「自社のビジネスモデル」を説明できる?BMCならぬBMMで事業の強みと弱みを把握しよう!【会計士オオノ先生に聞く!お金の経営相談】

会社の経営力を強化するためには、融資を受けることだけでなく、自社のビジネスモデルをしっかりと把握しておくことが大切です。
公認会計士・税理士の大野先生がBMCを元に考案した「BMM(ビジネス・モデル・マトリックス)」という便利なフレームワークを使用して、今後の経営に役立つビジネスモデルの構築法について、会計士オオノ先生から新米経営者のゆうちゃんが学びます。
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目次
- POINT
-
- 自社のビジネスモデルを説明できる経営者になろう
- BMM(ビジネス・モデル・マトリックス)を使って、自社の強みと弱みを
把握しよう - 自社のビジネスモデルをしっかり整理することで、次の経営戦略を考えることができる
あなたは「自社のビジネスモデル」を説明できますか?
オオノ先生:ゆうちゃん、「経営力向上計画」の作成、お疲れ様でした。
※「経営力向上計画」って、なんだろう?と思いの方は、こちらの記事「メリット盛りだくさん! 「経営力向上計画」って何?」もあわせてご覧ください。
ゆうちゃん:センセー、手伝ってくれてありがとう! 事業計画書を作るのは初めてだったから、ちょっと大変だったけど、ひな型はワード2枚半だし、「事業分野別指針」も参考にできるから、なんとか作れたよ。
オオノ先生:そうですね。初めての方でも簡単に作れて、メリットがいっぱいなのが「経営力向上計画」の良いところですね。ところでゆうちゃん。
ゆうちゃん:なに?
オオノ先生:「経営力向上計画」を一緒に作っていて気がついたんですが、ゆうちゃんはまだ自社のビジネスモデルを上手く理解できていないみたいですね。
ゆうちゃん:ビジネスモデル……?
オオノ先生:ビジネスモデルについてはいろいろな定義がありますが、「調達した資金で価値を創造して、ターゲットに届け、資金を回収する仕組み」といえるでしょう。経営者であれば、自社のビジネスモデルをしっかり構築して、これを従業員や金融機関など社内外の利害関係者に説明できるようにしておいたほうが良いですよ。
ゆうちゃん:そっか、今回はセンセーがサポートしてくれたから、なんとか「経営力向上計画」を作ることができたけど、ビジネスモデルの理解がイマイチだったから、苦労したのかもね。
オオノ先生:そうですね。本来であれば、ビジネスモデルは事業計画よりも先に構築しておく必要があります。
ゆうちゃん:じゃあ、私もビジネスモデルの構築にチャレンジしてみるよ。わざわざ話題に挙げるくらいだから、なにか良い方法があるんだよね?
オオノ先生:ははは、そうですね。ゆうちゃんはBMC(ビジネス・モデル・キャンバス)って聞いたことあります?
ゆうちゃん:あ! 前にどこかのセミナーで習った気がするけど……。ちょっと難しくって、結局作るのやめちゃった。
オオノ先生:BMCは、組織活動を、「提供価値」「顧客」「チャネル」「顧客との関係」「収益の流れ」「主要な資源」「主要な活動」「主要パートナー」「コスト構造」という9つの要素に分類し、それぞれがどのように関わり合っているかを一枚の紙に描き出すツールなんですが、たしかにちょっとわかりづらい部分もありますね。
ゆうちゃん:そうなんだよねえ。それぞれの要素の違いとか、関係とかがよくわかんなかったんだよね。
オオノ先生:さらに、BMCはどちらかというと、P/L(損益計算書)に反映される企業活動にフォーカスしたフレームワークで、B/S(貸借対照表)に関する事柄はあまり考慮されていないんですよね。
【関連記事】
・貸借対照表(B/S)から「経営の安全性」を読み解くための3つのポイント
・資産・負債・純資産と貸借対照表 会計・簿記の基本−6
ゆうちゃん:B/Sに関する事柄?
オオノ先生:そうです。例えば設備投資や資金調達といった活動のことです。これらもビジネスモデルの構築には不可欠な要素なんですけどね。
ゆうちゃん:確かに、ビジネスモデルがP/Lに関することだけってことはないよね。
オオノ先生:それから、これはビジネスモデルそのものではないですが、ビジネスモデルを構築するなら、自社の置かれている外部環境や、自社の強み弱みなどの内部環境についても考慮しないとだめなはずですよね。
ゆうちゃん:たしかにそうだよね。
オオノ先生:そこで、これらのBMCの弱点を補いながら、よりわかりやすく各項目を整理したフレームワークを作ってみたんですよ。
ゆうちゃん:作ってみたって、先生が作ったの?
