ベンチャー企業は借入での資金調達が受けづらいってホント!?スタートアップにも有利な融資メニューとは【会計士オオノ先生に聞く!お金の経営相談】

公認会計士・税理士で、融資や資金調達について詳しい専門家・オオノ先生。新米経営者のゆうちゃんは、これまで資金繰りや融資について、いろいろと教えてもらってきました。
今回も、ゆうちゃんのお友達のベンチャー起業家の若手社長が悩んでいるようです。
さらなる研究のため追加の融資を受けたいのに、スタートアップは借入での資金調達が難しいと聞いたらしく……。
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2022年(令和4年)分の所得税の確定申告の申告期間は、2023年(令和5年)2月16日(木)~3月15日(水)です。最新版の確定申告の変更点は「2023年(2022年分)確定申告の変更点! 個人事業主と副業で注目すべきポイントとは?」を参考にしてみてください!
目次
- POINT
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- 「ベンチャー企業は借入での資金調達が難しい」ってホント?
- ベンチャー企業の成長に合わせて金融機関が融資してくれる特例制度がある
- まだあまり売上が立っていないスタートアップに嬉しい「期限一括返済」
「独自技術を使ったサービスで起業したい!」ベンチャー起業家・てつやさんの場合
ゆうちゃん:ねえ、センセー、やっぱりベンチャー企業ってお金が借りづらいのかな?
オオノ先生:ベンチャー企業ですか?
ゆうちゃん:うん。よくあるでしょ、IT企業とかで資本金を調達しながら、上場を目指します! みたいな。スタートアップ企業って言ったら良いのかな。
オオノ先生:そういうことですか。これまでにない商品やサービスを提供して、世界を変えようとするイノベーティブな会社ということですね。たしかにベンチャー企業は、もしかすると大きく儲かる可能性がある一方、ぜんぜん儲からずに会社を清算せざるを得ない状況になってしまう可能性もありますからね。
ゆうちゃん:そうだよね。そういうリスクが大きな会社って、やっぱり融資は受けづらいのかなって悩んでいる友達がいてさ。
オオノ先生:そうなんですね。一度そのお友達のお話を伺いましょうか?
ゆうちゃん:え? いいの? なんか言わせちゃったみたいで悪いな~。
オオノ先生:明らかにそのつもりでしたよね……。まあ、良いですよ、ベンチャー企業の支援も私の大切な役割ですから。お友達ご紹介ください。
ゆうちゃん:わかっちゃったか♪でも、ありがとう、センセー!すぐに連絡してみるね。
~後日~
ゆうちゃん:センセー、こちらが友人のてつやくん。
てつや:オオノ先生、はじめまして、てつやといいます。画像解析技術を使ったサービスを提供しようとしているベンチャー企業をやっています。
オオノ先生:てつやさん、はじめまして。画像解析技術を使ったサービスというと、具体的にはどんなサービスなんですか?
てつや:はい。弊社のアプリをスマホで起動してから、例えば家電量販店などの店内の様子をカメラで撮影したとします。そうすると、カメラに写った家電製品をAIによって画像解析してその製品を特定し、アプリ上にその製品の特徴や口コミ、ECサイトでの販売価格の比較表などを表示させるというものです。
オオノ先生:それはすごいですね! どんな製品でも対応しているんですか?
てつや:現状、家電製品ではカメラ、電子レンジ、空気清浄機、掃除機、それから家電製品以外では書籍や自転車といった画像で判定しやすい製品だけが対象です。今後どんどん横展開して対象製品を拡げていきたいと思っています。
ゆうちゃん:そのためにも開発資金が必要ということなんだよね。
てつや:そうなんです。実は既にVC(ベンチャー・キャピタル(※))から2,000万円ほどエクイティ(株式)で調達しているんですが、開発費が結構かかる一方、まだ実証実験中ですので売上が立たなくて……。
(※)主に高い成長が見込める未上場企業に対して投資を行い、資金を投下する投資会社(投資ファンド)のこと。
オオノ先生:それで借入を検討しているということなんですね。
てつや:はい。でもベンチャー企業はデット・ファイナンス(借入での資金調達)は難しいと聞いたことがあるので、本当に借りられるのか不安なんです。
オオノ先生:たしかに、ベンチャー企業はリスクが高いため、資金の出し手は高いリターンを求めます。VCからのエクイティ・ファイナンス(株式と引き換えに資本金を調達すること)はそうしたハイリスク・ハイリターンな投資の典型例ですね。
ゆうちゃん:どういうこと?
オオノ先生:株主は、出資先のベンチャー企業が失敗してしまうと、株式の価値がゼロになる可能性がある一方、ベンチャー企業が大きく成長すれば、その分株式が値上がりして、理論上は無限に稼げるということです。
ゆうちゃん:たしかにそうだよね。
オオノ先生:しかし、デット・ファイナンス(借入)の場合、資金の出し手である金融機関は、ベンチャー企業が失敗したら元本を回収できない可能性がある一方、どんなに成長しても受け取れるのは約定された利息と元本返済だけですからね。
ゆうちゃん:それだとあまりリスクは負いたくないって思っちゃうよね。ねえ、センセー、やっぱりベンチャー企業ってお金は借りづらいの?
オオノ先生:たしかに通常の融資メニューでは難しいかもしれません。ただ、エクイティ・ファイナンスに似た形の融資だったら可能かもしれませんね。
ゆうちゃん:エクイティ・ファイナンスに似た融資?
てつや:もしかして、借り手のベンチャー企業の成長に合わせて、金融機関が受け取るリターンも増えるような融資ってことですか?
