税理士が本音で解説! 人材育成論「中小企業経営者に従業員を”育てる”ことはできない!?」

事業を拡大し、成功させるために必須となるのが“人材”。とはいえ、経営資源が乏しいスモールビジネスにとって、人を育てる時間もお金の余裕もないというのも本音でしょう。今回は、小さな会社の経営者が陥りがちなOJTの誤解も含め、人材育成や社員研修、あるいは雇用のあり方について、150社以上もの顧問経験を武器に、会計業務以外の経営アドバイスも積極的に行っている税理士の五島洋先生が、本音で解説します。
[おすすめ]「弥生の給与計算ソフト」なら目的や業務別に選べる!まずは無料体験
目次
- POINT
-
- 中小企業の人材育成では「教える人、教える時間、教えるための資金」が足りないのが現実
- OJTは”実地で仕事を教える”ことであり、”仕事を任せて放任する”ことではない
- 経営者にできるのは「育つ環境を与える」ことだけ。社員に仕事外の学びの場、時間を!
「教える人、教える時間、教えるための資金」がないという現実
──「社員が思ったように動いてくれない」「なかなか育ってくれない」といった悩みを抱えるスモールビジネスの経営者は多いようです。
税理士・五島洋先生(以下略):ちゃんとした人事部があって、研修制度が整っているような大企業と違って、中小企業においてはどうしても「教える人、教える時間、教えるための資金」がないという状況を抱えているというのが現実でしょう。よって、人材育成はOJT(※On-The-Job Training、オンザジョブトレーニング。職場で実務をさせることで行う従業員の職業訓練のこと)で……となるわけですが、そもそもOJTの意味をはき違えている経営者も多い。
──On-The-Job Trainingという文字どおり、実務を通して、実地で教育していくという企業内教育手法のことですよね?
現実の経営者を見ていると、実務は任せるけれど、ではそこでトレーニングをしているかというと、していない。基本、仕事を振りっぱなしで放任しているというケースが散見されます。
──それでいて、なにかトラブルがあると、「なんでウチの社員はダメなんだ」「社員には任せておけない」などとグチをこぼしたり……。
例えば、あるシステム系の会社の仕事などを例に挙げてみましょう、テクノロジーがどんどん発展していくなかで、新しいプログラミング言語を学ぶなどの技術力を上げて行くことが、会社にとっても、本人の収入アップのためにも必須なステップとなります。
けれど、それまでにずっと使われてきた古いタイプのプログラム言語を得意とするエンジニアに対して、いままでどおりにそのプログラム言語が必要とされる現場に派遣するだけで、本人に対して新たな技術を習得する機会を与えない。そのプログラミング言語が時代遅れとなってしまっても、それまでという会社も多い。
本人の将来をも考えて、仕事以外に学びの場や時間を与えている会社がどの程度あるか。恐らく少数派だと思います。
──大きな会社だと、役職や部署もたくさんあるので、異動のたびに自然と学ぶことも出てきますが、中小企業の場合はなかなかそれが難しいですしね。
無論、大企業の場合は、社内で蓄積したキャリアが、社外に出てそのまま通用するかどうかの問題はあります。ですが、あくまでも会社内で完結する人事システムにはその企業が培ってきた一定の合理性があるわけです。でも、中小企業の場合は、どうしても”社長とそれ以外”という関係性になってしまいがちです。
スモールビジネスの経営者ができるのは”育つ環境”を与えることだけ
──具体的には、社員をどう育てるのが正解なのでしょうか。
私がよく言っているのが、そもそも”従業員を育てる”という考え方そのものが間違っているのでは?ということです。
──なんと、質問から覆されてしまいました……。
例えば、大学の駅伝チームや高校野球の強豪チームなんかは、監督も選手も寝食を共にして、生活習慣から鍛え直しますよね。あそこまで一心同体でつきっきりの体制にしてしまえば、”従業員を育てる”ことも可能でしょう。しかし、せいぜい週5日、1日8時間程度一緒にいるだけでは、本当の意味で「育てる」なんて不可能と言わざるをえません。そもそもスモールビジネスの経営者というのは、自分の仕事だけでも相当な量を抱えてしまっていることが多いですから。
そんな環境のなか、経営者が従業員に対してできることは、”育つ環境を与える”ことだけ。私も、スタッフに新しい資格をとるために、仕事以外にも勉強や学校に行くチャンスを与えるなどの取り組みをしています。
多様な存在である人材を育てることに「正解」はない
──先ほども言った「新しいことを学べる場や時間を与える」ということですね。
そうです。さらに何かを教えてあげることで人が変われる、というのもせいぜい大学生ぐらいまでではないでしょうか。
いい大人を根本から鍛え直そうとしても、そもそも人間は多様な生きもので、工業製品ではありません。社長がベストと思った”育てる環境”を与えたところで、それが本人にとって正解かどうかもわかりません。つまり人材育成においては、コレが”正解”というのもない。
──確かに……。外部の人材育成研修や管理者養成学校みたいな研修プログラムに社員を参加させても、その企業の仕事の内実に合うかどうかはわからないですしね。
さらに言えば、人の雇用についても正解はない。よく中小企業の経営者から「人を雇いたいが、どう思うか?」という質問を受けることもあるのですが、会計の観点だけで考えていると、その会社が赤字ならば採用なんてありえない、という判断に当然なるでしょう。
けれど、社長自身が「今このタイミングこそ、リスクをとってでも人に投資すべき」と考えるなら、それは逆の経営判断になりますよね。
私自身も、人材の雇用や育成のスタイルに関しては、人一倍、トライ&エラーを繰り返してきました。もちろん、今も正解はわかりませんが、それでも手探りで進んでいくしかない。あきらめなければ、失敗ではない。人材育成や人材の雇用は、試行錯誤を繰り返していくことしかないのです。そうすることで、半歩ずつでも理想の会社、チームに近づくことにつながるのではないでしょうか。
【関連記事】
・私が会社勤めをやめて起業した理由 〜32歳・SE・プログラマー 前田さん(仮名)の場合〜
・社員のスキルアップのための研修費用は何費になるの?