飲食店を開業するまでに必要な「資金」「資格」「手続き」「届け出」の準備や流れはどうすればいい?

2023/12/04更新

この記事の執筆者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)

飲食店を開業しようと決意したら、お店の名前やメニュー、立地などいろいろなことに思いが巡ることでしょう。しかし、まず経営者として考えなければいけないのは、開業に要する資金のことです。また、開業までには、事務的な手続きや資格、届け出もいくつかあります。これらの準備や流れについて基本を押さえ、スムーズな開業を目指しましょう。

POINT

  • 飲食店の開業には、最低でも1,000万円は準備する
  • 開業資金の調達には、自己資金のほか、金融機関からの借り入れをメインに行う
  • 飲食店の開業には、食品衛生責任者の資格が必須

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飲食店の開業にかかる資金、いくら必要? 内訳は?

飲食店の開業準備には、いろいろなお金がかかります。例を挙げると、

  • 店舗の契約金(敷金、仲介手数料、火災保険料その他の初期費用)
  • 内装工事
  • 調理器具や店舗什器・食器

などがあります。

また、開業資金を積み上げるだけでなく、店舗経営の余裕資金として、毎月の経費の支払いの2ヵ月分(可能であれば3ヵ月分)は用意しておきたいところです。特に、開業したての時期は、お店の宣伝費などでコストが多めにかかりがちです。

いくら飲食店は現金中心の商売で売上の現金化が早いとはいえ、まったく余裕資金がないままオープンすると気持ちも焦りますし、経費の切りつめなどから店舗サービスの低下にもつながってしまいます。

それでは飲食店の開業にはいくらあれば足りるのでしょうか?

この答えは、どのようなジャンルのお店を開きたいのかということで大きく変わってきます。カウンターだけのバーのようなお店なのか、それとも高級感あふれるフレンチレストランなのか、気軽に使えるカフェなのか。ひと口に飲食店といってもそのジャンルは幅広く、どのようなお店を開きたいのかということで、開業に必要な資金も変わってくるのです。
また、内装工事を一から行うのか、ほかのお店が入っていたところに居抜きで入るのかといったことでも必要な資金に違いが出てきます。

結局、開業に要する資金は、お店によってそれぞれということになります。例えば店舗の契約金(例えば敷金、礼金、仲介手数料、火災保険料、前払いする家賃など)と内装工事だけをとってみても、カウンターのみの小さなお店でおよそ600万円~、内装にこだわるおしゃれなお店だと1,500万円ほどかかることもあります。ここに、開業当初の運転資金を考慮すると、小さな規模でも最低1,000万円くらいは用意したいところです。

ある居酒屋さん(店舗の広さは15坪程度)の開業費用を一例に挙げます。オープンにあたってかかった費用は以下のとおりです。

ある居酒屋さんの開業費用の一例
店舗契約金 300万円
内装工事 800万円
調理器具等の購入(冷蔵庫やフライヤーなど) 200万円
店舗の運転資金 2ヵ月分 300万円
合計 1,600万円

この一例の場合は、自己資金として貯金してきた500万円を自己資金として投入し、残りの1,100万円を金融機関からの借り入れで賄いました。

飲食店の企業・開業の詳細については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。

開業資金が足りないときは「創業融資」「補助金」「リース」を活用!

このように、飲食店の開業にはそれなりのまとまったお金が必要です。自分の貯蓄だけで賄えることもあるかもしれませんが、できる限りお金は手もとに残しておきたいものです。自分の貯蓄をほとんどつぎ込んでお店をオープンというのも、心に余裕がなくなり精神衛生上よくありません。そこで、飲食店を開業する多くの人は、一部は自己資金を使い、残りは借入金で賄うという方法をとります。

創業融資の詳細については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。

手段その①金融機関の融資

もっとも利用されている方法が、金融機関からの融資です。お店を開くときなど創業期の主な融資手段として、日本政策金融公庫の新創業融資や、自治体と金融機関が協力して行う制度融資があります。

創業期の融資は、金利が低く、かつ自宅などを担保に入れたり、連帯保証人をつけたりすることが不要(いわゆる無担保・無保証)といったメリットがあります。これは創業期の融資だからこそ可能です。

