算定基礎届の特例と、平成30年(2018年)10月1日から新たに始まる「月額変更届の特例」の要件や手続きについて解説!

毎月の給与から徴収される社会保険料の額を決定する「標準報酬月額」。この標準報酬月額は、原則として毎年4月~6月に支払った給与額を平均し「算定基礎届」に記入して届出をするものです。事業主は、この標準報酬月額に基づいて従業員の給与から保険料を天引きして、社会保険料を納めます。しかし、算定の対象期間である4~6月が毎年繁忙期で、この時期にどうしても残業が多い職種など、通常の算定のしかたでは不適当になってしまう場合に適用する特例があります。この算定基礎届の特例と、平成30年(2018年)10月1日から新たに始まる月額変更届の特例の要件や手続きについて解説します。
※執筆者:宮田先生ご確認の上、改元された様式に変更いたしました。(2019年5月22日 スモビバ!編集部追記)
[おすすめ]「弥生の給与計算ソフト」なら目的や業務別に選べる!まずは無料体験
目次
- POINT
-
- そもそも「算定基礎届の特例」とは
- 平成30年(2018年)10月1日から新たに始まる月額変更届の特例について知っておこう
- 月額変更届の特例の要件と手続きについて
「算定基礎届の特例」とは
算定基礎届とは、毎年4月~6月の3ヵ月間の平均給与月額から「標準報酬月額」をもとめ、7月1日から7月10日の間に年金事務所(または健康保険組合)へ届け出る手続きのことです。
【参考記事】
・【社会保険】算定基礎届の時期に残業すると損?算定基礎届とは何か?
そしてこの算定基礎届には特例があり、平成23年(2011年)4月から導入されています。その特例とはどのようなものなのでしょうか。
毎年4月~6月の3ヵ月間がちょうど繁忙期にあたり、残業手当が多く発生するような業種等(※例1)は、算定基礎届でもとめた標準報酬月額が高くなってしまうため、1年を通じて高額の社会保険料を負担することになります。
また、反対に毎年4月~6月の3ヵ月間がちょうど閑散期にあたる業種等(※例2)についても、通常の算定のしかたでは不適当と言えます。これらを防ぐために4月~6月の3ヵ月間ではなく年間の平均給与月額をもって算定するという方法です。
(※例1)毎年4月~6月が繁忙期である業種等……不動産業、学生服販売、ビルメンテナンス業等
(※例2)毎年4月~6月が閑散期である業種等……冬季に限定される杜氏、寒天製作業、測量関係等
算定基礎届の特例の要件と手続き
算定基礎届の特例の要件は、以下の①~③に該当することです。
- ① 「通常の方法(4月~6月の3ヵ月間の平均給与月額)で算出した標準報酬月額」と「年間平均で算出した標準報酬月額」の間に2等級以上の差がある
- ② ①の2等級以上の差が業務の性質上、例年発生することが見込まれる
- ③ 被保険者が同意している
図で表すと以下のようになります。
また、年金事務所(または健康保険組合)へ算定基礎届(算定基礎届の備考欄「8.年間平均」を○で囲みます)とともに、以下のものを届出ます。
【引用画像】
・厚生労働省:被保険者報酬月額算定基礎届
【参考資料】
・厚生労働省:年間報酬の平均で算定することの申立書(定時決定用)
・厚生労働省:保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較及び被保険者の同意等(定時決定用)
平成30年(2018年)10月1日から新たに始まる月額変更届の特例とは
月額変更届とは、一定の要件のもとに基本給や通勤手当などの固定的賃金が変動した月(以下、「変動月」といいます)を含む3ヵ月間の平均給与月額から標準報酬月額をもとめ、年金事務所(または健康保険組合)へ届け出る手続きのことです。
【参考記事】
・随時改定について〜月額変更届を提出するとき〜
この月額変更届の特例が、平成30年(2018年)の10月1日から新たに始まることになりました。では、この特例とはどのようなものなのでしょうか。
上記で述べた算定基礎届の特例と同様に、限定された3ヵ月間のみの平均給与月額をもとに月額変更届を届け出ることが不適当である場合に、年間の平均給与月額をもって月額変更するという方法です。
例えば、以下のようなケースが考えられます。
ケース1:決算業務のため残業手当が高くなる繁忙期に引越しをして、通勤手当の変更があった経理部のAさん
ケース2:宿泊客が増える繁忙期に子供が生まれ、家族手当が増額されたホテルマンのBさん
上記のAさんの通勤手当やBさんの家族手当の額がたとえ少額であったとしても、たまたま繁忙期で残業手当が多く発生することによって月額変更に該当し、等級が上がって高額の社会保険料を負担することになってしまいます。そのようなことを防ぐための措置です。
月額変更届の特例の要件と手続き
以下の①~④に該当すれば、月額変更届の特例の要件を満たしたことになります。
- ① 「通常の方法(変動月以降の3ヵ月間の平均給与月額)で算出した標準報酬月額」と「年間平均で算出した標準報酬月額」の間に2等級以上の差がある
- ② ①の2等級以上の差が業務の性質上、例年発生することが見込まれる
- ③ 「現在の標準報酬月額」と「年間平均で算出した標準報酬月額」の間に1等級以上の差がある
- ④ 被保険者が同意している
図で表すと以下のようになります。
また、年金事務所(または健康保険組合)へ月額変更届(月額変更届の備考欄に「年間平均」と記載します)とともに以下のものを届出ます。
【引用画像】
・厚生労働省:被保険者報酬月額変更届
【参考資料】
・厚生労働省:年間報酬の平均で算定することの申立書(随時改定用)
・厚生労働省:被保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較及び被保険者の同意等(随時改定用)
まとめ
すでに導入されている算定基礎届の特例、そして10月から新しく始まる月額変更届の特例についてお話しました。
月額変更届の特例が新設された経緯を簡単にご説明します。本文中の経理部のAさんやホテルマンのBさんのように、通勤手当や家族手当などの固定的賃金が変動した月から3ヵ月間が繁忙期と重なると、残業手当も含んだ平均給与額で計算するために月額変更に該当し、高額の社会保険料を支払うことになります。
しかし、これがもしも閑散期であれば月額変更に該当せず、次の算定基礎届までは社会保険料の見直しはありません。このように、固定的賃金が変動するタイミングによって月額変更に該当したりしなかったりすることは不適当である、という考えから今回の改正に至りました。
詳細につきましてはこちらをご覧になってください。
【参考資料】
・厚生労働省:「健康保険法及び厚生年金保険法における標準報酬月額の定時決定及び随時改定の取扱いについて」の一部改正に伴う事務処理について〔厚生年金保険法〕
・厚生労働省:「健康保険法及び厚生年金保険法における標準報酬月額の定時決定及び随時改定の取扱いについて」の一部改正に伴う事務処理について」に関するQ&Aについて〔健康保険法〕
【関連記事】
・算定基礎届・月額変更届とは?
・随時改定について〜月額変更届を提出するとき〜
Photo:Getty Images