スモールビジネス(個人事業主、中小企業、起業家)の
業務や経営にまつわる疑問や課題をみんなで解決していく場
検索
メニュー
閉じる

フリーランスや個人事業主が知っておきたい「著作権」「肖像権」についての基礎知識【弁護士が解説!】

フリーランスや個人事業主で、カメラマンやデザイナー、ライターなどクリエイティブ系の仕事をしていれば、なにかと関わってくる著作物の扱い。

「コピペはダメ」「勝手に写真などを二次使用してはダメ」など、なんとなくわかっているつもりでも、著作権、肖像権についてちゃんとした知識がある人は少ないかもしれません。

そこで今回は、著作権・肖像権を侵害されない、自分もしないためには、どんなことに気をつけたらいいのか? すもも法律事務所の弁護士・洲桃麻由子先生に解説をしていただきます。

よく聞かれる著作権トラブル、どうやって回避する?

よく聞かれる著作権トラブル、どうやって回避する?

――それでは著作権について伺います。著作権を侵害されないためには、どんなことに気を付ければいいのでしょうか?

書籍用に書いた原稿、雑誌用に書いたイラストがWEBサイトにも許可なく使われた等、クリエイターさんが納品した原稿やデザイン、画像を無断で取引先に二次利用されたというのは、よく聞かれるトラブルです。

そうならないためにも、一番重要なのは、契約内容を明らかにしておくこと。

著作権に限らず、仕事を請け負う場合の一般的な問題として、

  • 業務の内容:何を仕事として請け負うのか?
  • それに対する対価:ギャランティ
  • 納期:締め切り
  • 追加の作業が発生した場合の追加料金の有無

……などについて、事前に書面などで取り決めをしておくことが大事です。とりわけ著作権に関して一番重要なのが、成果物の納品に「著作権の譲渡」が含まれるか否か。

著作権とは、複製権、上演/演奏権、上映権、公衆送信権などの権利の総称です。

ある権利(例えば複製権)については譲渡するが、他の権利については譲渡しない、ということも可能です。また、成果物の納品には発注者に対して成果物の利用を許諾するという内容が含まれるが、成果物に関してクリエイター(著作者)が有する著作権は譲渡しない、という取り決めも可能です。

通常みなさんが成果物を納品したとき、これらの著作権まで譲渡したとは考えませんよね。しかし、発注者の方では、著作権の譲渡まで受けたと考えているかもしれません。無用なトラブルを避けるため、発注者とクリエイターとの契約において、著作権の譲渡が含まれるのか、単に使用許諾に留まるのか、どの範囲で使用許諾するのか、二次利用の扱いをどうするのかなどについて、具体的に取り決めることをお勧めします。

(譲渡ではなく)許諾であることには争いはない場合でも、契約上は著作権者は二次利用について許諾していないにもかかわらず、発注者が無断で二次利用している場合には、発注者は著作権の侵害行為を行ったことになり、差し止めおよび損害賠償請求の対象になります。

ただし、裁判の場で発注者が、「二次利用権も含めて許諾を受けている」と主張してきた場合、契約の内容(例えば著作権者に支払われたロイヤルティが相場より高額である場合など)によっては、二次利用も許諾の対象であると認定されてしまう可能性もあります。

裁判で不利にならないように、成果物の納品に際して譲渡または許諾する著作権の具体的内容、範囲を契約の段階できちんと決めておくことが大切です。

紙の契約書に自署・押印するという伝統的な方式であれば問題が生ずることは少ないでしょうが、必ずしも紙でなくても、印鑑を押していなくても契約というものは成立します。要するに、メールでのやりとりでも、発注主と受けたクリエイター側との契約内容が明らかになっていればいいのです。

――あとは、著作物を勝手に加工されたというケースもよく聞かれます。著作権を譲渡したら最後、どんな加工をされても仕方がないのでしょうか?