オオノ先生:そうです。それがBMM(ビジネス・モデル・マトリックス)です。
ゆうちゃん:すごーい!先生そんなのもできちゃうんだ!そのBMMとやら、早く教えて教えて。
さっそくBMM(ビジネス・モデル・マトリックス)を使ってみよう
オオノ先生:もちろんです。まずはこれを見てください。
ゆうちゃん:へー、ボックスの形はBMCに似てるね。BMCでは9個だったけど、BMMは11個のボックスか。
オオノ先生:そうです。各ボックスは「提供価値」「ターゲットとニーズ」「マネタイズ」「チャネル」「プロモーション」「チーム」「パートナー」「設備投資」「資金調達」「外部環境」「内部環境」に分かれています。
ゆうちゃん:うん。BMCよりわかりやすそうな気がする! 詳しく教えて。
オオノ先生:ではまずは「提供価値」から。「提供価値」というのは、ターゲットとなるお客さんに、どのような価値を提供するのか? ということです。
ゆうちゃん:ウチはカフェだから、提供しているのはコーヒーとケーキと……。
オオノ先生:たしかに、ゆうちゃんのお店ではコーヒーやケーキを提供していますが、それは商品の分類ですよね。そうではなく、このボックスでは「価値」に着目します。お客さんはどのような価値を感じて、ゆうちゃんのお店に来ているんだと思いますか?
ゆうちゃん:価値か……。ウチはそんなに高いコーヒーを出しているわけでもないし、ケーキだって自家製じゃないし……。あ、だけど、お客さんにはいつでも気軽に来てもらえるようにしてるし、来てくれたお客さんには自宅のようにリラックスしてもらえるような接客をしているよ。
オオノ先生:自宅のように、ですか。良いですね。たしかにゆうちゃんのお店って、みなさんけっこう長居してますよね。となると、その「居心地の良さ」が提供価値になりそうですね。
ゆうちゃん:うん。お客さんのなかにはウチのことを「サテライト自宅」って呼んでる人もいるんだ。
オオノ先生:あ、いいじゃないですか!そういうキャッチコピーがあれば、提供価値も分かりやすいですよね。
ゆうちゃん:そっか、ウチは「サテライト自宅」、つまり自宅ではないんだけど、自宅のようにくつろげる空間を提供していたんだね。
オオノ先生:そうですね。その価値を届ける「ターゲット」は誰で、どんな「ニーズ」があると思います?「ターゲット」というのは、「サテライト自宅」という価値の受け取り手のことですよ。
ゆうちゃん:今、よく使ってくれてるお客さんは、会社員やフリーランスの人が多いかな。
オオノ先生:現在のお客さんもターゲットに間違いないですが、ここではいわゆるペルソナ(※ユーザー像を仮想の人物として定義したもの)を設定するつもりで、誰に価値を届けたいかを考えると良いですよ。ゆうちゃんが喜ばせたい人は誰で、そこにどんなニーズがあるのか? どんな課題を抱えているのか? ということです。
ゆうちゃん:誰に届けたいかって言われても、困っちゃうな……。
オオノ先生:例えば、年齢、性別、趣味、職業、収入、家族構成、所有資産、行動パターン、共通の悩み事、物理的なエリアといった感じで、お客さんの属性を細かく分析していくと、ターゲットのニーズが明らかになりますよ。
ゆうちゃん:今のお客さんの年齢は30代~40代。男女比は半々かな。
収入や家族構成まではわかんないけど、平日は帰宅途中にやりのこした仕事を済ませてしまいたい会社員の人が多い気がする。
ウチは電源もWi-Fiも貸し出してるから。「資料をプリントアウトしたい」って相談がたくさんあったから、こないだなんか複合機も導入したんだよね。
オオノ先生:カフェなのに複合機ですか! となるとやっぱりビジネス利用の方が多いんですかね?
