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法人設立手続きはテレビ電話方式で楽になる?司法書士が徹底解説

欧米に比べて半分以下ともいわれる日本の開業率。その開業率を引き上げるべく、さまざまな施策が採られています。法人設立手続きの簡素化もその一つです。法人設立までには、定款認証や登記申請などさまざまな手続きがあります。この法人設立の手続きが、どのように変わってきているのかを見ていきましょう。

POINT
  • テレビ電話方式により公証役場に行かなくても定款認証手続きが可能になった
  • テレビ電話方式での認証を行うには、専門家に依頼しない限りマイナンバーカードを準備する必要がある
  • 将来的には、法人設立の手順や手続きの簡素化も予定されている

法人を設立するまでの流れ

法人設立手続きの簡素化の話をする前に、まずは一般的な法人設立のプロセスについて見ていきましょう。

法人の種類にはさまざまありますが、その大部分を占めるのが、株式会社、合同会社、一般社団法人の3つです。

中でも最も代表的な会社の形態である、株式会社の設立手続きは以下のようなプロセスで進みます。以下では株式会社を前提に話を進めますが、定款認証については、一般社団法人も同様です(合同会社はそもそも定款認証が必要ありません)。

会社のコンセプトや概要の決定段階 ① 会社のイメージを固める ビジネスモデルの構築・起業の形態などの決定
② 基本事項の決定 会社名、事業目的、本店所在地などの決定
③ 資本金の決定 出資者、出資割合、出資形態などの決定
④ 役員の決定 代表取締役(代表社員)その他役員の決定
手続き段階 ⑤ 定款の作成 ②~④で決めた事項をもとに定款を作成
⑥ 定款の認証を受ける 公証役場に出向き、定款認証の手続きをする
(株式会社のみ。合同会社の場合は不要)
⑦ 登記の申請 登記用書類の作成・申請
⑧ 登記完了 謄本などの取得

このうち、まずは⑦のプロセスの登記の申請を簡素化して、株式会社設立をやりやすくしようということで取り組みが行われました。

従来であれば、定款の認証(公証役場で定款の確認を受ける手続き)には、株式会社を設立する起業家本人、または司法書士や行政書士のような定款を代理で作成をした専門家が直接公証役場に行って、本人確認を受けたうえで定款の受領をしていました。

しかし、この公証役場に出向くというプロセスをなくそうということで、2019年3月29日より導入されたのが、テレビ電話方式による定款認証という制度です。

「テレビ電話方式」は、パソコンやスマートフォンを使ってのビデオ通話によって公証人が本人確認を行うことで、実際に公証役場に行かなくても定款認証ができるので、株式会社を設立しやすくなるということが狙いのようです。

公証人とは、元弁護士や裁判官、検察官などの法律のプロフェッショナルの中から、法務省が任命されて就任する専門家です。誰でもなれるわけではなく、全国に500人ほどしかいません。定款の認証のほか、書類の作成者などを第三者として証明する公正証書の作成などを行っています。

テレビ電話方式で法人設立手続きするには?

公証役場に出向かなくても定款認証が完了するのであれば、確かに法人を設立するのは時間という面では楽になるかもしれません。法務局でも、インターネットを使って登記申請を行う電子申請が普及してきていますので、やろうと思えば、一度も出かけることなく法人を設立することが可能になるということです。

ただし、テレビ電話方式を使うには要件があります。それは、法人を設立する起業家自身が定款への電子署名を行うということです。

電子署名というとなんだか難しそうなイメージがありますが、簡単に言えば、個人の実印の押印をPDF上で電子的に行うイメージです。写真付きの マイナンバーカード(個人番号カード)を使用するのが一般的です。

マイナンバーカードには、電子証明書というものが内蔵されていて、自治体窓口でのカード交付時に電子証明書を使用するために設定したパスワードを使用します。PDFの機能を使ってマイナンバーカードを読み込ませて、本人しか知らないはずの電子証明書のパスワードを入力すれば、本人が作った書類だということが証明できるのです。

電子署名を行うには、次の3点セットが必要になります。

1. 電子証明書が付いたマイナンバーカード(個人番号カード)

2. 電子署名の付与機能が付いたソフト(Adobe Acrobat)

3. マイナンバーカード(個人番号カード)を読み取るカードリーダー(家電量販店などに売っています。)

この3点セットを使って、定款に電子署名を行い、公証役場に専用ソフトを使って定款のデータを送信することになります。

株式会社で発起人が一人のケースを前提に、窓口での定款認証と比較してみましょう。

窓口での認証 テレビ電話方式での認証
必要なもの 実印と印鑑証明書、または上記の3点セット 上記の3点セット
定款認証のための費用 約52,000円(3点セットを使わない場合は、約92,000円) 約52,000円
認証当日の動き 公証役場の窓口に行く必要がある 家などでも手続きできる
認証前の事前確認 メールor FAXで公証人に事前に内容チェック メールor FAXで公証人に事前に内容チェック