著作権には、著作者人格権というものがあり、そのなかに、

同一性保持権……著作物のタイトルや内容を無断で変えられない

というものがあります(著作権法20条1項)。

著作権法20条は、著作者の「意に反して」改変を受けない、と規定しており、客観的には著作者の名誉・声望を害するような改変でなくとも、著作者の意に反する改変であれば原則として同一性保持権侵害になると考えられます。

例えば、小説の結末をもとの小説とはまったく反対の結末に書き換えられたといったケースがこれに当てはまり、クリエイターさんが取引先に著作権を譲渡していたとしても、同一性保持権の侵害を主張することはできるのです。

但し、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変については同一性保持権侵害とはなりません(著作権法20条2項4号)。

――自分の著作物が知らない人のブログで勝手に利用されていたというケースも聞かれます。

第三者であるブロガーに自分が創作した著作物を勝手に利用されているという場合は、複製権侵害、公衆送信権侵害などに当たります。対抗措置を誰が取り得るかという観点でポイントとなるのは、その著作物の権利を持っているのが、クリエイターか取引先かということです。

著作権侵害に基づく差止、損害賠償請求ができる者は著作権者ですので、クリエイターが著作権者であれば自身で差止、損害賠償を請求することができることになります。この場合、取引先が出版権者に当たる場合を除いて、自ら差し止め、損害賠償請求はできないことが原則です。

他方、取引先のほうに著作権を譲渡しているのであれば、取引先が差し止め、損害賠償請求をする権利を持っていることになります。

この場合、クリエイター自身は、著作権に基づく権利行使はできませんが、第三者による無断利用が著作者人格権を侵害するような形態でなされている場合には、著作者は、著作者人格権に基づく差し止め、損害賠償等が可能です。なお、著作者人格権は、その性質上、著作者の一身専属的権利であり、譲渡はできないと考えられています。

知らぬ間に自分が著作権を侵害しないためには?

――自分が第三者の文章を引用したり、画像を転載したりしたいときもあると思います。著作権を侵害しないためには、どんな風に行えばいいのでしょうか?

著作権法に定められている「引用」の要件(著作権法32条)を満たし、公正な慣行に合致するもの、報道研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものであれば、引用できます。

例えば批評文を執筆していて、わかりやすく伝えるために、批評のもととなる小説の1文を引用する場合。具体的にどのような引用が「公正な慣行に合致」し、「引用の目的上正当な範囲内で行われるもの」かを判断する上で、以下のルールに沿っているかが重要なポイントとなります。

①引用した文章がメインになってはいけない……もとの文章が主、引用されるものが従という関係でなければならない

②引用部分を明示する……引用した著作物と自分の著作物とを明確に区別し、かつ引用部分についてはどこから引用したのかを明示しなければならない

もちろん、著作者に引用や転載の許諾を取れば、以上の要件を満たさなくても問題はありません。

――読者のなかには、クリエイターに著作物を発注する側の人もいると思います。その際、注意することは何でしょうか?

よく、発注側がいろいろな用途に納品物を使用したいというケースが聞かれます。例えば、カタログなどの印刷物として納品された写真データを、ポスターにもホームページにも使いたい、さらに別の加工をしてブログにも貼りたい。さらに今後、別の用途に使うかもしれない、といった場合ですね。

一番簡単なのは、著作権すべての譲渡を受けることを文言に記すこと。
ただしその際には著作権法27条、28条について注意が必要です。

著作権法27条に決められている翻案権、翻訳権……翻案権とは、小説をドラマ化する、映画化するなど、著作物に手を加えて、新たな創作物(二次的著作物)を生み出すこと

著作権法28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)……二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有することを明らかにした条文

著作権法61条2項には、特にこの27条、28条に関する権利を譲渡すると明示していない限りは、もとの権利者に留保したものと推定すると定めています。そのため、単に「著作権すべてを譲渡する」と契約に書いてあっても、それだけでは、重要な権利である二次的著作物に関する権利が元の権利者に留保されていると解釈されてしまう恐れが高いことに注意が必要です。

知らぬ間に自分が著作権を侵害しないためには?

