これだけは知っておきたい! 「決算書」の読み方

小規模な法人であっても、年度が終わると決算書を作成する必要があります。
「法人税の確定申告などのためにしぶしぶ作っていて、見方はよくわかっていないよ」という話も耳にすることがありますが、実際のところ、決算書はどのように読めばよいのでしょうか。
今回はスモールビジネスの事業者さんのためになる「決算書の読み方」について解説します。
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目次
- 決算書は会社の健康診断書のようなもの。
- 決算書には貸借対照表・損益計算書があり、それを補完するキャッシュ・フロー計算書がある
- 決算書からいろいろな指標を得ることができるが、スモールビジネスでは数値の振れ幅が大きい
そもそも決算書ってどんなもの?
決算書とは、会社の1年間の経営成績をあらわすもので、1年間にどのくらいの利益を出したのか、また、その結果として期末にはどのような財政状態になっているのかを見ることができるものです。
株主=社長であるスモールビジネスにおいてはあまり意識されないかもしれませんが、本来、会社は株主のものです。株主から会社の経営を任されている社長は、その年度が終わったら決算書を作成し、株主総会で承認を受けることになります。決算書は、会社の健康診断書のようなもので、さまざまな用途で利用されることになります。
確定申告に使う
法人税などの確定申告では、株主総会で承認された決算書をもとに税金の計算を行います。
借入に使う
銀行などから借入を行う場合には、審査にあたって決算書が必要になります。
会社に融資をしても問題ないかどうかを判断するために、銀行は格付けを行いますが、決算書の数字はこの格付け材料のひとつとなります。
取引先に使う
これから取引を始めようとする相手先から、決算書の提出を求められることがあります。
取引が請求書払いの掛取引となるときには、取引先の経営状況を審査して、どの程度の金額までの取引ができるかの限度額を設定することがあります。このことを、会社に対して信用を供与するということから「与信」といいます。
法人を設立したてで決算書がない場合、決算期を経て決算書を相手先に提出することで、取引を行ううえでの信頼関係を得ることがあります。また逆に、新規取引先から決算書を取得することで、先方の経営状態がわかり、取引をする際の判断材料を増やすことができます。
決算書はどうなっているの?
会社法では、決算書について以下の書類の作成を義務づけています。それぞれについて簡単に説明しましょう。
貸借対照表
貸借対照表は、期末時点での会社の財政状態をあらわしたものです。

左側の「資産の部」、右側の「負債の部」「純資産の部」で構成されていて、左側の金額の合計と右側の金額の合計は一致します。両者がバランスをとっていることからB/S(Balance Sheet)と表記されます。
このバランスというのは、お金がどこから来て何に変わっているのかのバランスを示しています。右側がお金をどこから持ってきたかをあらわしていて、負債の部であれば他人から借りてきたお金、純資産であれば自分の出資や利益の積み重ねでできたお金ということができます。
左側はそのお金が何に変わっているのかをあらわしていて、例えば商品という在庫になっていたり、車両運搬具という固定資産になっていたりするのです。
損益計算書
損益計算書は文字どおり会社の1年間の儲けをあらわしたものです。会社の儲けは売上から売上原価(仕入れなど)や経費(人件費や家賃など)を差し引いて計算されますが、これを段階的に表示しています。P/L(Profit and Loss Statement)と表記されます。

具体的には、仕入れなどの売上原価を差し引いた粗利益である「売上総利益」、そこから人件費や家賃などの営業活動で使用する経費を差し引いた「営業利益」、そして雑収入や支払利息など営業外での損益を足し引きした「経常利益」、さらに固定資産の売却損益など臨時的な損益を足し引きした「税引前当期純利益」、最後に利益にかかる法人税等を差し引いた「当期純利益」となっています。
株主資本等変動計算書
年度中に増資が行われたり、配当が行われたりした場合には、損益計算書や貸借対照表ではその内訳がわかりません。そこで、貸借対照表の純資産の部を切り取って、増減の内訳を示すように株主資本等変動計算書を作成します。
個別注記表
決算書は会社の会計帳簿をもとに作成されますが、その会計処理にはいくつかの方法があり、その選択は会社にゆだねられています。例えば減価償却はどの方法によっているのか、消費税の会計処理は税込なのかなど、決算書がどのような会計方針によって作成されているかなどの注記を一覧にしたものを作成します。
このほか、株式公開会社でないスモールビジネスの会社では任意となりますが、キャッシュ・フロー計算書というものがあります。
キャッシュ・フロー計算書は、文字どおり現金の流れをわかりやすくしたもので、「黒字なのにお金がない」「赤字だけどお金が増えた」といった、上記決算書だけではわからないキャッシュの増減の内訳を示したもので、損益計算書と貸借対照表とをつなぎ合わせるものという見方ができます。
決算書のどこを気にしたらよいの?
決算書の金額は、さまざまな角度から会社の状況を知ることができます。それでは貸借対照表・損益計算書において気を付けておきたいところを見ておきましょう。
貸借対照表

