税理士に聞く!課税売上高1000万円以下の免税事業者の消費税対策

いよいよ8%に引き上げられる消費税率。そこで、スモールビジネス事業者が行うべき対策を3回にわたって東京・渋谷のアトラス総合事務所 代表パートナーの井上 修氏(公認会計士・税理士・行政書士)にアドバイスしていただきました。第2回は、「課税売上高1,000万円以下の免税事業者の対策」について解説していただきます。
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目次
免税業者も8%増税を機に取引先に消費税を請求すべき
売上1,000万円以下の免税事業者の場合、請求時に消費税を上乗せしていないケースが多く見受けられます。こうしたことは取引先との力関係の面もあり、法律的には、お互いが納得すれば合法だと言うこともできます。しかし、たとえ免税事業者であっても仕入れや交通費をはじめ、事務所の家賃や光熱費、通信費などにも消費税は上乗せされ、今回の消費税率アップによってそれらの支払い分は確実に増えていきます。そこで、私たちの事務所では顧問先である免税事業者に向けて、「消費税はぜひ上乗せして請求してください」と指導しています。
そもそも消費税法では、免税事業者は消費税を上乗せして請求してはいけないとは一切明記されていません。得意先にはなかなか切り出しにくいかもしれませんが、今回の8%への税率アップを機会に消費税を上乗せできるように交渉してみてはいかがでしょうか?あまり強気に主張すると相手を不快にさせる 可能性もあるので、「一度経理担当者と相談してもらえませんか?」と、社内の税務の専門家と話してもらえたら、理解してもらえるかもしれません。それ以前に、自分から言わない限り相手は知りようがないわけですから、免税事業者だということをわからないようにしておくこともポイントです。
課税売上高1,000万円を超えないがメリットは大きい
年間の課税売上高1,000万円を1円でも超えると、課税事業者に該当し、その翌々年から消費税を納付しなければなりません。そのため、課税売上高1,000万円を超えないようにすることが節税につながりますし、納付にかかわる事務負担も軽減されるのでそれだけ業務に集中できるというメリットもあります。
以前は開業後2年間にわたって消費税が免税される特権を活かして、年間売上1,000万円を超えそうになると、法人化したり、個人事業主に戻ったりを繰り返している人もいました。しかし、現在では、前回説明したように開業2年目の免税適用条件が厳しくなったので、こうした方法も難しくなっています。その他、課税売上高1,000万円を超えないようにするには、販売部門は個人、コンサル部門は法人化するなど事業を分割して運営したり、奥さんを共同事業者にして2人が別々に申告したりするといった方法も考えられるかもしれませんね。
多額の設備投資をした場合など、課税事業者を選択したほうがよいケースもある
業種によっては課税事業者を選択した方が節税になるケースもあります。それは具体的には以下のようなケースです。
● 設立初年度で、売上があまり計上されず経費の支払いがかさんだ。
● 多額の設備投資を行ったり、不動産を購入したりした。
● 輸出業を営んでいて、売上は免税取引になっている。
消費税は、売上に上乗せする消費税から仕入や経費にかかる消費税を差し引いて、納付します。そのため、例えば、飲食店を新規開業して改装費用や備品購入などに多額の設備投資が発生した場合は、課税事業者を選んだ方がよいかもしれません。また、車などの輸出業を営んでいる場合は、海外取引では日本国内の消費税が適用されず、仕入にかかる消費税が100%還付されるので、課税事業者を選択した方が有利です。
次回は、課税事業者の消費税8%対策について述べたいと思います。
税理士に聞く!消費税8%対策
第1回「意外と知られていない消費税のしくみを再確認」
第3回「課税売上高1,000万円超の課税事業者の対策」
(*)課税売上高とは、消費税がかかる売上高の事です。たとえば、みなさんの売上高から、不課税取引(配当金、保険金、損害賠償金、寄附金、お祝金、香典、税金の還付金、補助金、敷金返却分の受取など)と非課税売上(土地、切手・商品券・プリペイドカード・有価証券の売却、利息の受取、賃貸期間1ヶ月以上の居住用家屋の賃貸料・礼金・更新料収入など)を除いた金額がそれにあたります。詳しくは、国税庁ホームページでご確認ください。
- 井上 修いのうえ おさむ
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公認会計士、税理士、行政書士。昭和32年東京都生まれ。アーサーヤング公認会計士共同事務所、興亜監査
法人、山田公認会計士事務所、岩下敏男税理士事務所を経て平成3年に独立開業し、井上公認会計士事務所を開設。さらに平
成17年に公認会計士、税理士、社会保険労務士、司法書士、行政書士登録がひとつになったアトラス総合事務所を東京・渋谷に開設。