担保がなくても「イケてる企業」は融資を受けられる!「経営力向上計画」を作って資金調達しよう【会計士オオノ先生に聞く!お金の経営相談】

これまで、【会計士オオノ先生に聞く!お金の経営相談】シリーズで資金繰りや融資について学んできた新米経営者のゆうちゃん。
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そして、現在は企業のビジネスの内容や将来性・成長性を評価した融資(事業性評価融資)がトレンドということを知り、さっそく事業計画書の作成に着手しようとしています。今回は、事業計画を作る際に知っておきたい「経営力向上計画」を、それを作るためのヒントとなる中小企業庁の出した「事業分野別指針」について解説します。
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※2022年(令和4年)度の雇用保険は、2段階更新です。詳細は、「【2022年度の雇用保険は2段階更新!】労働保険とは?制度と年度更新について解説」を参照ください。
目次
- POINT
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- 担保がなくても将来性・成長性のある企業に必要な資金を回すための「事業性評価融資」
- 「経営力向上計画」の様式に従えば、かんたんに事業計画を作ることができる
- 「事業分野別指針」を参考にして経営力向上計画を作ろう
これからは「イケてる企業」が資金的な支援が受けられる!?
オオノ先生:ゆうちゃん、事業計画書を作成する前にちょっと質問です。「経営力向上計画」というものは知ってますか?
ゆうちゃん:経営力向上計画?初めて聞いたよ。
オオノ先生:そうですか。現在の融資のトレンドが「事業性評価融資」ということは前回話しましたよね?
ゆうちゃん:うん。金融機関が貸出先の事業内容をちゃんと評価して、イケてる企業にはしっかり資金的な支援をするような貸出姿勢のことだよね。
オオノ先生:そうです。これまで中小企業が金融機関から融資を受けようと思うと、土地や自社ビルなどの担保を要求されることが多かったんですね。しかし、そういった貸し出し姿勢だと、担保はないけど将来性・成長性のある企業に必要な資金が回らず、これから有望な企業の成長が鈍っているんじゃないかという議論がおこったんですね。
ゆうちゃん:確かに、担保があるから良い企業とは限んないもんね。
オオノ先生:はい。そうしたこれまでの反省から、担保の有無ではなく事業内容を評価して貸し出しをするべきだという方針が、金融庁から明確に示されました。
ゆうちゃん:それが「事業性評価融資」ってことよね。
オオノ先生:そうです。ところでゆうちゃん、事業性評価融資のためには何が必要だと思います?
どうすれば金融機関に自分のビジネスをアピールできる?
ゆうちゃん:事業性評価融資に必要なもの? う~ん、なんだろう。評価って言うくらいだから、金融機関の人の目利き能力みたいなのは必要なんじゃないかな?
オオノ先生:つまり、評価する側(金融機関)の能力ってことですね。他には?
ゆうちゃん:逆に、評価される側も、自分のビジネスをちゃんとアピールできないとだめよね?
オオノ先生:そうですね。つまり事業性評価融資を広めるためには、評価する側がちゃんと評価するだけではだめで、評価される側でも努力が必要だということです。ところで、ゆうちゃんは評価される側なわけですが、自分のビジネスを金融機関にしっかりアピールできていますか?
ゆうちゃん:う……。そういわれると、自信がないな……。そもそもどうやってアピールすればよいのかもわからないし……。センセー、どうやったら私のビジネスの良さが伝わるんだろう?
オオノ先生:どうやって自分のビジネスをアピールするか、それが事業計画ですよ。会社の将来像をしっかり事業計画に表現することで、アピールできるんですよ。
ゆうちゃん:そうか。それでセンセーは事業計画書を作れっていうのね。
オオノ先生:そうです。ただ、これはちょっと悲しいところなのですが、金融機関に事業計画書をちゃんと読み解く能力があるかというと、それは少し心もとない部分もあってですね……。
ゆうちゃん:そっか、今までずっと担保を取って融資をしてきたから、急に事業計画に基づいて融資をしようとしても、そのノウハウがあまり金融機関にはないのかもしれないね。
オオノ先生:そうなんですよ。実際、金融庁が事業性評価融資の方向性を示したときに、現場である金融機関からは拒否反応みたいなこともありました。
ゆうちゃん:でも、わかる気がするわ。誰だってこれまでのやり方を変えるのは大変だもん。
オオノ先生:そうですね。しかし、国は手を緩めませんでした。これをみてください。
ゆうちゃん:「信用保証制度の見直しに向けた最終提言」?「最終提言」って、なんだか怖いわね。
オオノ先生:はい。これは平成28年(2016年)11月に政府与党から出されたものですが、表題だけでなく、内容もなかなか過激でした。
ゆうちゃん:どんなことが書いてあったの?
オオノ先生:端的に言えば「事業性評価の能力がない金融機関のお客さんには、他の金融機関を紹介しちゃうよ」ということが書いてあったんです。
ゆうちゃん:ええ?! お客さんを、競合他社に紹介されちゃうってこと?
オオノ先生:そうです。そして、さすがにこの文書が出されて、金融機関も事業性評価融資に向き合い始めました。
ゆうちゃん:事業性評価融資の推進に、国や政府が本気だってことがわかったのね。
オオノ先生:はい。彼ら金融機関が最初にやったこと、それが合併、グループ化です。ゆうちゃんのまわりの銀行でも、名前が変わったところはありませんか?
ゆうちゃん:あ! たしかに近くの銀行が3行合併したわ!でも、事業性評価融資と銀行の合併に何の関係があるの?
