フレックスタイム制とは?裁量労働制とどう違う?誰にどんなメリットがある?
監修者 : 宮田 享子(社会保険労務士)

人手不足倒産という言葉が話題になっています。今後は育児や介護、家庭の都合などで、一般的な所定労働時間に沿って働けない人でも働きやすい労働条件を作ることが、優秀な人材を採用する鍵となります。
そこで活用したいのが労働基準法で定められたフレックスタイム制という働き方です。どのような制度なのか、その仕組みと導入方法、メリット・デメリットを見ていきましょう。
監修:宮田享子(社会保険労務士)
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目次
- POINT
-
- フレックスタイム制の働き方とメリット・デメリット
- フレックスタイム制に適した業界・職種がある
- フレックスタイム制を導入する前に決めるべきこと
- フレックスタイム制と裁量労働制の違いとは?
労働時間を柔軟に設定できるフレックスタイム制の働き方とは?
人手不足が続く現在では、育児や介護などで一般的な定時の就業時間に合わせて働くことが難しい人も、十分に力を発揮できる働き方改革が求められています。そこで注目されているのが、労働時間を柔軟に設定できるフレックスタイム制です。よく聞くこの制度ですが、一体どのような働き方なのでしょうか。
フレックスタイム制とは、始業時刻と終業時刻を労働者個人に任せる労働形態のことを指します。1日の労働時間の長さを固定せず、最長1カ月(※)の一定期間(以下、清算期間)の総労働時間を就業規則その他これに準ずるもので定め、労働者はこの総労働時間の範囲で、一定の条件において日々の始業時刻と終業時刻を自分で決めることができます。
週あたりの労働時間が週の法定労働時間の枠内に収まっていれば、1日の労働時間の規制を解除することが認められている変形労働時間に分類されるのがフレックスタイム制の働き方です。
会社の業務における繁忙期・閑散期に応じて労働時間の配分をし、労働者が仕事と私生活の調和を図りながら効率的に働けることを目的に、労働基準法第32条の3で定められたものです。1988年4月に施行されました。
この制度であれば、下記のような労働も可能になります。ただし、途中休憩時間を1時間とるものとします。
- 月曜日:出社9時、退社18時
- 火曜日:出社10時、退社18時 ※朝、子どもの集団登校に付き添った
- 水曜日:出社9時、退社16時 ※この日の担当業務が終了したため早く退社
- 木曜日:出社8時、退社19時 ※業務量が多い日なので早く出社
- 金曜日:出社9時、退社18時
もし、会社の所定就業時間が9時から18時の固定だった場合、火曜日は遅刻、水曜日は早退扱いになってしまいます。
フレックスタイム制は変形労働のひとつです。変形労働時間制とは法定労働時間の例外なので、業務の繁忙期と閑散期に応じて労働時間を弾力的に運用することができます。
繁忙期の所定労働時間を長くする代わりに閑散期の所定労働時間を短くするなど、業務の繁閑や特殊性によって、労使が労働時間の配分などを行い、全体の労働時間の短縮を図ろうとするものです。
1日や1週間の枠では時間外労働は発生せず、清算期間内で法定労働時間を超えた場合に時間外労働が適応されます。
例えば、清算期間1カ月(※)の総労働時間が160時間である場合(1日8時間×20日間)、1日の労働時間が8時間に満たない日があっても、1日8時間以上労働する日が複数あることで1カ月の合計労働時間が170時間になれば、10時間分の時間外労働の手当が支払われます。
労働者が実施に労働した時間が、清算期間において定められた時間に対し不足が生じた場合は、不足した時間分を翌月の総労働時間に加算して労働させることもできます。ただし、翌月の総労働時間に加算できる限度は、その法定労働時間の総枠の範囲内となりますので使用者は注意が必要です。(※)
(※)働き方改革の一環として、フレックスタイム制に関する法改正が行われました。(2019年4月施行)
2019年4月1日より、清算期間が1カ月→3カ月に延長され、月をまたいだ労働時間の調整により柔軟な働き方が可能になりました。たとえば、ある月に多く働いた時間分を清算期間内であれば別の月に働かなくても欠勤扱いになりません。
そして、労働時間が週平均50時間を超えない限りは、使用者は割増賃金を払う必要はありません。
なお、1カ月を超える清算期間のフレックスタイム制を導入する場合、労使協定を結んだ上で労働基準監督に届け出が必要となりますのでご注意ください。
詳しくは、厚生労働省「フレックスタイム制 のわかりやすい解説&導入の手引き」を参照ください。
【参考記事】
・厚生労働省:改正内容(フレックスタイム制の清算期間の延長等)
(2019年4月24日 監修:宮田享子(社会保険労務士)先生ご確認の上、スモビバ!編集部追記)
現在、フレックスタイム制を導入している企業の多くは、フレックスタイム制度に「コアタイム」と「フレキシブルタイム」を設けています。
・コアタイム:1日の中で必ず労働すべき時間帯
コアタイムは必ず設けなくてもよく、すべてをフレキシブルタイムとすることができます。
・フレキシブルタイム:選択により労働することができる時間帯
コアタイムがある場合、その前後に設ける必要があります。この時間帯でいつ出勤・退勤するかは労働者本人の自由となります。
コアタイムがほとんどで、標準となる1日の労働時間とほぼ一致していたり、フレキシブルタイムが極端に短かったりする場合は、始業時刻と終業時刻の決定を労働者本人に委ねていることにならないと厚生労働省から注意が促されています。
また、始業から必ず8時間労働しなくてはならないなど、1日の労働時間を義務付けている場合もフレックスタイム制とはみなされません。
フレックスタイム制のメリット、デメリットは?
