労働保険の年度更新とは?手続きと計算方法を解説
労働保険の申告は、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間として、年に1度行う大切なイベントです。この記事では、建設業以外の一般企業の年度更新について、基本部分を説明します。
2022年度(令和4年度)の雇用保険の保険料率は、 法改正により、2段階で引き上げられることになりました。2022年の「労働保険の年度更新」は、例年と異なるので、注意が必要です。こちらについても解説していきます。
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目次
労働保険の年度更新とは
労働保険料(労災保険料と雇用保険料)を年度単位で申告し、納付することを労働保険の年度更新と言います。
毎年6月頃に労働局から送られてくる緑色の封筒には、請求書ではなく申告書が入っています。企業が自ら計算して申告するのです。
申告書は、毎年6月1日~7月10日に労働基準監督署などへ提出します。2022年度の労働保険の年度更新期間は、2022年6月1日(水)~7月11日(月)です。緑色の封筒が届いたら、早めに封筒をあけて、申告準備をしましょう。

それでは、労働保険料はどのように計算するのでしょう。具体例を挙げながら考えてみましょう。
具体例)
印刷業のA社は従業員が10人、前年度の1年度間の賃金総額が30,000千円です。10人のうち8人が雇用保険に加入しており、その賃金総額は24,000千円です。
また、今年度の賃金総額も大幅な変更は無い見込みです。
労災保険料の計算
労災保険料は以下の計算式で求めます。
(1)確定保険料
労災保険加入者に前年度実際に支払った賃金額 × 前年度の労災保険率 = 労災保険料
(2)概算保険料
労災保険加入者に今年度支払う賃金見込額 × 今年度の労災保険率 = 労災保険料
賃金見込額は、前年度と比較して2分の1以上2倍以下の場合は、前年度賃金額と同額にしてください。
①労災保険加入者の賃金について
労災保険はお勤めの方であれば正社員だけでなく、パート、アルバイトも対象ですから、この場合従業員10人全員が労災保険加入者となります。
②労災保険料率について
労災保険料率は事業の種類によって異なります。印刷業は3.5/1,000です(2022年度)。なお、2021年度と料率の変更はありません。
【参考】厚生労働省:労災保険料率
したがって、A社の労災保険料は以下のように計算できます。
(1)2021年度確定保険料
30,000千円 × 3.5/1,000 = 105,000円
(2)2022年度概算保険料
30,000千円 × 3.5/1,000 = 105,000円
雇用保険料の計算
雇用保険料は以下の計算式で求めます。
(1)確定保険料
雇用保険加入者に前年度実際に支払った賃金額 × 前年度の雇用保険率 = 雇用保険料
(2)概算保険料
雇用保険加入者に今年度支払う賃金見込額 × 今年度の雇用保険率 = 雇用保険料
賃金見込額は、前年度と比較して2分の1以上2倍以下の場合は、前年度賃金額と同額にしてください。
①雇用保険加入者の賃金について
雇用保険は正社員の方はみな加入できますが、パートやアルバイトの方には一定の加入要件があります。
次の (1) 及び (2) のいずれにも該当するときは、雇用保険の被保険者となります。事業主は必ず「雇用保険被保険者資格取得届」(以下「資格取得届」と記載)を事業所の所在地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)に、被保険者となった日の属する月の翌月 10 日までに提出します。
(1)31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であること。次のいずれかに該当する場合をいいます。
・期間の定めがなく雇用される場合
・雇用期間が31日以上である場合
・雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇止めの明示がない場合
・雇用契約に更新規定はないが同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合 (※)
(※)当初の雇入時には31日以上雇用されることが見込まれない場合で、その後、31日以上雇用されることが見込まれることになった場合には、その時点から雇用保険が適用されます。
(2)1週間の所定労働時間が 20 時間以上であること。
【令和4年度は2段階引き上げ!】②雇用保険料率について
雇用保険料率は事業の種類によって異なります。今回、2022年度(令和4年度)の雇用保険の保険料率の改正については、例年にも増して注意すべき点があります。2022年度(令和4年度)の雇用保険の保険料率は、 法改正により、2段階で引き上げられることになりました。
ポイントは、以下の3つ
・2022年4月から、事業主負担の保険料率が変更(1000分の 0.5引き上げ)
・2022年10月から、労働者負担・事業主負担の保険料率が変更(各々1000分の2引き上げ)
・年度の途中から保険料率が変更
なお、緑の封筒で事業所に送付されてくる申告書には雇用保険料率の印字はありません。同封の「確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表」の下部に雇用保険料の計算欄があるので、必ず、確認してください。

