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人見知りこそ本当は営業上手!? 『大人の人見知り』著者 清水栄司教授インタビュー

2017年6月発刊のある新書が話題になっています。ワニブックスから発売された『大人の人見知り』です。著者は、千葉大学大学院医学研究院(認知行動生理学)の清水栄司教授。清水教授は本著のなかで「大人の人見知り」(社交不安症の予備軍)について警鐘を鳴らすとともに、その反面「実は人見知りこそ、営業上手になりうる」と説いています。“大人の人見知り”とはどんな人を指すのか。そして、なぜ人見知りが営業上手になりうるのか——。千葉県千葉市の亥鼻キャンパス内にある千葉大学大学院医学研究院に伺い、お話をうかがいました。

人見知りになりやすい性格とは

――そもそも人見知りになりやすい性格とは?

心理学の世界には「ビッグ・ファイブ」という、人の性格を構成する5要素があって、それが神経質・外向性・開放性・同調性・誠実性です。

〈ビッグ・ファイブ〉

神経質 不安になりやすい、傷つきやすい
外向性 外交的な、活動的な
開放性 先見の明がある、頭の回転が早い
同調性 人の良い、寛大な
誠実性 まじめな、責任感の強い

人見知りになりやすいかどうかは、このうち「神経質」と「外向性」の部分が重要に関連します。

人見知りになりやすい性格とは

――「神経質」、すなわち感受性が豊かだと人見知りになりやすい?

神経質な性格というのは、敏感であるか、鈍感であるかという傾向です。

不安に対して敏感すぎると社交不安症になりやすいわけです。ただし、社交不安症の人の問題は、感受性の向く方向が誤っていることが多いのです。—-具体的に言えば、注意を自分のほうに向けすぎると、いわゆる自意識過剰な状態になって、誰でも不安が強くなるものです。

たとえば、お客さんとの打合せや商談のときに、相手が時計をちらちら見ているのが気になる。それはその方の予定がつまっていたり、または単なる癖だったりするのですが、感受性が強いと「自分の話が長くて、つまらないと思っているのかな?」なんて悲観的に考え、最終的に「自分は嫌われているのでは?」などと不安を感じてしまうのです。

――「外向性」というのは?

「外向性」は外交的か、内向的かという傾向です。「外交的」は人見知りにはなりにくく、「内向的」は人見知りになりやすいでしょう。前の「神経質」とあわせて考えると、「敏感で内向的な人」と「鈍感で内向的な人」が人見知りと言えるかもしれません。

内向的な性格をどう考える?

――私も自分は「内向的」な性格だと自覚していますが、そうした自分の性格を見つめ直したうえで、自分の人見知りの部分とうまく付き合っていくコツにはどのようなものがあるのでしょうか?

内向的な性格が人見知りになりやすいとは言いつつも、内向的な性格を無理に直そうとする—-すなわち無理に外交的になろうとする必要はまったくないと考えています。営業の仕事にしても、一般的には押しの強い外交的な人のほうが営業向きだと思われていますよね? しかし私自身もよくしゃべるほうではないし、変に押しの強い人からの営業を受けたとしても、どこか警戒してしまいます。

――私もそういう営業の人、苦手です(笑)。

こちらの話も聞いてくれるし、上手な会話のキャッチボールもできる—-そういう人のほうが好まれるのであり、変にスラスラしゃべろうとするのもかえってよくない。内向的な人はスラスラとはしゃべりませんが、よく考えてから実直に答えるタイプが多いように思います。そんな姿勢が、かえって信頼を得たり好感を持たれたりするのではないでしょうか。世の中は「外交的」な人ばかりが評価されますが、見方を変えれば、「内向的」というのは自分の売りポイントになるはずですから。

――内向的な性格のほうが、逆説的にいえば、営業の仕事に向いている、ということですね。

ただし、社交不安症のような診断がつく状態だと、営業職はつらいばかりでしょうから、認知行動療法という治療が必要です。そのときも目標が高すぎると、悪循環のパターンから抜け出せるという手ごたえを全く感じないままで終わってしまいがちですから、いきなり「大統領のスピーチ」みたいにうまくなる必要はなく、自分のペースで、ゆっくり、思うことをしゃべればよい、と考えてもらっています。

人見知りになりやすい性格とは

――症状が重い場合、病院ではどのような治療、カウンセリングを?

こうした一連の心の病気の治療では、認知行動療法という心理療法を行います。これは、自らの思考・行動・感情のパターンを見直し、認知(ものごとのとらえ方・考え方)のゆがみを直していこうとするものです。通常は週1回50分、16週間連続で行いますが、症状の軽い人はワークブック形式のトレーニング本でセルフトレーニングをしていただきます。

社交不安症は、ちょっとしたきっかけから悪循環に陥ることで始まってしまいます。早いうちから悪循環のパターンに気づき、ちょっとしたところの考え方・とらえ方を見直すことで必ず良い方向に向かう、とお考えください。

人見知りになりやすい性格とは

――読者には個人事業主やフリーランスの方が大勢います。私もフリーランスのライターですが、会社員に比べれば人と接する機会も少なく、1日中家に籠もってしまうこともよくあります。そういう意味では、1人で商いを営むフリーランスには「大人の人見知り」が多いのかもしれない(笑)。最後に、そんな読者の皆さんにメッセージをお願いします。

働き方という観点でいえば、隠遁生活で原稿だけ書いて暮らしているような人はずっと昔からいて、そういう方たちでもしっかりと社会生活を送ってこられたわけですから、先ほども申し上げたとおり、仕事のスタイルや性格を大きく変えてまで改善する必要はないと思います。ただ、あまりにも「つらい」「しんどい」と思うようなら、そのための治療やセルフトレーニングをご検討ください。

――何かふだんの生活からできる改善ポイントなどはありますか?

もしも神経質や内向的な性格因子を自覚し、かつ、ふだんからコミュニケーションの機会も少ない――誰とも話さないような日が続くような日が多い—-とするならば、大人の人見知りになりやすい面はあるのかもしれません。たとえばコンビニに買い物へ行ったときなんかに「今日は暑いですね」など話しかけてみるとか、ふだんの生活スタイルから徐々に変えていくのもよいかもしれませんね。

――本日はありがとうございました。

清水栄司 しみず・えいじ

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千葉大学大学院医学研究院教授。認知行動療法センター長。
認知行動療法のスペシャリストとして、不安症(パニック症、全般不安症、社交不安症)、強迫症とうつ病などの治療に、複数の認知行動療法士とともにあたっている。また、千葉大学では2010年4月より、不安症・うつ病などに対して、認知行動療法を施術でき、薬物療法に勝るとも劣らない治療効果を出すことができるセラピスト(認知行動療法士)の養成と認定を開始。2016年10月1日からは、千葉大学医学部附属病院に国立大学初となる認知行動療法センターを設置した。近著に『大人の人見知り』(ワニブックス)など。

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