場審査の障害になるケースです。たとえば新規の上場申請に伴って監査法人に上場審査のアドバイザーとして入ってもらうことがありますが、その監査法人からインターネット上での自社のレピュテーション(社会的評判・評価)に指摘が入った場合は、すみやかに対応しなければなりません。
個人事業主や中小企業は、インターネットを通じて売上や求人に悪影響があったのであれば「自社が風評被害に遭っている」と捉えていいと思います。
──炎上についてはどうでしょうか? 炎上によって売上が下がった事例などがあれば差し支えない範囲で教えてください。
河瀬:主力商品の種類が少なく、かつそれらをECサイト経由で販売している中小企業の場合、一度の炎上でその商品の売上がほぼゼロになる可能性はあるでしょう。今や多くの人が商品を購入する前にインターネットで検索しているので、検索エンジンのファーストビュー(検索結果画面で最初に表示される範囲)でマイナスな情報が書かれていたら購入率が下がる確率が高い。
たとえば全売上の50%を特定のECサイトに依存していて、炎上をきっかけにそのサイトの商品ページにネガティブな評価が30件ついたとしたら、その商品はまずまともに売れないでしょう。
自社名や商品名の検索結果の1ページめは定期的にチェックすべき
──中小企業や個人事業主自身がそうした風評被害や炎上にさらされていることを早期に発見するために必要なことは何でしょうか?
河瀬:一般論を語るのはなかなか難しいですが、会社名や商品名を検索サイトで検索してみて、その結果の1ページめは定期的に見たほうがいいと思います。また、売上や求人を特定のサイトに依存しているのであれば、そのサイト内の自社に関するページのコメント欄は監視すべきです。
また求人についての話としては、いま転職系の口コミサイトには主要なサイトがいくつかありますよね。「このなかで、どのサイトをチェックしておくことが一番大事ですか?」と聞かれることがあります。
これについては、自分の会社名で検索した時に最初に表示される転職サイトが会社によって異なるので、答えはケースバイケースです。あくまでも自分の会社名で検索した場合に最上位に表示される転職サイトでの対応を考えることが重要です。
──そもそも炎上や風評被害を生まないために注意しておくべきこと、準備しておきたいことは何でしょうか?
河瀬:中小企業や個人事業主の場合、オフラインでの人間関係のこじれがオンラインに出てしまうパターンが多いので、退職する従業員やお客さまへの対応に気をつけることがまず重要です。
2ちゃんねる(現5ちゃんねる)やまとめサイト等において生み出される炎上は、「数人いればつくれてしまう」ということを知っておいたほうがいいかもしれません。炎上はひとりでつくり出すことは難しいですが、3人いれば簡単につくれてしまいます。特に中小企業の場合、犯人は特定少数と考えても差し支えありません。まとめサイトなどで生み出される炎上は、不特定多数が批判しているように見えて、実はIPアドレスから発信者をたどると投稿元が3人くらいしかいなかった、なんてケースはあります。
──中小企業や個人事業主の場合、そうした問題の対策をするほどお金の余裕がなかったり、顧問弁護士がいなかったりする場合も多いと思います。対策マニュアルの整備や、いざ炎上した場合の連絡ルートの確立など、中小企業や個人事業主でもできる事前準備はありますでしょうか?
河瀬:たとえばECサイトを運営している企業がお客様対応マニュアルを整備するとか、自社でメディアを運営する場合に不用意な炎上をしないために記事作成マニュアルを整備するなど、炎上の火種が発生しないようにするための業務マニュアルは必要だと思います。
ただし、実際にインシデント(炎上や事故をはじめとした自社の驚異に繋がりかねない出来事)が発生した際の対応マニュアルまでは不要です。むしろインシデントが発生した時にマニュアルで対応していいのは大企業だけで、中小企業や個人事業主の場合、基本的には経営者や事業主がすみやかに判断して動くべきだと思います。
書き込みが「事実」か「感想」かによって削除の可否が決まる
──間違ったアクションを取ることで炎上を悪化させてしまうケースも散見されます。炎上や風評被害があったとき、してはならない対応はありますか?
河瀬:法的にも論理的にも筋の通っていないような削除請求を「上から目線」でしないようにすることでしょうか。「炎上は下手な対応すると再炎上する」という話をよく聞きますが、月に100〜200件の風評ページ(風評被害の元となっているインターネット上のページ)を削除している私の個人的な感覚として、風評ページの削除請求を行って再炎上したケースは、ほぼありません。
ちなみに、当事務所が炎上の原因となった書き込みなどの削除請求を行う場合、請求先の人間が過去に削除請求を受けたことをネット上で晒したかどうかは必ず確認しています。
また、ご自身でネットに反論する場合でも、筋さえ通っていればそうそう再炎上はしません。炎上するだけの原因が自社にあるのであれば謝るほかないですが、筋が通っていると判断するのであれば泣き寝入りする必要はないと思います。その反論に筋が通っているのかどうかの判断については弁護士やIT業者をはじめとした外部コンサルを使うべきだと思います。