ゆうちゃん:そうそう。だから、平日の昼間はわりと閑散としちゃうんだよね。休日はフリーランスの人もけっこう使ってくれてるんだけど……。
オオノ先生:そうですか。フリーランスの方たちを上手く取り込めば、平日の昼間も売上が増えそうですね。現在のターゲットと将来のターゲットが違うこともありえますから、フリーランスの人をターゲットにしたビジネスモデルに徐々に舵を切っても良いかもしれません。
ゆうちゃん:でも、今後、そんなにフリーランスの人が増えるかどうかわかんないよ。労働者全体で見ても、まだまだ会社員の方が多いだろうし……。
オオノ先生:マクロな視点でのターゲット、つまり市場規模や構造、市場の成長率などは、後述する「外部環境」のボックスで考慮すれば良いですよ。とりあえず、今のところはそういった可能性もあるということで。
ゆうちゃん:わかった。私としてもフリーランスの人を応援したいって気持ちはあるんだよね。同じ事業者として。
オオノ先生:ターゲットを設定したら、提供価値がターゲットに合致したものかどうか再度確認してみましょう。
「マネタイズの方法」が見えてきた
ゆうちゃん:次は「マネタイズ」か。
オオノ先生:はい。どのように売上や利益を計上し、どのように投下資本を回収するのかを検討します。
ゆうちゃん:今は、コーヒーやケーキを販売して、その代金をもらってるけど、「サテライト自宅」という価値から考えると、「マネタイズ」の方法が一致していないかもね。
オオノ先生:そうですね。電源やWi-Fiを利用したい人たち、つまり「サテライト自宅」として利用したい人たちのなかには、コーヒーやケーキは不要だけど、快適な仕事場としてゆうちゃんのお店を使いたいっていう人達もいるかもしれません。
ゆうちゃん:そういう人達にとっては、コーヒーやケーキを買うのは抵抗があるかもね。
オオノ先生:そうですね。「マネタイズ」を考えるときは「ターゲットが取引をするためのハードルが十分に低いか?」を考えることが重要ですが、もしかすると必ずコーヒーやケーキを買わなければならないのはハードルが高いかもしれません。
ゆうちゃん:そうか。コーヒーやケーキを買わなくても利用できるように時間貸しの料金も設定すれば良いかもね! 1時間500円みたいに、ドロップインで利用できるようにすれば良いかも。
オオノ先生:商品・サービスのラインナップを増やすってことですね。
ゆうちゃん:そうすれば、今まで「コーヒーやケーキを買うのはちょっと……」と敬遠してた人たちにも使ってもらえるかも!
オオノ先生:そうですね。平日昼間の来客もこれで増えるかもしれませんね。次は「チャネル」ですね。価値を届ける場所、方法のことですが、これはお店で良いですよね?
ゆうちゃん:そうね。次は「プロモーション」か。これは広告宣伝やPRのこと?
オオノ先生:はい。販売促進のためにどんなことをやるかということですね。
ゆうちゃん:ウチはビジネス街にあるわけでもないから、インターネットに広告を打っても全然ダメ。一番効果が高かったのが、平日の朝、駅に向かう人にティッシュを配ること。その人たちが帰宅途中に寄ってくれるんだよね。
オオノ先生:良いですね。今後、フリーランスの人たちを重点ターゲットにするためには、どんなことができますかね?
ゆうちゃん:フリーランスの人たちって言っても、近所の人たちが多いと思うからやっぱりインターネット広告というよりも、地道な活動かなあ。
オオノ先生:例えば?
ゆうちゃん:SNSでお店の雰囲気を伝えるとか……? ちょっと、思いつかないや……。
オオノ先生:じゃあ、ここは置いておいて、次に進みましょう。ここまでは右側の項目を開設してきましたが、次は「チーム」についても考えていきましょう。
ゆうちゃん:これはやっぱり店長ね。元SEだからIT系に強くて、お客さんからもいろいろな相談を受けてるのよ。IT系の困りごとなんかをその場で解決しちゃうもんだから、店長目当てに来るお客さんもいるの。
オオノ先生:専門的な質問に答えてもらえるのは、フリーランスの人達にとっても嬉しいですよね。基本的にフリーランスの人たちって、まわりに質問する人がいない人が多いそうですですから。
ゆうちゃん:そうか! 「プロモーション」だけど、店長にブログを書いてもらうっていうのはどう? ITに詳しい店長が常駐してるって分かれば、フリーランスの人達に来てもらえるかも!
オオノ先生:いいですね。しかもブログなら親近感も沸きますしね。「チーム」に関して、逆に足りない部分はありませんか?
ゆうちゃん:カフェなのに、コーヒーに詳しい人がいないってことかな。そろそろコーヒーにも力を入れていきたいと思ってるんだよね。
オオノ先生:「パートナー」は、外部協力者のことです。現在、どんなパートナーがいて、今後どんなパートナーが必要となるかを検討します。
ゆうちゃん:まずは、ケーキを仕入れている工場ね。デザートはすべてここから仕入れているから、とても大切なパートナーだよ。あとは、やっぱり銀行かな。
オオノ先生:将来的にはどうですか?
