手もと資金がどんどん減る!?事業成長に運転資金が追いつかない「成長痛パターン」とは【会計士オオノ先生に聞く!お金の経営相談】

皆さん、こんにちは。公認会計士・税理士のオオノです。
以前の記事「飲食店の2店舗目を出店したら資金繰りが悪化…どうしたらいい?【会計士オオノ先生に聞く!お金の経営相談】」では、新米経営者のゆうちゃんとハヤトさんの事例で「設備投資」に関する資金繰りについて勉強しました。
資金繰りや事業計画は経営をしていくうえで、会計や税務より重要と言っても過言ではありません。
今回は、会社は成長しているのに手もとの資金が足りなくなる「成長痛パターン」など、日々の「運転資金」に関する資金繰りの勉強をしていきたいと思います。
おや、またゆうちゃんが困っているようですよ。
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目次
- POINT
-
- 会社は成長しているのに運転資金が足りなくなる「成長痛パターン」について知ろう
- 支払いと入金の期間のズレ、「入出金サイト」に注意しよう
- 手もとの運転資金が不足してしまう場合に備えて、融資を受けておく
売上が伸びているのに、どんどん資金が減っていく!? 〜自動車部品工場経営・マサヤさんの場合〜
ゆうちゃん:これは大変だ、大変だ。
オオノ先生:ゆうちゃん、どうしました? また困ってるようですね。
ゆうちゃん:あ、センセー。このあいだはありがとね。ハヤトくん、ますます絶好調みたい。
オオノ先生:それは良かったです。でも、それなら困ること無いじゃないですか。
ゆうちゃん:違うのよ。今回はハヤトくんじゃなくて、マサヤくんの会社が大変なの。
オオノ先生:ハヤトくんの次はマサヤくんですか。ずいぶん交友範囲が広いんですね。
ゆうちゃん:人脈を増やすのも経営のうちよ。私だって社長の端くれなんだから。
オオノ先生:冗談ですよ。で、マサヤさんがどうしたんです?
ゆうちゃん:私が説明するより、直接聞いてもらったほうが早いわ。明日マサヤくんと一緒にセンセーの事務所に行くわ。
オオノ先生:わかりました。お待ちしています。
~次の日~
マサヤ:はじめまして。
オオノ先生:はじめまして、オオノです。資金繰りのことで相談がおありのようですね。
マサヤ:はい。
ウチは製造業をやっていて、とある有名自動車メーカーに部品を卸しています。実は最近、売上がジリジリと下がってきて赤字に陥りそうだったので、新たな販売先を探していたんです。
オオノ先生:そうですか。リスク分散という観点からも、いろいろな販売先を確保しておくのは大切ですよね。それで、うまく見つかりましたか?
マサヤ:はい。おかげさまで、新たに2社と取引を始めることができました。先方にもウチの部品を気に入って頂けて、売上はかなり伸びました。
ゆうちゃん:マサヤくんの工場は、品質には定評があるのよね。
マサヤ:うん。伊達に長年、工場をやっていないよ。売上が伸びるにつれて利益もかなり回復してきたのだけど、なぜかお金が全然足りないんだよ。
ゆうちゃん:あっ! もしかして、設備投資を手持ちのお金でやっちゃったとか?!
【ハヤトくんの事例】
・飲食店の2店舗目を出店したら資金繰りが悪化…どうしたらいい?【会計士オオノ先生に聞く!お金の経営相談】
マサヤ:いや、もともと遊休になっていた製造ラインを動かしただけだから、特に新たな設備投資はしてないんだ。なのに、どんどんお金が減っていくんだよ……。
オオノ先生:わかりました。それはもしかすると「成長痛パターン」かもしれませんね。
ゆうちゃん:成長痛パターン?
オオノ先生:はい。会社の成長に資金が追いつかないのが、成長痛パターンです。
ゆうちゃん:成長に資金が追いつかないって……。
オオノ先生:具体的に数字で説明した方がわかりやすいと思いますので、マサヤさんの会社の試算表を拝見させて頂けませんか?
マサヤ:わかりました。今日会社に戻ったらすぐに先生にお送りします!
