あらためて知っておきたい「残業手当」の基礎知識 〜実践編〜

給与明細の中に記載されている残業手当。その基本部分について以前ご説明した「あらためて知っておきたい「残業手当」の基礎知識」は、お読みいただけましたでしょうか。今回はその続編として、実際の計算方法と考え方についてご紹介します。
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目次
- POINT
-
- 残業単価の計算をしてみよう
- 計算から除いても良い手当がある
- 「未払い残業代」にならないように
残業単価の計算
前回の記事「あらためて知っておきたい『残業手当』の基礎知識」では、時給1,000円の場合を例に挙げました。今回はその続編として、月給制の場合で考えてみたいと思います。ここでいう月給制とは、基本給にその他手当が加算されるものとしてご説明します。1時間あたりの残業手当はいったいどうやって計算するのでしょうか。
月給制を時間給に換算し、そこに割増率を掛けるということになります。
手順は以下のとおりです。
- ①1年間の所定労働時間数を計算する。
- ②1ヵ月の所定労働時間数を計算する。
- ③月給を時間給に換算する。
- ④時間給に割増率を掛ける。
それでは、月給制のAさんの例で考えてみましょう。
Aさんは以下の労働条件の会社に勤めています。
- 1日の所定労働時間 8時間(9時始業、18時終業、休憩1時間)
- 年間所定労働日数 243日(1年365日 ― 年間休日数122日)
年間の所定労働時間数と、1カ月の所定労働時間数
上記の①②を計算してみましょう。
①1年間の所定労働時間数を計算する。
⇒1日8時間×243日=1,944時間/年
②1ヵ月の所定労働時間数を計算する。
⇒1,944時間÷12ヵ月=162時間/月
※上記の他に、年間所定労働日数243日÷12カ月×1日8時間=162時間/月
という方法でも求められます。
月給を時間給に換算する
では次に上記の③です。
③月給を時間給に換算する。
- 基本給:250,000円
- 資格手当:9,200円
- 家族手当:10,000円
- 住宅手当:20,000円
- 通勤手当:15,000円
(合計 304,200円)
さて、Aさんの月給を時間給に換算するには、給与合計304,200円を②で求めた1ヵ月の所定労働時間162時間で割れば良いのでしょうか。答えはNOです。実は、残業単価を求める時はそうではありません。
残業単価を計算する時は、以下の手当は除いても良いことになっています。
【引用】厚生労働省:割増賃金の基礎となる賃金とは?
- 家族手当(扶養家族数等によって支給されるもの)
- 通勤手当(距離や通勤費用に基づいて支給されるもの)
- 別居手当(単身赴任手当など)
- 子女教育手当(社員の子供の教育費を補助する手当)
- 住宅手当(住宅に要する費用に応じて支給されるもの)
- 臨時に支払われた賃金(退職金や私傷病見舞金など)
- 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
これらはいずれも、残業時間の長短によって支給額が変動することが合理的ではないとされているのです。ただし、注意点があります。以上の1.から5.までの手当は、全従業員に一律に定額支給される場合、残業単価計算の時に除くことはできません。
では、話をAさんの残業単価計算に戻しましょう。Aさんの場合は、基本給の他に「資格手当」を加算しますが、「家族手当」「住宅手当」「通勤手当」の3つの手当を除くことになります。したがって、
(基本給250,000円+資格手当9,200円)÷162時間=1,600円
これが残業単価を求める際の時間給になります。
時間給に割増率を掛ける
それでは残業単価計算の最後です。
④時間給に割増率を掛ける。
時間外労働をした時の割増率は25%以上とされています。割増率を25%とした場合、時間給に1.25を掛ければよいことになります。したがってAさんの残業単価は
1,600円×1.25(25%増)=2,000円
となります。
ありがちな間違い
残業単価の計算でありがちな間違いをご紹介しましょう。
1. 計算の基礎を基本給だけにしてしまう(もちろん除いて良い手当もありますが…)。
2. 1ヶ月の所定労働時間数を180時間、200時間などと実態とはかけ離れた数字で計算している。
残業単価をなるべく少なくして人件費を節約したい、と思う社長さんもいらっしゃるかもしれません。が、法令に則した計算をしないと「未払い残業代」となってしまいますので、じゅうぶんご注意ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は手計算をイメージしながらのご説明でしたが、もし給与計算ソフトを導入されていても、残業単価の計算方法をしっかり理解しておかないと間違えた計算になってしまいます。念のため、設定を確認しておきましょう。
photo:Getty Images