このフレックスタイム制は会社、労働者それぞれにどのようなメリットがあるのでしょうか。
労働基準法の中で労働時間は原則1日8時間以内、1週40時間以内と定められています(特例事業場は1週44時間以内)。1日の労働時間が8時間を超えると、1週間の労働時間が40時間を超えなくても割増賃金を払わなくてはなりません。
フレックスタイム制を導入すれば、清算期間の総労働時間のなかで言葉通りフレキシブルに働くことができます。1日10時間働いた日があっても清算期間内の別の日に労働時間を調整すれば割増賃金が発生せず、人件費の削減につながります。会社にとっては、繁忙期や閑散期など仕事量の波による賃金の無駄をカットできることが最大のメリットです。
労働者にとっても自由に出勤・退勤ができるので、通勤ラッシュの時間帯を外したり労働時間前後の用事に合わせて労働時間を調整できたりなど、ワークライフバランスを重視した働き方ができるメリットがあります。これによってストレス軽減につながることも考えられます。
また、多様な働き方を認めることによって、従来の所定労働時間では採用できなかった優秀な人材を採用しやすくなります。事業拡大のために従業員を増やそうと面接をした人が、所定労働時間の終業まで働けない日が多いから採用できず、競合他社に入社されてしまったという残念なケースも、フレックスタイム制の導入で避けられるかもしれません。
このように会社にも労働者個人にもメリットがあるフレックスタイム制ですが、デメリットもあります。
労働時間や出社時間がバラバラなので、フレキシブルタイムの時間帯に緊急の会議や打ち合わせが入っても担当者が不在で対応できず、取引先へのサービス低下につながりかねません。
労働者にとっては、フレキシブルタイムに社員同士のコミュニケーションが不足したり、コアタイムに打ち合わせなどが集中して担当している業務に集中できなかったりなど、かえって仕事を効率化できない場合も。自己管理できない社員にとってはフレックスタイム制が労働意欲の低下を招く可能性もあります。
フレックスタイム制と裁量労働制の違いとは?
職種によっては、裁量労働制を検討してもよいかもしれません。
裁量労働制とは、業務の進め方や時間配分が労働者に委ねられている労働時間制度のことです。実際の労働時間を計るのではなくあらかじめ定められた労働時間分働いたものとするみなし労働制のひとつです。法定労働時間の例外であり、実労働時間をカウントする変形労働制であるフレックスタイム制とは、似ているようで根本的に違う働き方です。
裁量労働制の対象とできる労働者は、技術開発や企画業務など何らかの成果を求められる職種に使われることが多く、訪問先や帰社時間について具体的な指示を受けない、業務する人の中に時間管理者が含まれていないことなどが条件になります。
さらに同じ裁量労働制でも、対象業務が専門業務型と企画業務型では異なります。
専門業務型は、情報処理システムの分析や設計、新聞・出版・テレビなどの記者や編集業務、弁護士、不動産鑑定士など、指揮命令下での業務遂行が困難とされる、高度な専門性を要する19種の業務に限定されています。
一方、企画業務型は、事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画、立案、調査及び分析を行う業務を対象としたものです。
専門業務型裁量労働制を採用導入する場合は労働時間のみなし等の規定を置き、労働組合(ない場合は過半数の労働者)と労使協定を締結する必要があり、企画業務型裁量労働制の導入には労使委員会の決議届等が必要となります。
裁量労働制には、労働者が求められる成果を上げられれば少ない労働時間でも所定の給与を得られるメリットがある反面、使用者が労働者に過度な労働を求めてしまうケースも。
みなし労働時間が法定労働時間を超えている部分に割増賃金を支払う必要があります。裁量労働制は、求められる成果がみなし労働時間とバランスが取れているのかどうか、労使双方の十分な合意が必要となるでしょう。
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フレックスタイム制に適した業界・職種
フレックスタイム制の導入は、自由な時間設定をすることで成果を出しやすい個人で行う業務や技術的な業務が中心となる業種が適しています。具体的には外部からの影響が少なく個人の仕事として割り振りしやすい企画職やデザイン職、エンジニアなどです。現在、フレックスタイム制はIT業界、情報通信業界で多く導入されています。