〜数日後〜
オオノ先生:マサヤさん、先日はありがとうございました。送って頂いた試算表を拝見して、どんどんお金が無くなっていく理由がわかりましたよ。
マサヤ:先生、いろいろとありがとうございます。お金が無くなっていく理由って、やっぱり前回おっしゃっていた「成長痛パターン」ってやつでしたか。
オオノ先生:結論から言うと、そういうことになりますね。
ゆうちゃん:それでセンセー、その「成長痛パターン」って何なの? もったいぶってないで教えてよ!
会社は成長しているのに、資金繰りがピンチになる理由
オオノ先生:わかってますって。まずは送って頂いた試算表を見てみましょう。
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ゆうちゃん:あ、確かに売上が伸びて、5月単月では利益も出てきてるわね。マサヤくんの会社は毎年12月が年度末だから、このままいけば、今年は黒字で着地できそうね。
オオノ先生:マサヤさんの会社は新たな販売先との取引も拡大していて、売上は毎月5%の成長率を達成しています。このまま5%の成長を続けた場合、6月以降の売上はこのように増えていきます。
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マサヤ:はい。先方もまだまだ取引を拡大したいとおっしゃってくれてますので、これくらいは売上を伸ばせると思います。
オオノ先生:そして、頂いた試算表を使ってマサヤさんの会社の経費を分析した結果、売上原価率は35%、固定費は350万円、変動費率は40%となりました。
ゆうちゃん:固定費っていうのは売上が増えても増加しない費用、変動費っていうのは売上が増えるにつれて増えていく費用のことね。
オオノ先生:そうです。それらを加味した将来の損益計算書がこれです。
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ゆうちゃん:すごい! 完全に黒字化を達成してるじゃない!
オオノ先生:ゆうちゃん、喜ぶのはまだ早いですよ。確かにマサヤさんの会社は成長してますが、これに資金繰りを合わせてみてみると……。
ゆうちゃん:あ、そうか、「損益」と「資金繰り」は別なんだったわね。
オオノ先生:はい。マサヤさんの会社の場合、売上入金は2ヵ月後、販管費の支払は当月払いでしたよね。売上原価についての支払いサイト(期間)はどうなってますか?
マサヤ:製造開始から販売まで、つまり売上原価が計上されるまで約1ヵ月かかっていますが、材料や工賃などの支払いも1ヵ月後なので、売上原価が計上された月に支払いがあると仮定して良いと思います。
オオノ先生:わかりました。先月(4月)の現預金残高は500万円でしたので、これらを加味して作成した簡易資金繰り表がこちらです。
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ゆうちゃん:えっ!?これ、一番下の行は「現預金残高」よね?
オオノ先生:はい。そうです。
ゆうちゃん:だったら10月以降マイナスになっているのは……。
オオノ先生:資金ショートしているということですね。
マサヤ:えっ、資金ショート……!? つまり、倒産ってことですか。
オオノ先生:そうですね。買掛金や未払費用など、支払うべき債務を支払えない状態が「倒産」ですので。
マサヤ:そんな……。売上も伸びていて、黒字化も達成しているのに倒産だなんて……。
ゆうちゃん:ねえ、センセー、なんでこんなことになっちゃうの?
オオノ先生:考えてみると、そんなに難しくはありませんよ。マサヤさんの会社は取引先が増え、売上が毎月5%も成長しています。これ自体は良いことなのですが、売上の増加に伴って、売上原価や販管費などの費用も増加しています。
ゆうちゃん:そうね。でも、そうした費用の増加以上に売上が増えているから、黒字化を達成しているわ。
オオノ先生:はい。ここで重要なのは「入出金サイト」です。
ゆうちゃん:入出金サイト?
マサヤ:つまり、「売上計上から入金までの期間」と、「費用発生から支払いまでの期間」のズレってことですね。
オオノ先生:はい。マサヤさんの会社は、売上入金まで2ヵ月かかってしまう一方で、費用の支払いは当月です。
ゆうちゃん:あ、そうか、売上増加によって増えた入金より、費用増加によって増えた支払いの方が、タイミングが早く来てしまうってことね。
オオノ先生:そうです。収入と支出の行を見てください。
ゆうちゃん:たしかに、5月から12月までずっと、入金より支出の方が多くて収支がマイナスになってる!
