「預り金」とはどんなもの?負債なの?預り金の仕訳について知りたい!

勘定科目のひとつに「預り金」という科目があります。これはおもに給与計算のときや年末調整のときなどに登場する科目です。
ひと口に「預り金」といっても、その中身はさまざまです。預り金はどのように仕訳をして、どのように残高が動いていくのかということを見ていきましょう。
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目次
- POINT
-
- 預り金の主な用途は、給与から天引きする所得税や住民税、社会保険料など
- 年末調整の結果、マイナスになった預り金は、原則としてその後に納付すべき源泉所得税から相殺する
- 従業員から預かった所得税などは期限までに納める
そもそも「預り金」とはどんなもの?「立替金」との違いは?
預り金とは、その名のとおり、他者から預かっているお金です。ちなみに英語で言うと「Deposits received」で、日常的には交通系ICカードを作る際に鉄道会社に支払うお金などをデポジットといいますが、経理ではもっと幅広い意味で使われます。
経理で預り金が使われる場面としては、例えば従業員の給与からの天引き、いわゆる源泉徴収した所得税(以下源泉所得税といいます)が代表例です。
なぜ源泉所得税が、会社から見ると預り金なのでしょうか? 源泉所得税は、本来会社が従業員に支払うべき給与の一部を会社が預かって、従業員の代わりに国に納付しています。そのため、預り金という科目を使っているのです。
源泉所得税以外の主な預り金としては、
1) 給与天引きした住民税
2) 給与天引きした社会保険料
3) 給与天引きした雇用保険料
などがあります。
これらは、まさに従業員のために会社が預かっているお金であり、いずれ会社が必ず支払わなければならないお金です。
一方で、さきほどの交通系ICカードの例のように、一定の条件のもと、相手に返金するお金も預り金として処理します。
一例として、不動産の大家さんが賃借人から預かる敷金などがそれにあたります。
これは賃借人が賃貸借契約を解除するタイミングで清掃費などを引いて、賃借人に返金しなければいけません。
このように、預り金には、
1) 近いうちに必ず支払わなければならないお金
2)一定の要件のもと、預かった相手方に返金しなければならないお金
の2パターンがあります。
また2)のパターンは業種が限られていますが、1)のパターンは給与の支払いを行う限り、必ず発生します。今回は1)のパターンを中心に解説していきます。
よくある「預り金」の具体的な仕訳例(基本編)
ほとんどの会社では、預り金がもっとも使用される場面は、給与の仕訳を行うときでしょう。
預り金の具体的な仕訳は以下のとおりとなります(わかりやすくするために、従業員への未払金などは使用せず、実際に支払ったタイミングで費用を計上する形で表示してあります)。
給与を支払ったときの仕訳
例)額面200,000円の給与を支払う場合
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
給与手当 | 200,000 | 現金預金 | 185,400 |
預り金(源泉所得税) | 4,000 | ||
預り金(住民税) | 10,000 | ||
預り金(雇用保険料) | 600 |
実際には、源泉所得税の金額は家族の扶養状況などによって、住民税は前年の所得によって金額が決まりますので、上記の数字は仮のものです。
個人事務所の税理士に顧問料を支払う仕訳
例)顧問料32,400円を支払う場合
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
支払報酬料 | 32,400 | 現金預金 | 29,337 |
預り金(源泉所得税) | 3,063 |
ちなみに、税理士や弁護士、社会保険労務士などの顧問料でも税理士法人や弁護士法人など法人に対して支払う場合には所得税を源泉徴収する必要はないので、預り金の科目を使うことはありません。
源泉所得税・住民税を納付する仕訳
例)従業員から預かった源泉所得税7,063円と住民税10,000円を税務署に納付した場合
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
預り金(源泉所得税) | 7,063 | 現金預金 | 17,063 |
預り金(住民税) | 10,000 |
従業員から預かった所得税と住民税を税務署に納付しましたので、この場合の預り金は借方科目に仕訳します。
預り金は負債なの?預り金の勘定科目について
預り金は、会社から見れば、いずれ別のところに支払うために一時的に会社でプールしているお金です。
いつかは支払わなければならないという意味で、未払金などと同じような性質を持っています。そのため、負債の項目に区分されています。
預り金は給与支払などの度に発生しますので、残高が動く都度、正しい残高が計上されているかどうか確認するようにしましょう。

年末調整をした結果などで、預り金がマイナスになった場合はどうする?