これは、クリエイター側に有利な規定です。実際、「著作権をすべて譲渡する」と書いた契約なのに、著作権法27条、28条について何も記載していなかったために、それらの権利が譲渡対象に含まれるか否かでトラブルになったケースもあります。

そのため、契約の際には、

※本著作物に関する全ての著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む)を譲渡する

……と明示するようにしましょう。

さらに、発注主として気をつけるべき点は、自分が発注した先のクリエイターが第三者の著作権を侵害するような成果物を上げてこないかどうか。

例えば自分が仕事を発注したイラストレーターが、第三者の描いたキャラクターそっくりそのままのものを成果物として上げてきた、といったケースですね。

発注主とクリエイターが委託契約を結ぶ際、クリエイターが第三者の著作権を侵害した成果物を上げてきたことで、第三者からクレームを受けるなどの被害を被ったら、クリエイターは発注主が被った損害を賠償しなければならないという規定を契約内容に盛り込んでおけばいいでしょう(クリエイターの資力の関係上、発注主が十分な賠償を受けられないかもしれないというリスクは残りますが)。

法的紛争が発生している場合は弁護士に相談を

――もし自分が著作権トラブルに遭ってしまったらどうしたらいいでしょうか? 訴えるには? あるいは、訴えられたら?

まずは、法的に著作権侵害といえるのか否かを見極めることが大切です。先に申し上げたように、ある人が創作したものが何でも著作物になるわけではありません。法的には著作物といえないものの創作者が著作権侵害を主張するケースもままあります。

また、著作権侵害を訴えている人が創作したものは確かに著作物といえるかもしれないが、訴えられた人が作成したものと比較して、法的評価として類似しているとはいえなかったり、あるいは上述の適法な引用に該当するので侵害とはいえないという場合も考えられます。

著作権侵害が成立するか否かを判断するには、高度な専門的知見に基づいた慎重な分析が必要ですので、著作権に詳しい弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

特に、法律に関する事件について有償で交渉をしたり、解決のために具体的なアドバイスをしたりすることができるのは、弁護士法の制約もあり、弁護士のみになります。法的紛争が発生しているということであれば、弁護士に相談してください。

その後の一般的な流れですが、通常は、依頼者から相談を受けた弁護士は、事実確認をしつつ、依頼者が相手方に対して訴訟提起した場合に勝訴する見込みがどの程度あるか(反対に依頼者が相手方から著作権侵害を主張されているケースでは相手方が訴訟提起してきた場合に相手方が勝訴する可能性がどの程度あるか)についての見通しを立てます。

ただ、依頼者が勝訴する可能性が高い場合でも、いきなり訴訟提起することは避け、まずは任意の交渉を進めることが多いです。訴訟となれば費やす時間も労力も費用も相当のものになるからです。

また逆に、依頼者の方が著作権侵害をしている可能性が高いといえるケースでは、相手方(侵害を主張する者)から訴えられる前の段階で、相手方と交渉し、円満な解決を目指すということになるでしょう。

実際に、著作物を無断使用してしまったケースでも、裁判になる前の交渉段階で、著作権者に対する二次使用料の支払い、クレジットの表示などの条件と引き換えに使用許諾を取り付け、合意により決着している事例も数多くあります。

とはいえ、まずはトラブルに遭わないために、正しい知識を得ること。ご自分で判断する自信がなければ、早めに弁護士に相談すること。そして著作権が絡む契約を締結する場合には、契約内容をしっかり確認し、著作権の譲渡についても契約時に明記することが大切ですね。もちろんその契約の結果、自分が意図していない法的効果が発生するという事態を避けるために、契約締結前に弁護士のチェックを得るようにすることをお勧めします。

――本日はどうもありがとうございました。

【関連記事】

撮影:塙香子

洲桃麻由子すもも・まゆこ

洲桃麻由子

弁護士・ニューヨーク州弁護士。2級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP2級)の資格も有する。
すもも法律事務所(東京都中央区) 代表弁護士。日本弁護士連合会民事司法改革総合推進本部幹事(執筆時現在)。大手渉外法律事務所で研鑽を積み、2015年に新たに現事務所を開設。
民事・商事・労働・家事・刑事事件など幅広い分野で、法律を武器として理不尽と闘い、依頼者の利益を最大限に実現化することを使命としている。英語対応可。
すもも法律事務所

c_bnr_fltpayroll3-2
閉じる
ページの先頭へ