『ディズニーの神様』シリーズ著者・鎌田洋氏に聞く「従業員のモチベーション」を上げるには?

売り手市場の昨今、中小企業の経営者のなかには、「人材を募集しても、人が集まらない」「せっかく雇った社員が定着しない」といった悩みを抱える方も少なくはないようだ。スモビバ!で行ったアンケート調査(「採用でもっとも苦労していることは何ですか?」)でも、「募集に集まらない」「採用してもすぐやめてしまう」などの声が多く見受けられた。
そこで、かつて東京ディズニーランドで年間1万2,500人のスタッフ(キャスト)の指導・育成を行った経歴を持ち、累計90万部を超える『ディズニーの神様』シリーズの著者として企業のコンサルティングやセミナーを行っている、株式会社ヴィジョナリー・ジャパンの鎌田洋氏に、従業員の人材育成、モチベーションを上げる方法を伺った。
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高校生から65歳の従業員でもわかるよう、行動指針はシンプルに
──まず鎌田さんとディズニーとの関わりを教えてください。
私は宮城の映画館のない田舎で育ちまして。映画といえば学校の体育館で文部省推薦の作品が上映されるのですが、『101匹わんちゃん』などのディズニー映画が多かったですね。あとはウォルト・ディズニーが出演している『ディズニーランド』というテレビ番組を見て育ったことも憧れるきっかけになりました。
大人になってからは、新婚旅行でアメリカのディズニーランドに行ったときに、その素晴らしさに感動して。1983年に日本でもオープンすると知って、ぜひ自分が働きたいと思いました。でもそれまで勤めていたのは商社で、サービス業は未経験。何度も履歴書を出して、何度も落ちて……。隠れチャレンジを含めて7回目で、やっと採用されました。
──最初に配属されたのはどういった部署ですか?
カストーディアル……英語で言うと「美の管理人」です。実際は掃除担当ですが、けっして掃除という名前を使わないところがディズニーらしいですよね。昼と夜に部門が分かれているのですが、ゲストがいない夜はカーペットを洗ったり、ガラスを磨いたり……。アトラクションも全部きれいにします。さらに、昼の掃除はほうきと塵取りを使っての通常の掃除ですが、夜きれいにした状態を維持するのが使命と言われていました。
私はこの部署のトレーナー。ディズニー・ランドのオープンに備えて、600名のキャストにディズニーの哲学をわかりやすく伝えるのが使命でした。そこで8年働いたのち、ディズニー・ユニバーシティ(教育部門)で2,500人の正社員、アルバイト1万人の統括マネージャーを約7年務めました。そして現在は自分の会社を立ち上げ、セミナーやコンサルティングを通じて日本の会社を元気にする仕事をしています。
──ディズニーでは従業員の人材育成について、「4つの行動指針」があると伺いました。どのようなものか教えてください。
ウォルト・ディズニーの一番の思いは「We create happiness」。つまり、来てくださったゲストをいい気分にすること。そのために、会社もキャストも何に気を付けて行動すればよいかという「The Four Keys(4つの鍵)」という行動規準を定めています。
まず1つめは「安全(Safety)」。2つめに「礼儀正しさ(Courtesy)」、3つめに「ショー(Show)」、そして最後は「効率(Efficiency)」。
3つめの「ショー」については少しわかりにくいかもしれませんが、園内のすべてが完璧なショーだということ。例えばスペースマウンテンの屋根はいつ訪れても真っ白。園内に飾られている小道具、ベンチもショーの一部だから、大事にきれいに掃除されています。あとはアトラクションも、人形がほんの少し傾いた程度でも止めるようになっています。
4つめの「効率(Efficiency)」は、会社の効率というより、ゲストの効率のことですね。ゲストがアトラクションを少ない待ち時間で体験できる「ファストパス」もそうですが、例えばショップのレジ。混雑する帰りの時間帯にレジの台数もキャストも増やすなど、ゲストが待たないで買えるように配慮しています。
ディズニーでは高校生から65歳までが働いているため、行動指針は誰もがわかりやすい、シンプルなものであることが大切です。また、何を優先すべきか明確にできるよう、1~4まで優先順位も明示しています。
そして、例えばショップのキャストなら、最初に全体の教育係であるユニバーシティの導入研修で4つの行動指針(SCSE)を学び、商品部に配属されたらさらにSCSEを学ぶ。そこから各ショップに行っても、トレーナーからマンツーマンでSCSEを教えられることになります。
こうすることで、正社員もアルバイトも、徹底的にディズニー・フィロソフィー(哲学)を共有できる訳です。
──せっかく立派な哲学や経営理念があっても、皆に伝わっていなければ意味がないですからね。
さらに大切なのは、哲学や経営理念を翻訳して、わかりやすく伝えていくこと。個々の従業員の仕事に、具体的にリンクできるように伝えることです。
朝礼などで、ただ会社の理念を棒読みしているようでは伝わりませんね。