個人事業主・会社経営者の相続対策(基本編)

個人事業主及び会社経営者の相続対策には基本原則があります。個人の方の相続と違い、事業経営者の相続対策については、単なる個人の財産の他に事業用財産や法人保有の財産が含まれるため、広範囲にわたっての対策が必要です。今回は、基本的な相続税対策をお伝えします。
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目次
- POINT
-
- 個人の全財産を把握する
- 会社がある場合は株式の評価を下げる
- スムーズな事業承継計画を練る
相続税対策の基本
相続の対策には、5つの基本があります。
- 財産を減らす
- 財産評価額を減らす
- 税率区分を下げる
- 納税資金を確保する
- 遺言書をつくる
それぞれについて、みてみましょう。
財産を減らす
財産を減らすといっても、むやみやたらに減らすわけではありません。
娯楽に使ってしまっては、相続人に財産を残せないからです。では、どうやって減らすのか…。相続したい人に生きているうちに渡してしまう、いわゆる「生前贈与」を行うのです。
贈与には、年間110万円の基礎控除というものがあります。毎年相続人や孫に現預金・自己株式などを贈与していくことで、財産を減らすことができます。
20年以上連れ添った夫婦であれば、居住用不動産、またはそれを取得するための金銭を贈与することも可能です。その場合は、通常の基礎控除110万円に2,000万円を合算した2,110万円の控除が受けられます。
もし、子供が無償で土地・建物を使用している場合は、相続税より贈与税の方が安いことがあります。数回に分けてその一部または全部を持分贈与してしまう方法も考えられます。
業績が順調なオーナー経営者ならば、株価の上昇が予想されます。早いうちに贈与をしてしまうことも1つの手です。
なお、一時的な要因で業績が下がったとき(赤字のとき)に贈与すれば評価額も下がります。タイミングを見計らって贈与すれば節税対策に効果的です。早めに株の贈与を行うことで、後継者は株持ち経営者となり、自社の内外からその信用と経済力が増して企業業績も上がり、更なる会社の成長も期待できるのです。
さらに、両親や祖父母から子・孫に1,500万円までの範囲内で教育資金の一括贈与非課税制度(平成31年3月31日まで)など、様々な特例が存在します。専門家に聞くのも1つの方法ですので、早め早めに手を打ってはいかがでしょうか。
財産評価額を減らす
次に考えるのは、財産評価額を減らすことです。
相続税は、各人が相続する財産を評価し、その評価額に税率を乗じます。そのため、評価額を減らすことで相続税を減額することが可能なのです。
例えば、個人事業主や法人の所有財産の評価額を下げてしまうのです。土地の評価額は、更地よりも第三者に貸した場合の方が評価額を減額できますし、賃貸用建物にすれば固定資産税評価額(建築価額の50%位)の70%の評価額まで下げることができます。さらに小規模宅地等の特例に合致すれば、減額割合80%となります。
また、自己株式の財産評価を行った上で、その財産評価額を下げる対策を実行し、スムーズに事業承継を行うことです。
相続は、プラスの財産だけでなくマイナスの財産も相続します。そのため、返済可能な借金を多く作っておくことも有効な手段です。
たとえば、現金の評価額は100%で計算されますが、土地や建物は利用状況に応じて財産評価基本通達により評価を減らせます。さらに借入金を使って事業用建物か賃貸用建物を建ててしまうのです。そうすることで、借入金の残額をそっくり相続財産から債務控除でき、評価額を減額することが可能になります。
相続税率区分を下げる
税率区分を下げるには、法律に基づいた相続人(子供)を増やす必要があります。例えば、長男のお嫁さんに「養子縁組制度」を利用することにより、相続人を増やすのも1つの方法です。
納税資金を確保する。
これらの対策を実施しても、相続税が発生する場合があります。その場合に備えて、納税資金を確保しておきましょう。
たとえば、同族会社は自己株式の売却により納税資金の一部を確保することができますし、生命保険金には、相続税のかからない非課税枠(500万円×法定相続人の数)があるので、これを最大限に利用します。保険の種類は、死亡によって必ずもらえる大口終身生命保険を選択しておくと、納税資金の確保に役立ちます。
保険金は、代償分割の財源としても使えます。たとえば、事業後継者である子供が受取った保険金を他の相続人に相続代償金として支払うことによって、事業用財産と自己株式を取得することがでます。
相続対策として事業承継をスムーズに行うには遺言書が必要です。
いくら仲の良い家族であっても、相続では様々なトラブルがおこることがあります。これらを未然に防ぐためにも、遺言書を作っておく必要があります。
被相続人が、承継してもらいたい事業用財産や会社を、一緒に経営してきた長男に引継がせたいと思っていても、遺産分割協議では相続人全員の同意が必要で、必ずしも長男が個人事業や会社の全株式と事業用財産を相続できるとは限りません。
親が生きてれば、子供は少々の不満はあっても親の言うことを理解するものです。親がいなくなれば、兄弟姉妹間では権利意識の高まりにより平等の原則が前面に出て、我慢するよりも自分の主張を通そうとするものです。もめごとを回避するためには、相続人を差別することになったとしても遺言が必要になります。
会社にいる子供2人に経営者の素質があれば、将来の経営方針での争いを避けるために生前に会社を分割しA社の株式を長男に、B社の株式を次男に各々相続させる方法もいいと思います。
相続では、様々な問題が立ちはだかります。基本的な対策を打つことで、相続のトラブルを回避し、事業発展に役立つはずです。この基礎編が、みなさまの事業成長につながれば幸いです。
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