オオノ先生:ご名答! そのとおりです。
ゆうちゃん:そんな融資、ホントにあるの!?
ベンチャー企業の特性に合わせた特別な融資制度
オオノ先生:こちらを御覧ください。
ご利用いただける方 | 次の1および2を満たす法人または個人企業の方 | |||||||||||||||||||||||||
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1 適用できる融資制度 | 次の(1)から(12)までのいずれかの融資制度の対象となる方
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2 その他の条件 | 次のいずれの要件も満たす方
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融資限度額 | 4,000万円(1(9)の融資制度に限り、別枠4,000万円) | |||||||||||||||||||||||||
ご返済期間 | 5年1ヵ月以上15年以内 | |||||||||||||||||||||||||
ご返済方法 | 期限一括返済(利息は毎月払) | |||||||||||||||||||||||||
利率(年) | ご融資後1年ごとに、直近決算の業績に応じて、貸付期間ごとに3区分の利率が適用されます
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担保・保証人 | 無担保・無保証人 | |||||||||||||||||||||||||
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【引用】日本政策金融公庫:挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)
ゆうちゃん:ホントだ! 利率が経常利益率によって変動してる! 利益率が高いほど利率も高くなるってことね。
オオノ先生:そうです。逆に、スタートアップのように当初は赤字になりがちな企業の場合は、利率が1%に抑えられますので有利ですね。
てつや:しかも、返済は期限一括返済なんですね。
オオノ先生:はい。資本性ローンは借入期間を5年1ヵ月~15年の間で設定して、その間は利息の支払いのみで、元本返済が不要なんです。「返済期限が来た時に一括で元本を返済する」という借り方です。
てつや:まだあまり売上が立たず、返済原資に乏しいスタートアップのような企業には助かりますね。
オオノ先生:おっしゃるとおりです。しかもこの資本性ローンは金融検査上「借入金」ではなく「自己資本」とみなされます。
ゆうちゃん:「自己資本」とみなされるってどういうこと?
オオノ先生:通常、借入の金額が多すぎると新たな借入は受けづらくなるんですが、資本性ローンであれば「自己資本」と判断されますので、借入が多すぎるから新たな借入を受けられない、という事態になりにくいんですよ。
ゆうちゃん:えー、すごい!
オオノ先生:さらに、資本性ローンは金融検査上では「自己資本」ですが、実際は株式ではないため持ち株比率も低下しません。
てつや:資本構成の大切さは重々承知していますので、それは助かりますね!
オオノ先生:ただ、金融検査において「自己資本」とみなされる額は、徐々に減少していきますので、その点は注意しなければいけませんね。具体的には、残存期間が5年未満となった債務については、1年ごとに20%ずつみなし自己資本の割合が逓減していきます。
ゆうちゃん:少しずつ、検査上も「借入金」とされるってことね。
てつや:とても良い融資メニューだと思うんですが、ウチでも利用できますか?
オオノ先生:資本性ローンは返済期限まで元本返済を受けられないわけですから、貸す方である日本政策金融公庫からすればリスクの高い貸出になりますよね。なので、たしかにハードルは高いです。
ゆうちゃん:どんな企業が資本性ローンで借りることができているの?
オオノ先生:私のこれまでの経験でいうと、「技術やノウハウに新規性があったり、事業に新規性や成長性ある」「VCや著名なエンジェルから出資を受けている」「最初の1〜2年は赤字で、3~5年後くらいに黒字化予定」「資本性ローンを受けることで他の資金調達の呼び水になる」という4点が重要だと言えます。
てつや:いわゆる「スタートアップ企業」であれば該当しそうですね。
オオノ先生:はい。とはいえ、あくまで資金の出し手は日本政策金融公庫ですのでVCなどに比べると融資の判断は保守的ではあります。スタートアップであれば必ず借りられるというわけではありません。また、借入後は四半期ごとの経営状況の報告等も必要になってきます。
ゆうちゃん:実際に申し込むにはどうしたら良いの?
オオノ先生:すでに付き合いのある政策金融公庫の支店があるのであれば、その支店の担当者に相談してみると良いと思います。
てつや:ウチはまだ政策金融公庫との取引がないのですが……。
オオノ先生:そういう場合であっても、まずは近隣の支店を訪ねてみると良いと思います。また、「ビジネスサポートプラザ」が近くにあればそこに相談に行くのもおすすめです。
ゆうちゃん:ビジネスサポートプラザ?
日本政策金融公庫の「ビジネスサポートプラザ」に相談してみよう
オオノ先生:はい。ビジネスサポートプラザは、全国6ヵ所(札幌、仙台、東京(新宿)、名古屋、大阪、福岡)に設置された、日本政策金融公庫の施設です。事前予約することで中小企業診断士等の専門の相談員が、じっくりと相談を聞いてくれます。土日の相談もできるので便利ですよ。
てつや:わかりました。じゃあ、さっそくビジネスサポートプラザを予約してみます!
オオノ先生:はい。並行して事業計画書も作成しておいてくださいね。政策金融公庫のHPに資本性ローン用の事業計画書の雛形がありますので、それに基づいて作成しておきましょう。
ゆうちゃん:もちろん、センセーが手伝ってくれるのよね?
オオノ先生:……そうくると思いました。はい、喜んでお手伝いさせていただきますよ!
てつや:ありがとうございます!
- 【参考記事】
- 事業計画書・資金計画の作り方
- 相手に必ず響く!事業計画書の作り方
撮影:塙薫子