オオノ先生:やはり事業性評価融資というのは、金融機関にとってリスクの大きな貸し出しなんですよ。リスクが増える分、まずは自分たちの体力をつけておかなければならないということで、合併によって組織を大きくし、同時に人事、総務、経理といったバックオフィスは集約したんですね。
ゆうちゃん:これで、ようやく事業性評価融資を進める準備が整ったと。
オオノ先生:はい。ただ、国も「事業性評価融資をしろ!」とプレッシャーをかけるだけではなかったんです。
ゆうちゃん:なにか助け舟を出してあげたってこと?
オオノ先生:そうなんです。そこで登場したのが「経営力向上計画」です。
A4の用紙2枚半程度で作れてしまう「経営力向上計画」とは
ゆうちゃん:やっと出てきたわね。「経営力向上計画」。国が定めた計画書のひな型だったわよね?
オオノ先生:はい。つまり、事業性評価融資において評価される中小企業の側も、これまで事業計画をあまり作ったことがなかっただろうということで、まずはこの「経営力向上計画」の様式に従って事業計画を作ってみなさいということなんですよ。
ゆうちゃん:そうなんだ。だけど、作ってみなさいって言われたって、これまでやったことないんだから、あんまり難しいものは作れないよ。
オオノ先生:安心してください。「経営力向上計画」はA4用紙2枚半程度のひな型なんです。
ゆうちゃん:A4用紙で2枚半! それだったら私でも作れそう。
オオノ先生:そして、多数の中小企業が同じひな型で事業計画書を作成すると、評価する金融機関側にもメリットがあります。
ゆうちゃん:そうか。同じひな型でいくつも事業計画書を評価することで、事業計画書を読み解く勘所、つまりノウハウが蓄積されやすくなるってことね。
オオノ先生:そのとおりです! これで事業性評価融資のための土台が整ったといえます。しかも国はこの「経営力向上計画」をすべての中小企業に作ってもらいたいと思っていますから、そのためのインセンティブもたくさん用意しています。
ゆうちゃん:インセンティブ?
オオノ先生:「経営力向上計画」を作成し、国の認定を受ければ、税金が安くなったり、融資の金利が低くなったり、補助金の加点材料になったり、さまざまなメリットを付与しています。
【参考記事】
・メリット盛りだくさん! 「経営力向上計画」って何?
ゆうちゃん:すごい!
オオノ先生:もちろん「経営力向上計画」そのものは簡易なひな型なので、これで事業計画が完成というわけではありません。ただ、「経営力向上計画」をきっかけに金融機関に自社のことをどんどんアピールしましょう。
ゆうちゃん:実際にはどうやって作ればよいの?
オオノ先生:もちろん自分で作ることもできますが、まずは、顧問の税理士に作成をお願いしてみると良いですよ。
【参考記事】
・経営力向上計画のメリットを確実に享受するための注意点
ゆうちゃん:顧問の税理士……。いや、それセンセーじゃん!
オオノ先生:そうでしたね(^_^;) ではさっそく一緒に作ってみましょうか。
こんなにかんたん! 「経営力向上計画」をつくるためのヒントとは
オオノ先生:まずは中小企業庁が経営力向上計画についての特集ページを作っていますので、そちらを見てみましょう。
ゆうちゃん:ホントだ。「経営力向上計画策定の手引き」とか「税制措置・金融支援活用の手引き」とか、手引きがちゃんと用意されているんだね。
オオノ先生:はい。まあ、手引きは実際に作成するときに見るとして、まずは「事業分野別指針」を見てみましょう。「事業分野別指針及び基本方針」というリンクをクリックしてみてください。
ゆうちゃん:あ、別のページ(中小企業庁:事業分野別指針及び基本方針)に飛んだわ。
オオノ先生:実は、経営力向上計画を策定する際に、どのようなことを実施して経営力を向上させるかを記載するのですが、その実施事項はこのページに記載されている「事業分野別指針」を踏まえて策定しないといけないんですよ。
ゆうちゃん:どういうこと?
オオノ先生:実際に見たほうが早いと思いますので、まずはそのページの「事業分野別指針の概要」というPDFを開いてみてください。
ゆうちゃん:うん。どれどれ。
オオノ先生:PDFを開くと、最初に「1.製造業の指針【現状認識・課題、目標】」という項目があると思います。そして、製造業についての【現状認識】や【業界が抱える課題】が記載されていますね。
ゆうちゃん:へー。わざわざ自分たちで業界の現状調査や課題の分析をしなくても、ここに調査結果がまとまってるのね。
オオノ先生:はい。そして次のページは「1.製造業の指針【実施事項について】」です。ここでは【業界が抱える課題】を解決するための具体的な手法が提案されています。
ゆうちゃん:なになに、「多能工化及び機械の多台持ちの推進」「暗黙知の形式知化」……。え?すごい! 業界が抱える課題って、その業界に属する各企業の課題ともいえるよね? それを解決する具体的な方法が例示されてるんだ!
オオノ先生:そうです。これをヒントに自社に落とし込めば、「経営力向上計画」の実施事項の欄が埋まります。「経営力向上計画」のメインはこの実施事項の記載ですので、ここができればもう完成したようなものですね。
ゆうちゃん:「経営力向上計画」がこんなにかんたんに作れるのも驚いたけど、それより、この「事業分野別指針の概要」にびっくりしてる! もちろん他の業種のもあるんだよね?
オオノ先生:もちろん! PDFのページを進めていくと、製造業以外にも、卸・小売業、外食・中食、建設業、不動産業など、18業種の調査結果が見られるようになっています。
オオノ先生:わかりました。事業計画のとっかかりとして、さっそく「経営力向上計画」を一緒に作りましょう!