商品など
業種にもよりますが、売上の割に在庫が多い場合は、不良在庫などがある可能性が高いので注意してみましょう。
売掛金
現金商売はともかくとして、掛取引がメインの業種となると、当然売掛金の残高があります。翌月・翌々月入金のはずなのに、それ以上に売掛金残高がある場合は不良債権がある可能性が高いので注意してみましょう。
貸付金
役員に対して貸付金や仮払金があるときは、社長がプライベートとの区別がつかないどんぶり勘定になっていることが多いです。融資の際にもマイナス評価となりますから気をつけましょう。
流動比率
・流動比率=流動資産÷流動負債(%)
資産の部・負債の部はそれぞれ流動資産・流動負債という分類があり、基本的には1年以内にお金として動くものという意味合いがあります。流動比率は短期的なお金が借金を上回っているかをみる指標です。会社はお金の流れがストップしてしまうと終わってしまいますので、お金の方が多い状態を目指したいですね。流動比率は150%以上あるとよいとされています。
なお、不良在庫や不良債権がある場合は、見た目の比率だけがよくなってしまいますので内容もチェックしましょう。
自己資本比率
・自己資本比率=自己資本÷総資本(%)
純資産の部の金額が負債の部・純資産の部の合計金額のどのくらいを占めているかをあらわすのが自己資本比率です。この割合が多いほど「自分のお金で商売ができている」ということになります。
なお、負債の部に役員借入金がある場合は、返さなくても待ってもらえるお金ということで、自己資本とみなすことができます。自己資本比率は一般的に30%を目指したいところです。
損益計算書

限界利益、限界利益率
・限界利益=売上高-変動費
・限界利益率=限界利益÷売上高(%)
費用には、変動費と固定費とがあります。変動費とは、例えば売り上げた商品の仕入単価のように、売上に比例して必ず発生する費用のことをいいます。固定費は売上に関係なく常に発生する費用で、家賃などがわかりやすいでしょう。
限界利益とは、売上から変動費を差し引いた粗利益と似たようなもので、売上に対してこれ以上の利益は出ないという金額です。限界利益が売上高に占める割合を限界利益率といいます。
なお、決算書そのままでは変動費と固定費に分かれていませんので、会社にあわせて変動費・固定費の分類をざっくりと決め打ちする必要があります。業種によって薄利多売・高利少売などさまざまですが、限界利益が多いに越したことはありませんね。
損益分岐点売上高
・損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率(円)
よく聞く「損益分岐点売上高」ですが、儲けが出るためにはいくら売上が必要かを示すものです。さきほど限界利益の話がありましたが、儲けが出るためには固定費を上回る限界利益が必要になります。それを逆算するための算式にすると、上記の結果となります。
ここで注意しておきたいのは、固定費の中には役員報酬も入っており、その金額によって損益分岐点は全然違ってくるということです。最低限自分の生活に必要な役員報酬設定でも損益分岐点売上高を達成できないということであれば問題ですが、役員報酬が高めであれば、赤字もあり得ます。
経常利益率
・経常利益率=経常利益÷売上高(%)
損益計算書の経常利益は臨時的な損益を除いたところでの、通常の会社の利益をあらわしています。
つまり、経常利益率は売上に対して会社がどのくらい利益を残す力があるかをあらわしています。統計情報などで業種別の平均利益率なども調べることができるので、他社比較等をすることができます。
ただし、役員報酬などの設定によって利益率は大きく変わってしまうということを頭に入れておく必要があります。
まとめ
いかがでしょうか。決算書はさまざまな角度から会社を見渡すことができるため、読めば読むほど経営上で打つ手を増やすことができます。
しかしながら、スモールビジネスでは分母となる売上や資産規模が小さいがために、数値の振れ幅も大きくなりがちです。数値の良し悪しよりも、その内容を確かめることが大切です。
決算書の数字に慣れてきたら、1年間だけでなく、もっと近い頻度で確認できる「試算表」にも目を向けていくようにしてみましょうね。
photo:Getty Images