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マイナンバー制度は、企業の業務にどう影響する?

前回は、マイナンバー制度が個人事業主・フリーランスにどのような影響を及ぼすか話を聞いた。では、多くの個人番号の管理をしなければいけない立場の民間企業にとってはどうなのか。引き続き後編でも、民間企業に課せられる特定個人情報の安全管理措置の話題を中心に、手塚悟教授に話をうかがっていく。

前回の「マイナンバー制度は、個人事業主・フリーランスの業務にどう影響する?」はこちらから

個人情報+個人番号で「特定個人情報」になる!

――前編では、個人事業主の立場からマイナンバー制度についてうかがいました。まず、民間企業の側から見たマイナンバー制度について教えてください。

民間企業にとってのマイナンバー制度を語るうえで重要なのが、マイナンバーが「特定個人情報」にあたるということです。すなわち、氏名や住所といった「個人情報」に「個人番号」が付与された時点で、それは「特定個人情報」という別のものになる。となれば、取り扱いも厳格になります。

――罰則規定なんかも厳しい、とよく言われますよね……。

手塚悟教授個人情報保護法は、個人情報の取扱いが1日当たり、5,000人を超える企業に適用されていましたが、マイナンバー法での特定個人情報の取扱いに関しては、取扱件数は関係なく、すべての企業が対象になります。

――企業が取得する個人番号は、何が該当するのでしょうか?

前回説明したように、執筆や講演を依頼した外部の人間の個人番号もありますが、それ以上に取扱いの件数が多くなるのが、従業員の個人番号でしょう。従業員に給与を支払えば、当然、源泉徴収票を税務署に提出しなければいけないわけで、従業員の個人番号が必要になります。これは「税務」での利用となりますが、年金・雇用保険・健康保険といった「社会保障」に関する書類作成でも従業員の個人番号が必要になります。

――従業員の個人番号の取得は、どのタイミングで行うのですか?

基本的には「必要になったその都度」というのが原則です。”源泉徴収票を作成する都度””控除関係の書類を作成する都度”といった具合ですね。なお、取得には当然「本人確認」が必須となります。
長期的に雇用が見込まれる従業員だと前年度に取得していることもあるでしょうが、従業員には毎年、各種の書類作成を課すことになるので、おのずと毎年1回はその機会が訪れるでしょう。

従業員以外からの取得&退職者の番号管理に注意!

――新規に雇用する社員に対してはいかがですか?

新規社員に対しては、雇用が正式に決まったタイミングで取得する必要が生じます。
また従業員に扶養家族がいれば、扶養控除の書類を作成・提出するので、家族の個人番号も取得しないといけませんね。それ以外にも、配当金の支払いのある株主、アルバイト、地主など、取得の義務が発生する関係者はさまざまです。

――これから先には「取得したはいいけど、その後、退職してしまった」なんてケースも出てきますよね? 退職した社員の個人番号はどうすれば取り扱えばよいのでしょうか?

例えば、退職した社員の特定個人情報を含んだ税務関係の書類があったとします。もとより法令で税務書類は「7年間(*)」の保管義務が定められているので、7年を経過するまでは問題ありません。
ただし、特定個人情報の保管は「必要がある場合のみ」と定められており、7年間を過ぎた時点で保管の必要がなくなります。速やかに破棄しなければいけません。これまでは退職した後も保管していたなんてことがあったかもしれませんが、保管の仕方がちょっと変わってくるかもしれませんね。
(*) 青色申告法人のうち、平成20年4月1日以後に終了した欠損金の生じた事業年度においては、帳簿書類の保存期間が9年間に延長されました。(編集部注)

――こうして見ていくと、民間企業の経営者にとってはなかなか面倒な制度ですね。

たしかに企業にかかる負担は、決して小さいものではありません。ただ、税務や社会保障に関係する書類作成はもとからあるわけで、個人番号があることで書類の管理がしやすくなる、という見方もできます。
もう1つ、制度のメリットを挙げると、個人番号のほかに、来年(2016年)から「法人番号」も付与されます。実は民間企業にとって、これのメリットがなかなか大きい。法人番号は個人番号と違って利用範囲が自由なんです。

――法人番号の使われ方には、どのような可能性があるのでしょうか?

日本より以前にマイナンバー制度が導入されているデンマークやスウェーデンでは、法人番号と連携して、店舗の売上情報が電子データで税務機関に飛んでいくようなしくみをもっています。日本でもまったく同じような運用のされ方になるかどうかは難しいかもしれませんが、法人番号が企業のマスターキー的に使われるようなことは想定されていて、いずれ企業間のやりとりなんかがやりやすくなることもあるかもしれません。

企業に課せられる4つの安全管理措置

――では、企業の安全管理措置についてうかがいます。私も企業に個人番号を提供することになるわけですが、従業員やその扶養家族の番号を含め、それらの番号は企業でどのように取り扱われていくのでしょうか?

手塚悟教授特定個人情報を取り扱うことができる人は、その企業のなかで限られていなければならず、特定個人情報保護委員会が定める「ガイドライン(特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン)」に則った安全管理措置を講じなければいけません。

――安全管理措置には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?

具体的な安全管理措置は4つに大別されます。詳しくはガイドラインを見ていただくのが一番ですが、端的に言えば「(1)組織的=責任者・事務取扱担当者などの組織体制を明確にする」「(2)人的=事務取扱担当者を監督・教育する」「(3)物理的=情報漏洩を防止するため情報の管理区域・取扱区域を明確にする」「(4)技術的=適切なアクセス制御を行う」の4つです。

――そう聞くと、なんか難しいですね……。

要は、情報をしっかりと取り扱える人物を限定し、漏洩しないように人目につかないところで取り扱い、退出するときにも例えば金庫に入れるなどの措置をせよ、ということですね。
過去にも国内で「国民総背番号制」の議論がありましたが、勝手に自分の番号が使われ、芋づる式に個人情報がとれてしまうことに懸念があったわけです。それを払拭するのがこれらの措置であり、前回紹介したマイナポータルもそのためのシステムです。

――民間企業だと、例えば税務を社外に出しているといったケースもありますよね。その場合の安全管理措置はどうすればいいのでしょう?

もし仕事を委託している税理士事務所が情報漏洩させたら、それは委託元の責任となります。だから企業は、委託先、さらにその下の再委託先に対しても、特定個人情報の安全管理措置をやらせないといけません。大きな企業だとグループ内の別の企業が税務・総務を担当することなどがありますが、法人格が異なれば、その都度、番号の取得をしなおすのが原則となります。

――なるほど。先生のお話をうかがって、マイナンバー制度のことがよくわかりました。長い目で見れば、健全な税制度・社会保障制度が運用できるという点で、メリットも大きそうですね。

はい。マイナンバー制度はまさに今始まろうとしているところ。これを一つのツールとして、国民のみんなでいかに使いこなしていくかが肝心なんです。

取材日:2015年4月21日

手塚悟てづか さとる

手塚悟

東京工科大学コンピュータサイエンス学部 教授
慶應義塾大学工学部数理工学科卒、(株)日立製作所マイクロエレクトロニクス機器開発研究所、システム開発研究所部長を経て現職。
法務省、総務省、経済産業省3省の「電子署名法及び認証業務に関する法律」基準等検討WG座長、経済産業省産業構造審議会「情報セキュリティ総合戦略」委員、総務省「次世代の情報セキュリティ政策に関する研究会」委員などを歴任。
著書に『日本を強くする企業コード もう一つのマイナンバー「法人番号」とは』(共著・日経BP社)等。

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