一つ目の大きな違いは費用です。従来であれば、定款を紙で製本して印紙4万円を貼り付けて公証役場に持参する必要がありました。

ただし、3点セットを使うことで、専用ソフトを使ってPDFデータで定款を作成し、公証役場に送信できます。これを電子定款といいます。電子定款はそもそも電子データなので、印紙を貼り付けることもできず、印紙4万円は不要となるのです。テレビ電話方式であれば、その手続き上必ず電子定款になりますので、印紙がかからないということになります。

もちろん窓口での認証でも電子定款の利用は可能です。つまりテレビ電話方式だから定款認証のための費用が安くなるというよりは、電子定款を作成できれば安くなるということです。

事前にメールやFAXで内容を確認してもらうというプロセスに変わりはありません。いきなり自分が作った定款を認証してもらおうとしても、必要な記載事項が漏れていることも考えられます。そのため、認証してもらう定款は、どこの公証役場でも必ず事前に公証人がチェックして、必要に応じて訂正するという流れになっているのです。

とはいえ、定款の認証手続きなんてほとんどの人にとって、一生に1回あるかないかという手続きです。特に会社設立の時期が決まっている場合などには司法書士などの専門家に依頼して、確実に手続きを進めたいということもあるでしょう。その場合には、自ら電子署名をする必要はありません。お住まいの自治体で印鑑証明書を取ってきて、あとは専門家が用意する委任状に実印を押印するだけです。

以前は、実印ではなく電子データへの発起人自身の電子署名が必要でした。そのため、電子署名できない発起人がいればテレビ電話方式が使えないということが普及の壁になっていました。しかし、令和2年5月11日から、発起人自身は電子署名ではなく、委任状への実印の押印でもよいという扱いに代わったため、テレビ電話方式もかなり浸透してきました。

あとは、テレビ電話方式を使うのか公証役場の窓口に出向くのかということは専門家のスタンスに任せておけばよいだけです。

テレビ電話方式を使うには、自分で行うにしても、専門家に依頼するにしても以下の点に注意が必要です。

1)定款認証手数料は事前の振り込みが必要。

窓口での支払いであれば認証当日に支払えばよいのですが、テレビ電話方式を使う場合は、事前に公証人が指定した口座に振り込みをしておく必要があります。

2)認証された定款を郵送でほしい場合には、あらかじめレターパックなどを返信用として郵送しておく必要がある。

この点については、認証手数料に返送費用を上乗せして振り込むことで、公証役場が対応してくれることもあります。

開業率UPには手続き面だけでなく、起業を後押しする環境を整えることも必要

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テレビ電話方式を専門家に依頼する際の委任状の扱いが、電子から紙媒体でもよくなったことで、テレビ電話方式は徐々に普及してきています。

さらに、今回は、手順が簡素化されたので、定款認証にスポットを当てましたが、起業する方は、必要資金の調達や、家族の理解、ビジネスプランの策定など、さまざまなことを乗り越えて起業に至ります。

起業の最終段階の定款認証は、どちらかといえば起業を決意する理由というよりは、起業を決めた人が手続きをどうするかという点で語られる部分でしょう。手続き面だけでなく、起業を後押しするような環境を整えるのが必要です。

話はややそれますが、今のところ開業率として使われている数字自体が、雇用保険の適用事業所開設をもって1カウントしているということから、人を雇用しない個人事業主や、社長1人の会社はカウントされないという事情があります。このため単純に会社設立のプロセスを簡素にして会社設立を容易にしても、そのまま国が用いている「開業率」の上昇に結び付かないこともあるようです。

とはいえ、会社設立件数だけを使うと資産管理会社も含まれるなどの不都合もあります。起業とは直接関係ありませんが、よく語られる開業率の正体を知っておくことは知識としてよいことかもしれません。

いずれは同じ書類を役所ごとに提出する手間がなくなる?

そのほかにも起業をやりやすくするためにさまざまな施策が予定されています。

会社設立登記が終わった後も、税務署や都道府県、市町村への税金関係の書類の提出や、社会保険・労働保険の加入手続きなど、多くの手続きが必要となります。管轄する役所が違うことから、登記事項証明書を手続きごとに提出しなければならないという手間がありました。

2020年度からは、このように同じ書類を役所ごとに提出するという手間をなくすことも予定されています。これを、行政手続きで同一の情報提供を求めない「ワンスオンリー」といいます。

今までは、手続きの度に登記事項証明書を添付するということが当たり前のように行われていました。こうしたことがなくなるだけでも、かなり手続きとしては簡素になります。

そもそもの開業率の底上げなどといった意味で、このような手続きの簡素化がどの程度寄与するかということは疑問ですが、少なくとも、開業した人にとっては手間が少なくなる分面倒を掛けなくても済むようにはなるかもしれません。

photo:Getty Images

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