制度融資では、保証協会という機関も登場します。保証協会とは、万が一、本人が破産などで借入金を返済できなくなった場合に、代わりに返済を行ってくれる機関です。保証協会が付く融資では、保証料を支払う必要があります。保証料は、金融機関から借り入れをする際に、借入額から控除されることが通常です。

融資の実行までには通常1ヵ月ほどかかりますし、審査もあります。融資の状況で物件契約や内装工事の時期なども決まるため、事前に入念な準備をして、少しでも早く融資が実行されるようにする必要があります。不安な場合は、税理士などの専門家にサポートしてもらうのもよいでしょう。

手段その②親族など個人的な付き合いから借りる

家族やその他の親族から借りるという手段もあります。親族から事業資金を借りる場合は、金融機関と違って審査はありません(お金を借りるにあたって、しっかりとした説明が必要だとは思いますが……)。

困ったときには頼りになるかもしれませんが、だからこそ、親族からお金を借りるのは最後のカードとして取っておきたいところです。創業の段階では、創業融資のメリットを最大限に享受し、事業を運営していくなかで、どうしても資金繰りに厳しくなったタイミングで親族に相談というほうが合理的です。これは、親族以外の知人など個人的な付き合いでお金を借りる場合も同様です。

ちなみに、お金を「借りる」のではなく、「もらう」という場合は、個人事業主だと贈与税の対象になりますので注意しましょう。

手段その③補助金の活用

国や地方自治体が行っている補助金制度というものもあります。定められた要件を満たす事業や雇用管理を行っている事業者に対して、事業にかかる支出の一部を補助するという制度です。

ただし、こうした補助金制度は、実際に支出した金額の一部を補助する制度であり、融資のようにまずお金が入ってくるというものではありません。また、多くの補助金は事業計画などの審査があり、それに合格しないと受給することができません。

そのため、開業資金として補助金をあてにするということはせず、まずは自己資金や融資などで調達することになります。ただし、補助金に合格していれば将来的に補助金を受給できることは確実です。

そのため、補助金に合格するということは、資金調達の面では、補助金での返済を見越して金融機関が融資をしてくれるというメリットがあります。事業計画の作成など申請書類の作成は大変ですが、対象となる補助金があれば、ぜひチャレンジしてみることをオススメします。

手段その④リースの活用

冷蔵庫などの厨房機器については、リースも可能です。ただし、使途が限定されたり、連帯保証人を求められたりするなどの事情もあり、基本的には金融機関の借り入れを活用する人が多いです。

どんなスケジュール? 飲食店開業までの手順と流れ

資金の調達を含めて、飲食店を開業するまでには、さまざまなプロセスがあります。開業までにどのようなことが必要なのかを一覧にしてみました。時期については、あくまで目安です。

店舗コンセプトを練り上げる期間などは人それぞれですし、物件も1年以上かけて探す人もいます。とはいっても、開業までに至るプロセスはほぼ共通です。どのような流れで開業に至るのか確認しましょう。

飲食店開業までの手順と流れ
~1年前 店舗コンセプトの決定 お店のジャンルや出店エリア、ターゲットの客層などを明確にします。
1年前~6ヵ月前 事業計画書の作成 店舗の売上や経費などを予測して、どんぶり勘定にならないようにするためにも、ぜひ事業計画書は作成しましょう。
6ヵ月~3ヵ月前 物件探し お店を開きたいエリアで物件を探します。
3ヵ月~2ヵ月前 融資の申し込み 物件契約に必要な頭金を融資で補う場合には、タイミングが重要です。
3ヵ月前~開店 内装工事や店舗什器の設置 予算の範囲内で、満足のいくまで
1ヵ月前~開店 各役所への届出 以下の届出の項目を参考にしましょう

飲食店の開業には「食品衛生責任者」の資格と「防火管理者」の選任が必要

飲食店を開業しようとする人であれば、食品衛生責任者という言葉はよく知っているでしょう。食品衛生責任者とは、食品衛生法によってすべての飲食店に設置が義務付けられている資格のことです。

資格といっても、なにも難しい試験を受ける必要はありません。各地で開催されている、食品衛生責任者の養成講習会(基本的に1日で終わります)という講習会の受講を修了することで、食品衛生責任者になることができます。講習会は先着順です。早めに受講を済ませておきましょう。

食品衛生責任者は、その名のとおり衛生面の管理をする役目があります。どれだけ人気の店でも食中毒なんて出してしまったら、積み上げてきたものも一気に崩れてしまいます。飲食店では衛生管理も店舗経営を続けていくうえで重要な仕事なのです。