毎年年末に行う年末調整。毎月従業員から天引きしていた源泉所得税の合計と、実際に従業員が納めるべき所得税との差額を精算します。
例えば1年間に預かった源泉所得税の合計が10万円、1年間の給与の合計から計算した所得税が9万円だった場合、年末調整のときに従業員に差額の1万円を戻してあげる必要があります。1万円多く天引きしすぎだったということですね。
年末調整で各従業員に戻す金額は、生命保険料や住宅ローン、さらには中途入社の場合は前職の給与など各従業員の状況によってさまざまなので、実際に年末調整の計算をしてみないとわかりません。
そのため、計算の結果、すでに税務署に納めてしまった源泉所得税分も含めて従業員に戻すことになることがあります。
この場合、従業員にお金を戻した結果、預り金がマイナスになることがあります。年末調整の結果、従業員に1万円を戻すことになったときの仕訳例です。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
給与手当 | 200,000 | 現金預金 | 195,400 |
預り金(源泉所得税) | 4,000 | ||
預り金(住民税) | 10,000 | ||
預り金(雇用保険料) | 600 | ||
預り金(源泉所得税) | 10,000 |
しかし、もともと預かっていた源泉所得税は税務署に納付してしまっているわけですから、年末調整で従業員に戻すお金は預り金をマイナスするというよりは、税務署が従業員に戻すべきお金を会社が代わって戻しているというのが実態です。
この動きを正確に仕訳に反映するなら戻す10,000円の仕訳は「税務署への立替金」というのが適切でしょう。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
給与手当 | 200,000 | 現金預金 | 195,400 |
預り金(源泉所得税) | 4,000 | ||
預り金(住民税) | 10,000 | ||
預り金(雇用保険料) | 600 | ||
立替金(税務署) | 10,000 |
この仕訳であれば、預り金がマイナスすることもありません。もちろん源泉所得税以外の預り金があって科目全体ではマイナスにならなくても、管理上こちらのほうがわかりやすいかもしれません。
ちなみに、この立替金(預り金のマイナス処理をした場合は預り金のマイナス)はどのように解消されるのでしょうか? 解消方法には、マイナスした分を税務署に還付してもらう方法と、後日納める源泉所得税から相殺する方法の2つがあります。
税務署に還付してもらうには、還付請求書に賃金台帳などの書類を添えて提出する必要があります。ただし、この方法は書類の作成に手間がかかり、さらに還付までに時間がかかります。よほど従業員に戻す金額が大きいという場合を除いて、後日納める源泉所得税から相殺する方法にするのがよいでしょう。
預り金(税金や社会保険料)の納付時期は? 納付が遅れた場合は?
