アマルゴン 宮崎綾子氏 「ひとり編プロ」を成功に導く心得とは?

例えば1冊の本を出版するとき、その本には著者のほかに「編集者」の力が介在している。
企画立案の次の段階には、スタッフ調達、原稿チェック、デザインの決定、文字校正、印刷時の色校正のチェックなど、たくさんの業務がある。フリーランス編集者・宮崎綾子さんがかつて在籍した「編集プロダクション」(通称・編プロ)は、出版社や企業PR誌の発行元からの注文を受け、本づくりに必要な編集制作の仕事を一手に背負う、プロの集団。2009年にそこから羽ばたき、現在は「ひとり編プロ」を標榜しながら活動する宮崎さんに、仕事にかける思いをうかがった。
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編集プロダクション勤務から独立開業
宮崎綾子さんは大学在籍中、友人の紹介で、都内の編集プロダクションでアルバイトを始めた。そのまま会社から誘われるかたちで社員として入社。ちょうどその頃はWindows95が発売されたばかりで、インターネットの普及が進んでいた時代だった。出版ニーズの高まるIT関連の実用書を中心に、書籍や雑誌、企業PR誌などの編集制作に携わった。
在籍した編プロは、3〜4名の編集部員で構成される少数精鋭の会社だった。
本の版下データをつくるDTPの作業も「自分でやることも多かった」という。ときに「無理も可能にする」という困難な局面に何度も遭遇しながら、宮崎さんは本づくりの最前線で編集スキルを高めていった。しかし「出版社に転職したいとか、作家になりたいといった野望はいっさいなくて(笑)、完成した本を読んで『この本読みやすい!』と読者の方に思っていただける中身を、編集者の力でつくりあげていくことが楽しかった」と振り返る。12年間勤めた会社を辞めて独立したのは2009年のこと。現在は「アマルゴン」の屋号で、自宅事務所やサテライトオフィスを拠点に活動している。
誰もが「編集」を求められる時代にこそ
メディアが多様化するなか、宮崎さんは編集者の仕事についてどのように考えているのか。「読み物や情報が流通するかぎり、編集の仕事は必要。しかし今はその『編集』のスキルが個人に広がっている、そんな時代なのかもしれません」。
すなわち、書籍や雑誌でしか情報が流通していなければ、その媒体を出す業界人=出版社や編プロの編集者がスキルを持っていればよい。しかしウェブ系、ソーシャル系のメディアが発達した今、情報発信側になるすべての人に「編集」のスキルが求められる。ならば「総・編集者」ともいえるこの時代、特にフリーランスの編集者に求められる付加価値は何なのか。宮崎さんは「編集者の地位向上とか、そんな大それたことをいえる立場ではないけど」と謙遜したうえで、編集者の仕事を残していくためにこんなことが必要だと話してくれた。
「編集の仕事には本来、企画立案や進行管理など、さまざまな仕事があります。出版社や編プロであれば、そうした費用が発生することも理解されやすい。しかし個人の編集者となればそうもいきません。でも『それだけの仕事をしているんだ』と、私たちは主張していかなければ。たった一文字の誤植が出ただけで、たいへんな事態になることもあります。どんな出版物でも多少の間違いはつきものなのですが、それで大変なことが起こってしまわないようにするため、ものをいうのが編集者の経験や知見だと思います」。
現に「フリーランスの編集の仕事は単価が安いから」と、編集者がライターになるケースも多く、宮崎さんは「編集が生業として成り立たないとしたらそれはとても残念」と話す。
こまめに合意を得てこそ編集はうまく回る
現在の宮崎さんは1人の編集者として著者との本づくりに携わることもあるが、企画や本のボリュームによって、デザイナー、ライター、カメラマンなどを集め、チームになって制作を進めることが多い。「編集者は人を束ねたときの中核。彼らとともに最終段階まで仕事に携われるのが醍醐味で、制作部隊と密接に絡むことのできるから、仕事はとてもやりやすい」。
一方、出版社や発行元との関係を構築するうえでは、情報共有を大事にしている。
「以前は、原稿やゲラなどを完成させた状態で”ぎりぎり”になって見せたりしていましたが、今はデジタル時代。だからこそできるだけ”ちょくちょく”見せる。そうすることで、現時点での問題点が共有でき、よいフィニッシュを迎えられますね」。そんな仕事の進め方も編集者の腕の見せどころといえるだろう。いわば宮崎さんは「人」「品質」「スケジュール」の調整役。そこで編集者の存在意義を存分に見せつけ、関係者の信頼を得ているのだ。