また、防火管理者の選任も必要です。防火管理者とは、その名のとおり火災の予防のための措置を行う人です。防火管理者は、従業者の数と客席の数の合計が30人以上で設置義務があります。

ここで注意するのは、この30人という人数は、お店が入っている建物全体での人数ということです。自分のお店だけでは30人未満でも、建物全体で30人以上なら、自分のお店でも防火管理者の選任が必要です。

実際に防火管理者を選任する必要があるかどうかはビル全体の収容人数を把握している必要がありますので、管理会社や仲介する不動産会社に確認するのがよいでしょう。

調理師免許というものもあります。調理師免許は飲食店開業に必須というわけではありません。調理師免許を取得するには、専門学校などを卒業したり、2年以上の調理の実務経験を積んで試験に合格したりすることで取得できます。

飲食店を開業しようとする人の多くは、調理の実務経験が2年以上ある人も多いでしょうから、試験を受ける余裕があれば、調理師免許の取得を目指すのもよいかもしれません。ちなみに、調理師免許を持っていれば、講習会を受けなくても食品衛生責任者の資格を取得できます。

飲食店の開業にはどんな手続きが必要? どこに届け出すればいい? それぞれの対象や届出の時期について

飲食店の開業に関する手続きには、どんな業種でも必要となる手続きのほかにも、飲食店特有の手続きがあります。ここでは、個人事業主として飲食店を開業する人を例に、主な手続きを表にまとめました。

飲食店開業に関する手続きと提出先、期限
手続きの名称 提出先 提出する場合 手続き期限
飲食店営業許可申請 店舗所在地を管轄する保健所 必須 遅くともオープンの2週間前まで(オープン前までに許可を受ける必要があるため)
防火対象物使用開始届 店舗所在地を管轄する消防署 必須 オープンから1ヵ月以内(内装施工業者が出す場合もある)
深夜酒類提供飲食店提供届 店舗所在地を管轄する警察署 酒類を提供する店舗が、深夜0時を超えて営業する場合 営業を開始する10日前まで
風俗営業許可申請 店舗所在地を管轄する警察署 店員が客の接待をしながら飲食する場合(キャバレーなど) できる限り早めに(許可を受けた後でないと営業できないため)
防火管理者選任届 店舗所在地を管轄する消防署 店舗が入っている建物全体の収容人数による(飲食店は30人以上) 選任後すみやかに
火を使用する設備等の設置届 店舗所在地を管轄する消防署 火を使って調理する場合 使用開始7日前まで(内装施工業者が出す場合もある)
個人事業の開業・廃業等届出書 住所を管轄する税務署(または、店舗所在地を管轄する税務署) 必須 開業(オープン)から1ヵ月以内
所得税の青色申告承認申請書 住所を管轄する税務署(または、店舗所在地を管轄する税務署) 青色申告を行う場合(会計ソフトの利用など、経理をしっかりと行う必要がある) 承認を受けたい年の3月15日まで(開業(オープン)が1月16日以降の場合は、開業から2ヵ月以内)
労災保険の加入手続き 店舗所在地を管轄する労働基準監督署 従業員を雇用した場合 雇用してから10日以内
雇用保険の加入手続き 店舗所在地を管轄するハローワーク 従業員を雇用した場合(一定の従業員は除く) 雇用してから10日以内

上記の表にある通り、個人事業主として独立開業する場合は、「開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)を税務署に提出します。
さらに、飲食店は、物件の取得や内装等の初期投資が多額となります。厨房機器など10万円以上は減価償却が必要です。青色申告では「減価償却の特例」で30万円未満の固定資産を一度に経費化できたり、開業初年分の損失を繰り越せるので青色申告のほうが有利になるため、あわせて検討しておきましょう。ただし、青色申告を行うには、各種会計帳簿の作成や管理をしっかりと行う必要があります。このため、青色申告を行うには、会計ソフトの導入は必須といえるでしょう。

会社として開業した場合には、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入義務も生じます。ただし、個人事業主として経営する飲食店には、従業員の人数や労働時間にかかわらず社会保険の加入義務はありません。

photo:Getty Images

この記事の執筆者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)

税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。
1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。
大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。
在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。
著書『はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 ’21~’22年版新規タブで開く

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