雑損控除とは何か?確定申告の手続きや控除対象、計算例など

所得税の計算では、最低限の生活の保障や政策的な配慮から所得から一定額を差し引くことができる基礎控除や医療費控除などの「所得控除」という制度が設けられています。その所得控除の種類の一つに『雑損控除』というものがあります。あまり聞きなれない言葉かと思いますので、今回はこの雑損控除について説明します。
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目次
- POINT
-
- 雑損控除は災害などによる損害の一部を所得から差し引ける制度
- 生活に通常必要でないものの損害は対象外
- 条件によっては所得税の軽減免除を選択することもできる
雑損控除とは
雑損控除は、自身の資産について災害や盗難などによって損害を受けた場合に、その損失の一部を所得から差し引くことができる所得控除の一種です。まずは、どんなときにこの制度を使えるのかを見ていきましょう。
雑損控除の対象になる資産
雑損控除の対象になる資産は、納税者本人のものか、納税者と同じ財布で生活している配偶者などの親族で総所得金額等が38万円以下の人のものとなります。
また、その資産は生活に通常必要な資産であることが条件ですので、次のようなものは除かれます。
1.棚卸資産や事業用の固定資産等
これらの損失は事業所得などの所得の計算上で必要経費になります。
2.生活に通常必要でない資産
別荘など娯楽や保養などの目的で持っている不動産やゴルフ会員権など、また貴金属や書画骨董などで1個または1組の価額が30万円を超える生活に通常必要でない動産のことをいいます。これらの損失の額は譲渡所得から控除することができます。
雑損控除の対象になる損害の原因
雑損控除は損害であればなんでもよい訳ではなく、つぎのような原因で受けた損害に限られます。
1.震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
2.火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
3.害虫などの生物による異常な災害
4.盗難
5.横領
ここで注意したいのは、詐欺や恐喝による被害は雑損控除の対象とならないということです。
詐欺と盗難・横領は似たようなものに感じられますが、詐欺は騙されたことであったとしても被害者本人の意思によって行われたものであること、盗難・横領は被害者本人の知らないところで行われたものであることという点で違いがあります。ですから、雑損控除が適用されないマイナンバー詐欺や振り込め詐欺などにはくれぐれも注意しましょう。
雑損控除の具体的な計算方法
つぎに、災害を受けた金額について、雑損控除ではどのくらいの控除が受けられるのかというところを確認しておきましょう。
雑損控除の対象となる損失の金額
まず、雑損控除の計算をするために必要な「差引損失額」の金額を計算します。
差引損失額=損害金額+災害等に関連したやむを得ない支出の金額-保険金などにより補てんされる金額
「損害金額」は損害を受けた時の資産価値(時価)となります。買ったときの金額ではありませんから注意しましょう。なお、減価償却資産である場合には損害を受けた時点での減価償却後の残高で計算することができます。
時価と言うとどのように計算したらよいかわかりづらいですが、例として東京国税局の場合は以下のリンクをご覧ください。
【参考記事】災害により被害を受けられた方へ(雑損控除における「損失額の合理的な計算方法」)
「災害等に関連したやむを得ない支出の金額」は、災害により損害を受けた住宅や家財の取壊し・撤去費用や、盗難や横領により損害を受けた資産の原状回復費の金額となります。
雑損控除の控除額
雑損控除の控除額は、つぎの2つのうち多い方の金額となります。
1.差引損失額-総所得金額等×10%
2.差引損失額のうち災害関連支出の金額-5万円
「災害関連支出の金額」とは、災害により損害を受けた住宅や家財の取壊し・撤去費用のことをいいます。盗難や横領によるものは含まれないことに注意してください。
具体的な計算例
算式だけではわかりづらいと思いますので、具体例で計算してみます。
【設例】
総所得金額等200万円
損害金額100万円
災害関連支出(やむを得ない支出)20万円
保険金30万円
【計算】
差引損失額=100万円+20万円-30万円=90万円
雑損控除の控除額
1.90万円-200万円×10%=70万円
2.20万円-5万円=15万円
3.70万円>15万円 ∴70万円
雑損控除以外の所得控除が基礎控除だけだとすると、設例では所得税・住民税で25万くらいのところ、雑損控除70万円の適用を受けることで10万円ほど税額が減ることになります。
適用を受けるための手続き
雑損控除の適用を受けるためには、確定申告書に雑損控除に関する事項を記載するとともに、災害等に関連したやむを得ない支出の金額の領収証などの添付が必要になります。
また、所得金額から雑損控除を引ききれないときは、引ききれない金額(雑損失)につき『雑損失の繰越控除』として翌年以降3年間繰り越して翌年以降の所得金額から差し引くことができます。
なお、事業用財産についての損害は事業所得などの計算上必要経費となりますが、このときに他の所得と相殺しても引ききれない赤字は「純損失」です。
よく耳にする「純損失の繰越控除」は青色申告で事業が赤字だった場合の話ですが、災害などによる損失の部分に限っては白色申告でも「純損失の繰越控除」を受けることができます。
所得税の軽減免除の選択も
ここまで所得控除のひとつである雑損控除について説明しましたが、災害によって多大な損害を受けた場合には、この雑損控除にかえて『災害減免法による所得税の軽減免除』という制度の適用を受けることもできます。
適用の要件
災害にあった年の所得金額の合計が1,000万円以下で、災害によって受けた住宅や家財の損害金額(保険金などで補てんされる金額を除く)がその時価の2分の1以上である場合にこの制度の適用を受けることができます。
軽減または免除される税額
この制度によって軽減または免除される所得税の額はつぎの通りです。
所得金額の合計額 | 軽減または免除される所得税の額 |
---|---|
500万円以下 | 所得税の額の全額 |
500万円を超え750万円以下 | 所得税の額の2分の1 |
750万円を超え1,000万円以下 | 所得税の額の4分の1 |
まとめ
いかがでしたでしょうか。
これまで見てきたように、災害に対する救済制度は税金についてもいろいろと用意されています。東日本大震災のときには震災特例法が施行されて被災者等の負担の軽減が図られたり、その復興のための財源として復興特別税が創設されたりもしています。
どんなに備えていても災害は防げるものではありません。万一の場合はしっかりとこれらの制度を活用していきましょう。
photo:Thinkstock / Getty Images