旧姓をペンネームにして仕事を続けるときの注意点

日本の法律では、結婚すれば夫・妻どちらかの氏(姓)を称することが、民法750条で定められています。選択的夫婦別氏(姓)は認められていません。しかし仕事を含めた社会的な活動で“通称”を用いることは自由です。ライター、カメラマン、デザイナーなど、フリーランスで仕事をしている人にペンネームが多いのもまた事実。今回は旧姓をペンネームとして使いながら仕事を続けることの注意点についてまとめてみました。
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目次
- POINT
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- 旧姓・新姓の印鑑を使い分けよう
- 領収書・明細書は新姓でも旧姓でもどちらでもOK
- 請求書や名刺にペンネーム・本名を併記すると混乱を避けられる
ペンネームで仕事を続ける最大のメリットは?
厚生労働省の人口動態調査によれば、結婚した夫婦のうちの約96%が「妻が夫の姓」に変えているそうです。しかし、筆者の知人には戸籍上の氏名変更を行っても、旧姓をペンネームとして使用し、バリバリと仕事を続けている女性ライター、女性カメラマン、女性デザイナーが大勢います。
「もしも新姓で仕事を続けていくことを考えるとしたら、障壁となるのは?」との問いに対し、彼女たちからは「やはり変更手続きの煩わしさが……」という回答が多くありました。ペンネームを使うことで、これまでビジネス上で使っていた各種ツール(名刺、メールアドレス、請求書、印鑑、名前の入ったゴム印等)をそのまま使用できる、それが最大のメリットといえるでしょう。
◎旧姓の名前(=ペンネーム)のまま使用できるもの
→名刺、メールアドレス、請求書、印鑑(認印)、名前の入ったゴム印・スタンプ印等
とはいえ、「全部が全部、旧姓のままでOK」というわけにはいかないようです。新姓への変更手続きが必要なものとして、確定申告(税務署への届出)、社会保険、銀行口座等が挙げられます。
◎新姓の名前(=戸籍上の名前)への変更手続きが必要なもの
→確定申告(税務署への届出)、社会保険、銀行口座等
参考:個人事業主が結婚した年のチェックポイント(公的手続き)
参考:個人事業主が屋号付き口座を開設する方法
名前の使い分けで発生しがちなトラブルを避けよう
では、実務の面で不便なことはないのでしょうか? それを乗り越える3つのポイントを紹介します。
ポイント1:銀行の氏名変更手続きを忘れずに
事業用銀行口座は、旧姓のまま開設しておくことができないため、基本的には氏名変更手続きが必要です。通帳、銀行への届印(旧印鑑、新印鑑の両方が必要)、キャッシュカード、本人確認書類などを持参し、取引店もしくは最寄りの支店の窓口で行うことができます。なお印鑑は、その後の事業のなかで「新姓=実印・銀行印」、「旧姓(ペンネーム)=認印」と使い分けることとなります。
ポイント2:契約書は本名も入れておくのがベター
取引先等と交わす契約書は、ペンネームでも本名でもどちらでも法的な問題はないようです。ただし、トラブルを避けるため取引先から「本名での署名・捺印」を求められることがあります。一般的にこうした場合は署名欄に「(ペンネーム)こと(本名)」など、ペンネーム・本名の両方を併記し、本名の名前で押印するのがポピュラーな方法です。相手先によってそれぞれ事情が異なりますので、確認しておく必要があります。
ポイント3:領収書・明細書はペンネームでもOK
事業者が保管しなければいけない「事業にかかる買い物の領収書」「クレジットカード・携帯電話・公共料金の明細書」等については、ペンネームでも本名でも特に問題はありません。日々の記帳をしっかりと行っておけば、どちらでもOKです。
ポイント4:請求書・発注書等は括弧書きで本名を添える
取引先に提出する請求書・発注書については、「請求先に屋号(ペンネーム)」「報酬の振込口座に本名(新姓)で開設した口座」を記載して発行することとなります。
しかし氏名と口座の名義が異なることで、取引先の経理・総務の担当者が混乱するケースがよくあります。特に新規の取引先に対して発行するときには、経理・総務担当者にもわかるよう何かしらの対策が必要です。
対策としては「請求書・発注書の氏名欄に括弧書きで本名を添える」もしくは「備考欄に本名を添える」のがベストです。もちろん、いきなりその形式で提出するのではなく、事前にその方法について取引先に相談・確認しておいたほうがよいでしょう。また、もしも余裕があるのならば、新姓(本名)も併記した新しい名刺を作成するのもよい方法です。
いずれにせよ、ペンネームを使うことで起こりがちなトラブルは避けたいところ。相手を思いやる心がけが肝心です。
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