ゆうちゃん:そうだ。フリーランスのお客さんから「イベントをやりたい」っていう要望が多いんだよね。それで、イベントスペースを作りたいの。ちょうどウチの上の階が空いたらしくて、そこを借りようと思ってるんだ。
オオノ先生:増床ですか。良いですね。となると、そういったイベントを主催するフリーランスの人達も重要なパートナーになりそうですね。
ゆうちゃん:うん。イベントきっかけで、カフェスペースを使ってくれる人も増えそうだし。
オオノ先生:となると「設備投資」は、増床にともなう保証金の支払や内装工事、備品の購入などですかね。
ゆうちゃん:そうだね。「資金調達」には銀行からの借入れを記入しておけばよいかな?
オオノ先生:そうですね。自己資金で賄う部分もあると思いますが、融資を受けるなら設備資金と運転資金、それぞれいくら必要か、事業計画を策定して決定しないといけませんね。
ゆうちゃん:そっか、事業性評価融資を受けるためには、事業計画が必須だもんね。
オオノ先生:はい。経営力向上計画はすでに作りましたが、運転資金まで調達するのであれば、もう少し詳細な事業計画を作成する必要があると思います。
ゆうちゃん:増床してすぐはなかなかイベントも埋まらないだろうから、ある程度の運転資金も確保しておきたいな。だって、ハヤトくんやマサヤくんの事例もあるしね。
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ここまでのBMMの記入例
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競合他社の状況や市場をとりまく環境などを考える
オオノ先生:わかりました。それはまた一緒に作成しましょう。次は「外部環境」です。
ゆうちゃん:さっきセンセーが言ってたように、今後フリーランスの人が増えていくかどうかってこと?
オオノ先生:それも含まれますが、それだけではありません。その他にも、競合他社の状況や、市場をとりまく環境なども考える必要がありますよ。
ゆうちゃん:今のところ近隣に競合他社はいないと思う。カフェはあるけど、「サテライト自宅」っていうコンセプトのところはね。
オオノ先生:働き方改革やリモートワークの進展で、市場としては成長しそうですよね。
ゆうちゃん:うん。そう思うよ。今のうちからお客さんをしっかり捕まえておけば、競合が進出してきても簡単にはお客さんを奪われることもないんじゃないかな? あ、そういう意味では会員制を導入したら良いかも。
オオノ先生:そうですね。「マネタイズ」の方法が増えましたね。
ゆうちゃん:最後は「内部環境」か。
オオノ先生:これはズバリ、強みや弱みのことです。
ゆうちゃん:強みとしては、「サテライト自宅」というコンセプトと、コワーキングスペースとカフェの中間として、柔軟に使ってもらえるってところかな?
オオノ先生:あとは、着かず離れずの絶妙な接客も強みですよね。弱みはどうです?
ゆうちゃん:やっぱりまだまだ認知度が低いってことかな。これは「プロモーション」でしっかりカバーしていくよ。働き方の多様化っていうチャンスを逃さないようにね。
オオノ先生:そうですね。実は外部環境(機会と脅威)と内部環境(強みと弱み)を組み合わせることで、「弱みを克服して、チャンスを捉えられないか?」「強みをチャンスにどう活かすか?」など、経営戦略をいろいろ考えることができるんですよ。
ゆうちゃん:そっか、ビジネスモデルの構築と経営戦略の策定は同時並行に進むってことね。
オオノ先生:そうです。
ゆうちゃん:ふう。なんとかBMMが埋まったね。
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オオノ先生:お疲れさまです。ゆうちゃんのお店のビジネスモデルがはっきりしたんじゃないですか?
ゆうちゃん:うん。それにビジネスモデルを整理する過程で、新たな戦略も浮き上がってきたよ。
オオノ先生:そうですね。フリーランスの方々を重点ターゲットとしていく戦略は、外部環境にもマッチしていて良いと思います。BMMについては、今日、説明しきれなかった部分もありますので、説明資料をお渡ししておきますね。何度でも書き直せるようにブランクのひな型もつけておきますね。
>>BMM 説明資料&ひな型ダウンロード(.pdf形式・無料)
ゆうちゃん:センセーありがとう! 家に帰ってもう一度目を通してみるよ。
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撮影:塙薫子