そして、2022年度(令和4年度)の年度更新における雇用保険分の概算保険料については、2022年(令和4年)4月から同年9月までの概算保険料額と2022年(令和4年)10 月から2023年(令和5年)3月までの概算保険料額をそれぞれ計算し、その合計額を、雇用保険分の概算保険料として申告・納付します。
赤字が変更部分です。
2022年度の雇用保険の保険料率と負担の内訳(2022年4月~同年9月)

2022年度の雇用保険の保険料率と負担の内訳(2022年10月~翌年3月)

したがって、A社の雇用保険料は以下のように計算できます。
(1)2021年度確定保険料
24,000千円 × 9/1,000 = 216,000円
(2)2022年度概算保険料
①2021年4月1日~2021年9月30日:12,000千円 × 9.5/1,000 = 114,000円
②2021年10月1日~2022年3月31日:12,000千円 × 13.5/1,000 = 162,000円
①+②=276,000円
手続きに不安がある場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。
なお、労災保険の保険率は、全額事業主負担です。業種に応じて定められていますが、メリット制の適用がない限り、前年度と同率に据え置くこととされました。

労働保険の年度更新は、電子申請・電子納付が便利
電子申請
2020年(令和2年)4月から、資本金等の額が1億円を超える特定の法人などは、電子申請の義務化が始まっています。これは、政府全体で行政手続きに要する事業者の作業時間やコストを削減するため、電子申請の利用促進をはかっているためです。電子申請の流れは、今後も対象が広がっていくと思われます。
労働保険に関する申請や届出も同様に、書面での手続もできますが、電子申請でインターネットを使用して自宅やオフィス、社労士事務所から、24時間いつでも申請や届出がカンタン・便利にできるのです。
【参考】厚生労働省:労働保険は電子申請
電子納付
労働保険料を納付する際は、窓口での納付する方法以外に電子納付サービスが使用できます。電子納付サービスなら、自宅や会社から労働保険料を納めることが可能です。
もちろん、金融機関や郵便局の窓口で納付することもできますので、電子納付サービスをご利用にならない場合は、最寄りの窓口を利用しましょう。
労働保険料の分割払い
1年度分の労働保険料を一括支払いするのは企業にとって難しい場合もあります。そんな時は「延納」の申請をしましょう。要件を満たせば3回の分割支払いができます。
詳しくはこちらのP.4 をご覧ください。
まとめ
労働保険の年度更新で申告書を記入する前に、労働保険料の計算のしかたをしっかり把握しておきましょう。
【関連記事】労働保険とは?制度と年度更新について解説
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知っておきたい基礎知識|雇用と給与|まとめINDEX
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- 従業員を雇用するときに準備する必要書類
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- 労働保険の手続き
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- 算定基礎届・月額変更届とは?
- 給与の源泉徴収と源泉所得税納付の手続き
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- 給与計算のための就業規則・給与規程のポイント
- 給与計算・給与明細書の作成前に準備すること
- 給与計算での支給項目と非課税扱いになる手当
- 給与計算での「社会保険料」の計算
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- 給与計算での源泉所得税の計算方法
- 給与での支給額の算出方法と給与計算後の納付事務
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- 「解雇」とはなにか? 禁止事項と基本的なルール
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- 妊娠・出産・育児・介護に関する「休業」と必要な手続き