それに対し、複数人でプロジェクトに取り組む職種、他部署や他企業と連携が多い職種や営業職はフレックスタイム制導入に適していません。チームメンバーがそろわない、外部からの問い合わせに対応できないなどで仕事のスピードが遅くなりかねません。
先行事例としては、働き方改革の一環で在宅勤務制度や短時間勤務制度などと組み合わせている企業も見られます。例えば、以下のような事例があります。
・アサヒビール:
多様な働き方支援のひとつとして、工場を除く98%の事業場でスーパーフレックス・フレックスタイム制度を導入する。
従業員の月間平均残業時間が減少し、2018年度より所定労働時間の短縮が実現しました。
参照:https://www.asahigroup-holdings.com/csr/society/worklifebalance.html
・ジェイアール東日本商事:
コアタイム11:00~15:00、フレキシブルタイムは7:00~11:00・15:00~22:00のフレックスタイム制度を導入する。
7割強の社員が利用し、早く退社するために前日までに業務を効率化して終わらせるようになった、削った時間を調整するために1カ月の総労働時間を意識するようになったなど社員の意見が出ています。
参照:http://www.ejrt.co.jp/newgraduate/diversity/index.html
フレックスタイム制を導入する前に決めるべきこと
フレックスタイム制を導入するには、就業規則その他これに準ずるものへの定め及び労働基準監督署への届出の変更と労使協定の締結が不可欠となります。ただし、労使協定の労働基準監督署への届出は不要です。
・就業規則その他これに準ずるものへの定め
始業時刻及び終業時刻を労働者の決定に委ねる旨を定めます。始業または就業どちらかだけではなく、必ず両方の時間を労働者の決定に委ねなくてはなりません。規定した内容は所轄の労働基準監督署に届け出をします。
・労使協定の締結
「対象となる労働者」、「清算期間とその起算日」、「清算期間における総労働時間」、「標準となる1日の労働時間」、「コアタイムの開始時刻と終了時刻」の5つについて定めます。
フレックスタイム制を導入するのは全従業員か特定の部署の従業員限定なのか、フレックスタイム制の対象労働者が年次有給休暇を1日取得した場合には、何時間労働したものとして賃金計算するのかなど具体的な事項を定めます。使用者は過重労働になっていないか労働者の働き方にも配らなくてはなりません。
休憩時間はフレックスタイム制にもあります。原則として、休憩時間は労働時間が6時間を超える場合に少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を労働の途中に与えなくてはなりません。一斉に与え自由に利用させることが必要です。
一斉休憩の規定には、適用除外もあります。接客業や通信業など適用が除外されている業種においては、休憩時間を一斉に与える必要はありません。休憩を取る時間帯も労働者に委ねる場合は、休憩時間の長さをとともにその旨を就業規則その他これに準ずるものに記載します。
コアタイムがない場合、使用者側から始業・終業の時刻を指示できないので、遅刻や早退は発生しません。コアタイムがある場合でも、フレキシブルタイム内であれば始業・就業の時刻を指示できません。コアタイムに食い込む始業・終業は遅刻や早退と見なすことができます。
就業規則その他これに準ずるもので定めた労働日に出勤しない場合は、欠勤として取り扱います。そこで、フレックスタイム制を導入した場合は、就業規則その他これに準ずるものへの違反といったペナルティーとしての減給、賞与の減額対象にするなど欠勤の取り扱い方を事前に定めておく必要があります。
上述したデメリットが起きないように、フレックスタイム制の仕組みをよく理解し、業務フローを見直してからの導入をオススメします。それによって「定時」がある働き方の無駄を改善して、仕事の効率化と従業員の働きやすさ向上につながれば、フレックスタイム制導入は会社の発展につながる大きなきっかけになるかもしれません。
また、平成31年(2019年)4月1日から「フレックスタイム制」の清算期間の上限が1ヵ月から3ヵ月に変更となる改正労働基準法が施行されます。あくまでも「上限」の変更になるので、現在、就業規則で「1ヵ月」としてあるのならば、そのままでも問題はありません。
新たなフレックスタイム制度に関係する内容は、後日記事として案内する予定です。
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