「固定残業制」ってなに? 導入するメリットは?

固定残業制ついてご存知でしょうか。よく「みなし残業」と呼ばれることもあります。
例えば「基本給〇〇万円、ただし残業手当◎時間分を含む」としている求人広告を目にされたことがあると思いますが、そもそもこのような求人広告の出し方は適法なのでしょうか。また、残業手当に関してこのような給与の支払い方をしたいときはどんなことに気を付けたら良いのでしょう。今回は固定残業制についてお話します。
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目次
- POINT
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- 基本給を高めに見せることができる?
- 残業時間を集計しなくても良い?
- 正しい固定残業制とは
固定残業制と裁量労働制
冒頭部分で述べたように、残業手当をあらかじめ基本給などの固定給に含んで支払う制度を固定残業制と言い、一般的には「みなし残業」と呼ばれることもあります。
固定残業制はどのような職種に導入されることが多いのでしょうか。一例としては、業務の手順や時間配分を指示されず、従業員の裁量に委ねる高度な知識を必要とされる職種(研究開発者、編集者、コピーライターなどの専門職)でしょう。これらは裁量労働制を導入することが多いですが、必ず固定残業制とするわけではありません。固定残業制は、裁量労働制以外の職種や仕事でも導入されています。裁量労働制については別の機会に詳しくご説明します。
固定残業制のメリットと考えられていること
固定残業制を導入するメリットは何でしょう。以下のように考えている会社は多いのではないでしょうか。
- ① 基本給を高めに見せることができるので求人の時に有利である
- ② 毎月の給与計算時に残業時間の集計の手間が省ける
- ③ あらかじめ人件費の目安がわかって、変動が少なくなり人件費の予算を立てやすい
- ④ 決まった給与額が支給されるので毎月の生活設計がしやすい
①②③は会社にとってのメリット、④は従業員にとってのメリットということでしょう。
しかし、ちょっと待ってください。①②③のような考え方は、はたして正しいのでしょうか。実は固定残業制をめぐる労使トラブルは大変多いのです。
基本給を高めに見せることができる?
メリット①について考えてみましょう。固定残業制は求人の時に基本給を高めにみせることができるのでしょうか。実は、求人広告などには以下のような記載が必要です。
基本給 〇〇円 固定残業手当(△△円、◎時間分)含む。
◎時間を超える分の残業手当は追加で支払う。
つまり、固定残業手当の額と残業時間数、さらにその残業時間数を超える場合は別途支払う旨を明示しなければなりません。これは職業安定法で義務づけられていますので、そのような明示を怠ると違法ということになります。
したがって、基本給〇〇円から固定残業手当△△円を差し引いた額が実質の基本給であることがすぐにわかります。残念ながら「基本給を高めに見せる」ことにはならないでしょう。
残業時間の集計をしなくても良い?
次に、メリット②についてです。固定残業制では残業時間の集計をしなくても良いのでしょうか。
メリット①でお話した広告文例の2行目に注目してください。「◎時間を超える分の残業手当は追加で支払う」とあります。つまり「どんなに残業しても固定残業手当△△円以上は支払わなくて良い」というのは違法です。また、残業時間が◎時間に満たなかった場合でも、固定残業手当△△円を支払わなくてはいけません。これをまとめると以下のようになります。
- 実際の残業時間が◎時間を超えたときは固定残業手当△△円に追加で支払う
- 実際の残業時間が◎時間以内でおさまれば固定残業手当は△△円を支払う
以上のことから、実際の残業時間を把握しないと固定残業手当△△円を支払えば良いのか、それ以上追加で支払う必要があるのか判断できません。よって残業時間の集計は必須です。また、固定残業制を導入しているか否かにかかわらず、従業員の健康確保の面から考えて、会社は労働時間を把握する必要があります。
【参考記事】
・ちゃんと把握していますか? 従業員の労働時間
正しい固定残業制とは
それでは固定残業制を正しく導入するには、何に気をつければ良いでしょうか。以下にポイントを3つあげました。
- 求人広告・労働条件通知書・就業規則などに、固定残業手当の定義(◎時間分、△△円)を明記する
- 毎月の労働時間集計を明確にする
- 給与明細書などに残業時間数と残業手当の額を明記する
以上のことに気をつければ労使トラブルを避けることができるでしょう。
【参考記事】
・従業員の雇用には、どんな手続きが必要か?
まとめ
いかがでしたでしょうか。固定残業制は「基本給を高めに見せるためのもの」「残業時間を集計しなくて良いもの」ではないことがおわかりいただけたかと思います。固定残業手当の計算の根拠をハッキリさせ、毎月の労働時間の把握をシッカリする。これは会社として守るべきことでしょう。そうすることで「1ヵ月の残業時間は〇時間以内にしよう」という明確な目標にもなり、ダラダラ残業を防いで生産性の向上につながるのではないでしょうか。
Photo:Getty Images