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私が会社勤めをやめて起業した理由 〜32歳・SE・プログラマー 前田さん(仮名)の場合〜

いつかは起業したい……でも、「食べて行けるだろうか?」「自分は経営者に向いているかわからない」などの不安がよぎり、最後の一歩が踏み出せない人もきっと多いことだろう。そんな不安を拭い去り、思い切って会社を立ち上げたり、独立・開業を果たした若手起業家たちをインタビュー。今回はシステム会社を経てSE・プログラマーとして独立し、法人化したばかりの前田さん(仮名・32歳)の本音に迫ります。

IT企業に転職。勤続2年。円満退社のはずが......

IT企業に転職。勤続2年。円満退社のはずが……

そして、社長と2人だけの小さな会社でプログラマーとしての人生を歩むことになる。

「ここでは、企業の業務系システム開発を手掛けることが主な仕事。クライアントにヒアリングをして、要件を出して設計、設計書に添ってプログラミングを行うという一連の作業を行っていました。つまり、SE、プログラマーの両方の仕事を同時に行っていた訳ですね。のちになって、実はSEは普通、プログラムまで書かないという話を聞いて、びっくりした記憶があります(笑)」

そもそも独学から一歩進んで、先輩エンジニアに学び、成長したいという思いがあった前田さん。

「でも社長に質問しても『どこかに書いてあるだろう、調べればわかるだろう』という回答が返ってくるばかり。エンジニアはそういう方が多いですけどね。結局自分で学ぶしかなくて。エンジニアの勉強会は渋谷や六本木で開かれることが多いのですが、会社が都心から遠く、時間もなくてなかなか参加もできませんでした」

そこから2年、SE・プログラマーとしての実力がついてきたこと、当時はスマホアプリや、AR/VRの開発が注目を集めていて、自分もそれらを手掛けたいと思ったことから、自然な流れで転職を決意することにする。

しかし社長からは意外な言葉が……。

「社長に辞表を出したあと『今後も仕事上のお付き合いをよろしくお願いします』と伝えたのですが、『そんな虫のいい話があるか!』と言われてしまいました。おそらく、『ようやく仕事を任せられるまで育ってきたと思ったその矢先に勝手に辞めるなんて』と思われたのでしょう。

不義理をして申し訳ないと思った反面、社長に遠慮していたら本当に自分がやりたいこともできませんから……。2年間頑張って働いたので許してください、と心のなかでつぶやきました」

「いつかは自分も起業できるかも」

「いつかは自分も起業できるかも」

次に転職したのは、IT企業の合同説明会で紹介されたシステム開発の会社。

「オフィスもオシャレで、ワークスタイルも自由。当時はとても新鮮でしたね。開発スタイルも新しく、技術力が高いエンジニアさんがたくさんいたので、教わることも多くて。自分がどんどん成長していくのが分かりました」

営業やバックオフィス担当がいない会社だったので、自分で営業に行ってクライアントに提案したり、見積もりや請求書を作ったり……。この会社でSE・プログラミング以外の業務もすべて経験することになった。

「いつかは自分も起業できるかも、というモチベーションが高まりました。とはいえ前述のとおり、1年ちょっとでやっぱりゲームが作りたくなって最後の会社に転職してしまうのですが……。ただ、退職すると告げても仲間たちが『いつでも帰って来ておいで』と言ってくれて。今でも一緒に仕事をすることがあります。本当に最高の会社でした」

その後、また別の1社への転職を経て、いよいよ前田さんは独立を決めることになる。

「ダメだったらフリーに戻ればいいし、転職してもいい」

「ダメだったらフリーに戻ればいいし、転職してもいい」

「何となく、いつかは起業したいという気持ちはありましたが、タイミング的にはSE・プログラマーとしてどこでも働いていけるという自信がついたことが大きいですかね。うまく行かなかったらフリーに戻ってもいいし、転職してもいいし。

最近は事務所もこういうコワーキングスペースがあるし、ネットを見れば独立のための便利なツールもいろいろあるし。借金して会社を作ったわけではないので、気楽ですよ」

とはいえ、前田さんは家庭持ちの身。転職を繰り返し、独立することで家族に心配をかけることはなかったのだろうか?

「嫁には転職のたびに『また転職?』と言われましたけど、それを言われることにも慣れました。最近法人化したことも、役所から郵送されてきた封筒を見てはじめて知ったようで。ただ、無職になったことはないし、収入は安定していたので、今のところ文句は言われてないですね。やっぱり実入りが重要みたいで(笑)」

法人化したのは、大手からの仕事が受けやすくなるという点が大きかったから。今は受注する仕事も多く、1人だけで仕事を回して行くには限界があるので、誰か人を雇って、事務所も借りて、以前勤めていた会社みたいに自由に出勤できて……と、もっと会社を大きく、魅力的なものにしたい、という野望も抱いているそう。

「そのためには、従業員が成長できる環境を整えたり、経営を安定させたりということを考えなければいけないですね。せっかく雇った社員にすぐ辞められないように」

高校を卒業してからは大学に進学せず、新聞配達をしながら実家でいわば「ニート生活」をしていた前田さん。3人兄弟の末っ子だが、国立大学に進学した優等生の兄姉へのコンプレックス、親からの暗黙のプレッシャーを感じながら、20歳で九州から逃げるように上京してきた。

当時はどこにも属してない、何者でもない自分が本当に嫌でたまらなかったそうだ。

あのときから12年……。

「ダメだったらフリーに戻ればいいし、転職してもいい」

「東京都心で夜空を眺めると、タワーマンションの夜景がキラキラ輝いていますよね。上京してきてからずっと、『なんで俺はあそこに住めないんだろう? あの住人と俺は何が違うんだろう?』って無性に腹を立てたりしていて。で、このままサラリーマンをやっていたら、あそこには一生住めないんじゃないかって、27~28歳くらいの時にふと思ったんですよ。でもこの1年で、あの夜景の住人に一歩くらいは近づいた気がしています」

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Photo:塙 薫子

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