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マサヤ:そうか、成長すればその分、支払いも増える。そして支払いは入金よりも早く行われるから、ウチみたいな成長企業は収支がマイナスになって資金繰りが悪化するってことですね……。
オオノ先生:そうです。これが「成長痛パターン」というものです。
マサヤ:じゃ、じゃあ、僕の会社はどうすればいいんですか?
ゆうちゃん:収支のタイミングが問題なんだから、お客さんに入金を早めてもらうか、仕入先などに支払いを遅らせてもらうか交渉すればいいんじゃない?
オオノ先生:マサヤさん、そんな交渉できそうですか?
マサヤ:いや……それは難しいですよ。せっかくできた新しい得意先に入金を早めるような交渉をしたら、すぐに取引を解消させられてしまいますよ。仕入先だって、これ以上支払いを遅らせたら、今後取引を続けられるかどうか……。
オオノ先生:そうですよね。よく資金繰りの基本として「支払いは遅く、入金は早く」などと言われますが、そんな交渉ができるのは一部の有力企業だけです。こちらの支払いはあちらの入金なわけですから。
ゆうちゃん:じゃ、じゃあ、成長を少し緩めるっていうのは?
マサヤ:うーん、それもあまりやりたくないな……。お客さんが必要なものを、適時に適切な量を提供してきたからこそ、こうして信用してもらってるわけだし……。「ウチはこれ以上作れません」なんて言ったら、信用を失っちゃうよ。
オオノ先生:たしかに資金繰りを見ながら会社の成長を緩めるというのもひとつの手ですが、得意先としては安定供給をしてくれる会社と付き合いたいと思っているでしょうし、こちらの都合だけで生産量を減らすわけにもいかないですよね。
ゆうちゃん:そっか……。ねえ、センセー、どうしたら良いと思う?
オオノ先生:ちなみに、この資金繰り表をもう一年伸ばすとこうなります。
(↓今年)
(↓翌年)
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ゆうちゃん:あ! 来年の6月には現預金残高がプラスまで回復してる!
オオノ先生:そうです。来年6月には現預金残高がプラスになっていますので、資金ショートしているのは今年の10月から来年5月までという限られた期間だということです。
マサヤ:でも、限られた期間だとしても、資金ショートしてしまっては、その時点で将来はないわけだから……。
オオノ先生:そうです。いくら将来に現預金残高がプラスになるとしても意味がないんですね。でも逆に考えれば、この一時期さえ乗り切れば良いと言うことです。
手もとの運転資金が不足してしまう場合に備えて、融資を受けておく
ゆうちゃん:あ! そっか! 資金ショートする前にお金を借りてきて、収支がプラスになったらそこから返済すれば良いのね。
マサヤ:なるほど!
オオノ先生:ゆうちゃん、鋭いですね。マサヤさん、既にお金を借りている金融機関はありますか?
マサヤ:今は付き合っている金融機関はないんですが、先日、信用金庫の方が工場を訪ねてきました。そのときは、忙しくってロクに話も聞かなかったのですが。
オオノ先生:じゃあ、まずはその担当者に連絡してみると良いかもしれませんね。取引先が増えたことで売上も増えて黒字化も達成していますので、きっと良い返事がもらえると思いますよ。
~数日後~
ゆうちゃん:センセー、マサヤくんの会社、信用金庫から融資を受けられて、なんとか資金ショートを免れたってさ。
オオノ先生:そうですか。それは良かったです。
ゆうちゃん:それにしても、ハヤトくんは「突然死パターン」、マサヤくんは「成長痛パターン」だなんて、資金繰りって奥が深いのね。
オオノ先生:はい。しかも会社の命運を分けることですので、しっかり勉強していかないといけません。
ゆうちゃん:ほんとそうね。じゃないと、ウチもいつ倒産してもおかしくないってことだもんね。
オオノ先生:倒産……そうですね、ゆうちゃん、そもそも倒産ってどういう状態かわかります?
ゆうちゃん:え……あらためて聞かれるとわかんないな。センセー、倒産ってなんなの?
オオノ先生:そうですね。まずはそこから始めましょうか……。
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