給与の仕訳で発生する預り金は、所得税や住民税、社会保険料などです。いわゆる公租公課というもので、納付時期も厳格に決められています。従業員からの預り金の納付時期は以下のとおりです。
①所得税
給与を支払った月の翌月10日。
例えば10月25日に支払った給与から天引きした源泉所得税は11月の10日が納期限となります。
②住民税
所得税と同じ。
所得税と住民税については、常時給与を支払う人数が10人未満の場合は、税務署や各自治体に申請すれば年間2回の納付に切り替えることができます。この場合、各納期限は以下のとおりとなります。
・所得税……1月から6月に給与天引きした分は7月10日、7月から12月に給与天引きした分は翌年1月20日までに、半年分を合計して納付
・住民税……6月から11月に給与天引きした分は12月10日、12月から5月に給与天引きした分は6月10日までに、半年分を合計して納付
半期納付にすれば、事務的な手間は大きく軽減できます。ただし事前に税務署や自治体に承認を受けておく必要があり、また、住民税については、従業員が住んでいる各自治体にそれぞれ申請をする必要があります。
特にB市に住んでいる新入社員が入った場合に、B市に申請を忘れた場合などには、A市は半期納付でB市は毎月納付ということになってしまいます。半期納付にする場合には、特に住民税については気をつけておく必要があります。
③社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)
毎月の月末に前月分を納付。例えば、10月分の保険料は11月末に納付する形となります。社会保険料には納期限について特別な取り扱いはありません。
④雇用保険料
毎年7月10日。ただし、納付額が一定額を超える場合は、7月10日、10月31日、1月31日の年3回に分割納付も可能であり、さらに自動引き落としの手続きをとれば約2か月間納付を先延ばしとなります。
いずれの納期も、期限が土日祝日に該当する場合は、後ろ倒しになります。所得税の例でいえば、11月10日が日曜日であれば、納期限は11月11日となります。
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納付期限に納付が間に合わなかった場合は
従業員から預かったものとはいえ、納付義務者はいずれも会社です。従業員としては、給与天引きされた時点で納付の義務を果たしているようなもので、あとは会社が、法定の期限までに納付をしなければいけません。それでも納付期限に納付が間に合わなかった場合はどうなるのでしょうか?
いずれも納期までに間に合わなければペナルティがあります。
ペナルティが特に大きいのが源泉所得税です。源泉所得税の納期に遅れた場合、「不納付加算税」というものがかかります。不納付加算税は、1日でも納付が遅れればかかります。(ただし年1回の遅れで1ヵ月以内に納付すれば、税務署の裁量で不問にしてもらえることもあります。)
不納付加算税は基本的に納付額の10%ですが、税務署から連絡が来る前に自主的に納付すれば5%となります(ただし不納付加算税が5,000円未満の場合は、不納付加算税はかかりません)。
いずれにしても非常に高額です。筆者が以前勤めていた会社も、400万円ほどの源泉所得税の納付期限が2日過ぎてしまった結果、20万円ほどの不納付加算税を納付する羽目になりました。
源泉所得税の不納付加算税以外にも、源泉所得税・住民税・社会保険料については、延滞税・延滞金がかかります。延滞税・延滞金については、源泉所得税の不納付加算税ほどの金額にはならないケースが多いですが、延滞はしないに越したことはありません。
次に(あってはならないことですが)従業員からの預り金まで他の支払いに回した結果、納付の資金が足りなくなり、納付ができなくなった場合です。まず、納期限が過ぎてからしばらくすると、督促状が届きます。さらに督促を無視していると会社の口座などを差し押さえられることもあります。例えば口座の差し押さえが行われると、差し押さえられた時点での残高は自由に使えなくなります。
万が一、納付が滞ってしまったとしても、督促を無視することは絶対にしてはいけません。できれば、督促が来る前に、税務署や自治体、年金事務所などに連絡して納付予定日などを伝えるのが最善の対応です。
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「預り金」の具体的な仕訳例(応用編)
給与関係の仕訳以外でも、業種によっては預り金の科目を使います。
取引先から、いずれ発生する取引の代金に充当するために事前に10万円を預かった際の仕訳
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金預金 | 100,000 | 預り金 | 100,000 |
取引先に商品を5万円分納品した際の仕訳
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
預り金 | 50,000 | 売上高 | 50,000 |
取引先と取引が終了して預り金を返金する際の仕訳
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
預り金 | 50,000 | 現金預金 | 50,000 |
給与関係以外で預り金を使用する場面は、業種によってさまざまです。上記の例は一例ですが、「いずれ一定の条件のもと返金しなければならないもの」は預り金にすることがひとつの判断基準です。
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